14「訓練」

冬休み初日。


桜身が出かけたのを確認すると、一輝も屋敷へと向かう。

掃除だと訊いていたから、ジャージにした。


そういえば、裏口でいいのか?と思い、いつも通りに裏口に回ると、門番がいて、中へといれてくれた。

どうやら、もう、ここが出入り口でいいらしい。


いつも通りに、山倉が出迎えたが、いつもの雰囲気ではなかった。

空気が重苦しかった。


「清水一輝。今から、屋敷の当主に合わせる。失礼の無いように。」

「あ、はい。」


屋敷を案内されると、出会う人出会う人の顔と雰囲気が、重苦しい。

一つの扉に案内される。

扉は、とても大きくて、装飾も今まで見た部屋の扉よりも、豪華であった。


「清水一輝をお連れしました。」


扉が自動的に開いて、一輝を中へと入れると、山倉は部屋から出た。

この部屋は、壁も床も天井も全てが豪華で、いるだけでも緊張が走る。

部屋の奥にベッドがあり、そこにいる人が声を出す。


「清水桜身の息子、一輝か。」

「はい。」

「近くに来てくれんか。」


一輝は、言葉通り近くに寄り、ベッドの横に来ると、当主は一輝を見るなり。


「本当に、秀に似ている。」

「秀、俺の父ですね。」

「そうじゃ。とても、大切にしていたんじゃがな。」


少しだけ懐かしい顔をして、一輝に説明を始める。


「わしは、この屋敷の当主、神野宮治かみのみやじじゃ。この通り、身体が不自由ですまない。」

「いいえ。」

「これから話す内容に、一輝よ。きっと、耐えきれないと思うのじゃが、心して聞いて欲しい。」

「はい。」





「わしは、ある時、二人の赤ちゃんを施設から授かった。それが、秀と桜身じゃ。二人は、とても仲良くて、最終的には結婚までし、子供も授かった。じゃが、二人には、生まれ持った仕事があった。それが、荒れ果てた地の復活じゃ。」


一輝は、大人しく話を訊く。

神野は、喉を潤すために、水を飲みながら、話をする。


「荒れ果てた地とは、人間が薬品やゴミで地から植物が生えなくなる位までになった地で、二人の力が合わされば、浄化出来るという能力を持っていた。わしは、そんな地を知っていたから、世界中に広まる地に案内した。」


また、水を飲む。


「わしがその使命を知ったのは、二人を授かってから、幼稚園に通い出してからじゃ。話しが出来る年齢になると、急に、二人は自分の使命を言い出し、荒れた地へと案内して欲しいと言い出してきて、調べて、案内をすると、桜身が地に触れている間、秀が桜身を護る形になっていた。そんな日々を過ごして、小学、中学、高校、大学を、多少の怪我や病気があったとしても、元気に無事に過ごせていた。だが、大学を卒業して、五年経った時、秀とようやく結婚して、一年も経たない内に、子供が出来た。わしは、もちろんの事、この屋敷の仕事をしてくれる人達も喜んで、祝った。結婚した時に、屋敷を出て二人で暮らし始めていた。」


また、水を飲もうとするが、手が震えていた。

一輝は、失礼といいながら、手を貸すと、神野はすまないといい、手助けされて水を飲んだ。


「結婚して、出産してからの使命で、荒れた地へと向かった時に、事件は起こった。同じく、地に桜身が触れた時、この地に今まで咲いていた植物の怨念が残っていて、攻撃されてしまった。たまたま、そういうのがあったが、今回の土地は、とても強く、秀では防ぎきれなかった。秀は、怨念に囲い込まれ、いなくなってしまった。本当に、言葉通りに、地からいなくなってしまった。代わりに出来ていたのが、周りが白く、中央が黒い光じゃった。」


一輝は、言葉を出していいのかわからなかったが。


「その話を俺に訊かせて、どうして欲しいのですか?」


訊いていた。


「わしは、一輝に希望を見出している。周りは、秀は亡くなったと認識しているが、わしは……桜身もじゃが、あの光の中に取り込まれていると思っておる。桜身は、その光に出向いていて、接触を試みているのじゃが、出来ないままじゃ。このままじゃ、秀がいないから、地球上にある荒れた地が浄化出来ずに放置状態になる。そうなれば、いずれは、全てを飲み込み、地球全部が荒れた地になり、生きとし生けるモノ全てが命を落とすじゃろう。」


少しだけ、間があり。


「桜身は、その地に踏み入れる時には、山倉や谷といったボディーガードを連れているが、初めは入れなかった。色々と研究をしている時に分かった事じゃが、桜身に似ていないと入れないと分かったらしく、桜身の情報を取り入れると、踏み入れられたようじゃ。」

「なるほど、それで、基本情報が必要ということですか。」


一輝は、今までの知識が、何の為に必要か、わかった。

言われた地は、桜身以外は受け付けないとなると、桜身のコピーなら入れるだろうと思うのは、不思議ではない。


「一輝よ。これからじゃが、桜身と一緒に、その地へと出向いてくれんか?もしかすると、秀を助け出せるかもしれんのじゃ。」

「少し考えさせてください。」

「いいが、時間がないんじゃ、報告によると、その地の力を貰って、怒っている植物が同意して、力を増しているんじゃ。」

「そんなにですか。」

「そんなにじゃ。」


一輝は、今すぐに覚悟を決めなくてはいけない状態であるのを、神野の言葉から感じた。

目を瞑り、考える。


これまでの情報を頭で整理をして、目を開ける。


「わかりました。覚悟が決まりました。」

「ありがとう。早速じゃが、訓練を開始しなくてはならない。」

「訓練?」

「植物達の攻撃は、とても強く、色々な武器を扱わなければならない。」

「武器?まさか、銃とか。」

「いいや、除草剤や草木の毒になる道具の扱いじゃ。山倉に教えてもらうといい。」


神野は、ベッドの横にあるボタンがいっぱいついている機械を使い、ボタンを押すと、山倉が入って来た。


「山倉、一輝に武器の使い方を教えてやってくれ。」

「は。」


一輝を山倉に任せる。

一輝は、部屋を去る前に神野を見て、微笑むと、部屋を出た。

神野は、その笑顔に希望が見えたと、後に語っている。





「理解したか?」


山倉は、一輝の部屋に来て、一輝は一言。


「理解した。そして、覚悟も決めた。」


すると、山倉は、一息吐いて。


「そうか……これから、武器の扱い方、自分の身体の守り方、そして、桜身様の守り方を教える。」

「よろしく頼む。」


山倉は、床に腰を下ろした。

力が抜け落ちたという表現が正しいだろう。


「山倉さん?」

「一輝が真実を知るのは、阻止したかった。子供らしく、成長してほしいと思っていた。」

「山倉さん。」

「だけど、もう、進んでしまった。」

「戻るなんて出来ませんよ。」

「そうだな。」


一輝は、山倉に手を差し伸べる。

その手を、素直に山倉は取り、立つ。


「なら、今日から、訓練開始だ。」

「お願いします。」


冬休み中は、訓練をした。

体を使うのは好きだからいいが、攻撃されて逃げるのは、違う体力を使っていると感じる。


卒業するまでの間、桜身の情報が入れば更新し、桜身をより近くにいる為に、色々と話しをした。

屋敷にいって、あらゆる攻撃にも対処できるように訓練した。

訓練していくと、目つきが変わってくる。


子供らしい顔が、順番に頼もしい大人へと変化する。

急に、大人へと変化したから、桜身が驚いていた。


「なんだか、体つきと目つきが変わってきたわね。」

「そう?」

「そうよ。なんか、頼りになる感じがする。」


すると、一輝は桜身を見て「母さんの為にがんばっているんだ」と言いたかったが、言えなかった。



冬休みが終わり、桜身の誕生日。

一輝は、朝から起きて、桜身の為に弁当を作った。

これが初めての弁当作りである。


「母さん、誕生日おめでとう。」

「まあ、今日、朝ご飯作ってくれたのね。」

「それと、弁当も作ったから、持って行ってくれ。」

「一輝のお弁当。初めてじゃない、嬉しいわ。でも、お弁当箱なんてあったかしら?」

「ネットで買った。」

「まさか、これがプレゼント?」


桜身は、弁当箱を持ってみると。


「これもだけど、他にあるから、今日、無事に帰ってきてな。」

「無事って何よ。」

「前、怪我して帰ってきたからな。急いで帰ってこなくていいよって事。」

「分かったわ。」


桜身の顔は、とても笑顔であった。

朝ご飯を作って食べて、片づけも一輝がやった。

桜身が仕事に行くと、一輝も自分の弁当を持って学校へいく。


学校で授業を受けて、急いで帰る。

帰った後、早速、ケーキ作りをした。

ネットで買ったのは、初心者に優しいケーキレシピであった。

所要時間四十分と書いてあり、学校から帰って来て、直ぐに始めれば、桜身が帰ってくる頃には、丁度よい位、出来立てが食べれるのである。


ケーキの材料を買って作る。

お菓子は、分量を適当に出来ないから、精神を使う。

レシピは、何度も読み込んで、イメージトレーニングをしてきたから、思い通りに出来た。

ケーキのスポンジ部分をオーブンで焼いている間に、お風呂を洗い湯を張り、夕ご飯の用意をしていた。

少し経つとオーブンから音が鳴り、見るととてもおいしそうに焼けていた。


半分に切った後、少し冷ますと、生クリームとイチゴを用意して、デコレーションをしていくと、出来た。

何とかいちごのショートケーキに見えた。


「はー、こんなにケーキって大変なんだな。」


それを、毎年、用意してくれていたと思うと、桜身に感謝しかない。

とても嬉しくて、早く帰ってこないかなって思い、台所の椅子に座って待っていると、帰ってくる音が聞こえてきた。


「ただいま、一輝。」

「おかえり、母さん。」


桜身は早速、居間に行くと、ケーキと夕ご飯のカレーが出来ていた。


「まあ、このケーキ。一輝の手作り?」

「まあな。ネットでこの本を購入して、作った。」


本を見せると。


「ねえ、この本、貰っていい?」

「え、いいけど。」

「弁当もケーキもだけど、食べたらなくなるの。でも、本や弁当箱は無くならないわ。形になるものが欲しかったの。」

「そうか。」


桜身は、手を洗って、椅子に座る。

一輝は、カレーをどんぶりに盛り、ケーキを切って皿に移した。


「では、いただきます。」


桜身はいうと。


「母さん、誕生日おめでとう。俺が、十八歳になるまで、育ててくれてありがとう。これからも貴方の息子でいさせてください。」


すると、桜身は、急に涙が浮かんできて、泣いた。


「ちょっと、食べられなくなるじゃない。」

「いきなりすぎたか?すまん。」

「ううん。本当に、大きくなったのね。なんか、嬉しいようで、寂しいわ。」

「でも、貴方の息子なのは、変わらないよ。」


ティッシュを出すと、桜身は眼鏡を外して、目の涙と鼻水を処理した。


「さ、食べてよ。」

「うん。」


桜身と一輝は、お互いに話しをしながら、色々と話しをした。

内容は、クレジットカードで買い物をする話になった。


「ネットで買い物をしたんだが、住所を入力する所から緊張してな。その後、支払方法を訊いてくるだろ?クレジットカードを選択して、番号や名前を入力する所で、また緊張して、ちゃんと合っているか、何度も見直して、やっと終わったと思ったら、今度はセキュアコード?裏の三桁の数字を入れる所で、この数字でいいのかと思ってな。キーを押す度に、何度も確認した。」

「そうね。私も初めての時は、緊張した覚えがあるわ。」

「で、その後だ。配達時間と日にちを指定画面が出て来たから、土曜日ならいるから、土曜日に選択して、時間も午前中にしたんだ。その日は、ドキドキしながら、待っていたんだ。配達員が来て、とても、感謝をしたよ。でね……。」


一生懸命、その時の状態を話す一輝を見て、桜身は微笑んでいる。

その微笑みには、クレジットカードを持って、最初にネット通販を利用した自分との比較なのだろうか、すごく優しい微笑みに見えた。


この日は、一輝も桜身も風呂に入った後、少し話をして、それぞれの部屋へと行く。

一輝は、桜身の部屋に耳を当てると、楽しそうにしている音が聞こえてきた。

ベッドに入るのと、本をめくる音が聞こえる。

きっと、レシピ本を見ているのだろう。


その音を聞くと「今日は、寂しくないだろう」と思い、一輝はほほ笑んだ。

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