18「神野」
植物は、抵抗をやめた。
会話をする体制に入ったのを、一輝は感じ取る。
「植物よ。この結界を解いて貰おう。」
結界が解かれた。
やっと桜身達が、植物が発する光の周りに集まれた。
一輝が集まったのを確認すると。
「さて、植物というと、とても大変だ。名前があれば、教えて欲しい。」
すると、植物は、自分の光を丸形から、人型へと変化させる。
変化した姿は、桜身にそっくりであった。
「やはり、その姿になったか。」
一輝は、人型に変化させるなら、桜身だろうと想像していた。
漫画やゲームをしていなかった一輝は、きっと、この姿すら想像出来なかっただろう。
その知識があったからこそ、この展開は自分が思い浮かべた結果となっていた。
「名前は、ありません。」
桜身の姿になった植物は、初めて声を出した。
「君の声は、君の中にいた時、俺は聞こえていた。」
秀がいうと。
「ええ、貴方に人間を説得して貰おうと、働きかけていたからです。」
「でも、実際には、俺は拒み続けた。」
「はい。ですので、貴方の記憶をいじり、意識を失くさせました。」
一輝は、二人の会話を訊くだけで、あの光の中では、どんな展開になっていたのかを想像した。
きっと、秀は、取り入れられないように、必死で桜身を思い続けて、耐えていたのだろう。
「なら、付けてやる。母さんの姿をしているなら、それなりの名前にしてやろう。」
なんて名付けるのか。
とても、ワクワクしていたが、一輝の口から出たのは。
「ツタ。ツタで。」
「ツタ?」
「そうだ。俺にとっては、ツタが印象的だ。漢字で書くと、カタカナのイに、二にムの伝だ。」
「伝。」
「そうだ。ツタが、これから、他の植物達に伝えろ。俺達、人間は、確かに、ゴミをするし、切られたくない樹を切る事もあるし、自然を守るとかいっても、それは自己満足のエゴかもしれん。しかし、そんな人間ばかりではなく、ちゃんと分かろうとして、研究し、見て、触れて、失くそうという運動をする人もいる。そこの所を、ツタから伝えて欲しい。」
一輝は、今までの勉強で、社会や理科、はたまた、色々な経験と見学を経て、植物と人間の関係性を、考えて来たつもりだ。
「でも、それでも、人間は。」
ツタは、憎む気持ちが消えていない。
少し静かになる、この場。
すると、静かに風が吹いて来た。
風は、とても優しく、吹いていて、一輝の頬を撫でると、その一輝の頭には白い花が、フワリと止まった。
白い花は、あの時、屋敷の植物があるドームで見たのと、同じ花だ。
あの花達は、とても嬉しそうに優しく咲いていた。
桜身が毎日世話をして、話しかけて、大切にしていた。
その花を、ツタの前に出す。
ツタは、花を受け取ると、急に、泣き出した。
「ツタ。」
一輝が、ポケットの中からハンカチを出して差し出すと。
「この、花が教えてくれました。桜身さんは、とても、いい人だと。」
「ツタ。」
「そんな桜身さんだからこそ、秀さんも一輝さんも、一緒にいるんですね。」
すると、ツタはハンカチを使い、涙を拭く。
「でも、私一人では難しいです。」
「なら、俺が一緒なのはどうだ?」
一輝は、スラっと出ていた。
「一輝。」
話を訊いていた桜身が、一輝の名前を呼ぶと。
「いいんだ。母さん。目的は、果たせたし、俺は、高校を卒業して、社会人になりました。もう、親離れをするのも、いい機会です。それに、母さんには、父さんがいるでしょう。この十八年間を埋めなくては。」
「でも、私は、一輝と一緒に。」
「母さんも、子離れしてください。」
桜身は納得出来ない顔をさせた。
すると、山倉は、支えていた桜身を、秀に渡す。
秀は、谷に支えられていたが、桜身を渡された瞬間に、自分の足で立って桜身を支えられた。
「さあ、もう、いいでしょう。一輝は、自分の足で立って、歩き始めました。桜身様、貴方も秀様と一緒に歩むべきです。」
「山倉。」
「それに、俺は、確かに、桜身様を好きでした。でも、秀様がいるなら、この思いは次第に消えていくでしょう。それに、気づきました。俺は、一輝を守りたいと。」
山倉は、一輝の肩に手を置き。
「一輝には、俺がいます。安心して、桜身様は、秀様と埋めてください。」
「山倉さん。」
一輝は、山倉の言葉なら信じられる。
そう、一輝にとっては、山倉は、本当に理想の父親で、でも、今まで教えてもらった事を思い出すと、師匠でもあった。
父親であり師匠でもある。
そんな山倉が傍にいてくれるなら、一輝は、また、強くなるだろう。
それに、山倉がいるって事は、谷もいる。
あの屋敷では、山倉と谷は、とても仲の良い親友だと、過ごしている間に情報として訊いた。
二人は、一緒に歩んでいく仲だ。
その一人、山倉が、一輝の傍にいるとなる。
「仕方ないわね。もっと、一輝の傍にいたかったけれど、子離れの時期なのね。」
「母さん。」
一輝は、自分で親離れ、子離れとか言っていたが、内心、少し寂しい。
そんな感情を見せずに、秀に向く。
秀は、いきなり向けられた視線に、少しだけ怖がっていた。
「父さん、そんなに怖がらないでくれ。俺は、父さんとも、話しをしたいんだ。これからは、十八年、俺との親子としての時間も埋めてもらうから、覚悟してくれ。」
「そ……そうだな。楽しみにしている。」
そんな様子を見ていたツタは、小さな光となっていた。
大きさは、ビー玉位である。
周りは白く、中は黒い。
「私は、普段、この姿になっています。もし、説得する植物がいれば、また、桜身さんの姿を借りて、話しをしたいと思います。」
一輝は、その光を片手に乗せると。
「ツタ。お前、本当は、桜身が好きだろう?」
「何を。」
「状況を整理すると、それしか思わないんだよ。」
一輝は、状況を話す。
桜身が地を触り、説得をして、あれた地を復活させる。
その桜身を、秀が、周りの攻撃から守る。
本当は、その逆がいいと見解されて、これからそうするつもりだが、もしも、桜身があれた地に魅入られてしまって、囚われてしまったらと考えたツタは、秀を使い「こんな事になるかもしれないから、気をつけて。」と注意だったんだろう。
そして、秀を取り込んだツタは、秀に人間の醜さを話したが、秀が拒み続けたから、このような事態になってしまい、十八年間も経ってしまった。
植物に対しては、十八年は短いかもしれないが、人間にとっては、子供でいられる期間である。
「だから、桜身の姿になったのだろう?とても、愛おしかったから。」
「一輝の言う通りよ。」
「まあ、人は、コスプレする事で、その人に近づいた感じなるから、それと同じだろうな。」
すると、谷が噴き出した。
「コスプレって、一輝。」
その笑い声に、山倉も笑い、桜身も秀も笑った。
一輝は、何か解せない顔をしていたが、ツタも一輝の言葉には笑った。
このあれた地は、まだ、荒れているが、それでも、笑いで包まれていた。
屋敷に戻って、神野に報告をすると。
「それは、許可出来ない。一輝を連れて行くなどと。」
神野は、水を飲みながら、山倉と桜身に言った。
秀は、神野と連携している病院に入院して、検査と休養をしている。
その秀に付き添っているのは、谷である。
神野は、一輝を傍に呼ぶと、一輝の手を握って。
「一輝は、わしの補佐として、仕事を与えようとしたのじゃ。もう、決めているんじゃ。」
神野は、とても一輝を気に入っていて、自分の傍に置こうとしていた。
一輝も神野は、惹かれる何かがあり、それもいいかな?って思っていた。
しかし、一輝を気に入った、ツタもいて、一輝の取り合いとなっていた。
「でも、一輝がいれば、あれた地は、浄化できるかもしれないのです。パスポートを取らせて、海外へも手を伸ばせば、地球のあれた地は無くなるかもしれないのです。」
「だとしても、一輝一人には、荷が重すぎる。桜身と秀は、使命を受けているのじゃ。二人がやればいい。資金や、あれた地は、こちらでこれまで通り、出してやる。」
神野の腕は、とても細く、力ない。
一輝なら、振りほどけるだろうが、それをしなかった。
確かに、ツタと一輝があれた地に出向いて、話をして、その地を桜身と秀が浄化すれば、植物は復活できる。
「神野様、山倉の私が一輝についていきます。命に代えても、守って見せます。ですので、どうか、一輝をあれた地への説得に。」
「ならん!一輝は、わしの傍にいてもらう。」
一輝は、話を聞いていて、言葉を出していいのか、わからなかったが、これは、自分の気持ちや考えを話さないと、先に進まないと思い、神野の手を両手で包みこみ、膝をついて、神野と話が出来る体制になった。
一輝が、動いたから、今まで話をしていた、山倉と桜身は、話を止める。
「神野さん。俺は、山倉さん達と一緒に、あれた地に、また、植物をよみがえらせたい。でも、神野さんの傍にもいたいのです。」
「一輝。」
「その方法として、一番いいのは、桜身と秀の血を、関係が近しい人に、与えるのはどうでしょうか?」
「血を、とな。」
「はい。」
一輝は、自分の仮説を神野に話す。
「この力は、桜身と秀だけの能力を得たのには、きっかけが必要です。あれた地の浄化能力があって、赤ちゃんの頃に何かのトラブルがあり、能力に目覚めて、話が出来る頃に、神野様に話されたなら、それは、とても大切なことです。神野様、桜身にも秀にも、話されていない事ありますよね?」
神野は、一輝の真っ直ぐに見る顔に、観念して、話す。
「あれは、桜身と秀を、この屋敷に呼ぶ前の出来事である。」
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