12「始動」
お盆最終日に、桜身は自分の部屋から服を持ち出して、居間に広げていた。
理由を訊くと、昨日、帰ってきた時にポストに。
九月一日から九月七日まで、市民体育館にて、服のバザーを開きます。
その服を集めています。
一家庭一袋でいいので、状態が良い服(糸が出ていないか、ボタンがとれかけていないか、汚れていないか等)を入れて、市民体育館管理課まで持って来てください。
また、この付近にある中学、高校の制服がありましたら、来年の子供達の為にお願いします。
とのチラシが入っており、袋も用意されていた。
「この日しか、やれないから。ほら、私、明日から仕事で、日曜日位しか休めないし、昨日みたいにトラブルあっても困るし。」
「そうだな。」
「一輝もいらない服あったら出してよ。こういうバザーって、男性物、少ないのよ。」
「分かった。」
一輝は、自分の部屋にあるクローゼットから、服を見ると、着ていないが綺麗な服が数点あった。
それらを出して、居間にいる桜身に出す。
桜身は、一輝から受け取ると、一通り見て、無事だと確認が済むと、畳み始めた。
一輝は、桜身が出した服の中に、見慣れた服があるのを確認する。
あれは、桜身が小学六年生の卒業式に着ていた服だ。
一輝は思い出していた。
自動車の免許を取っている時。
一輝は、三城と二人部屋になった。
だから、ゲームも筆記もお互いに教え合って、進んでいた。
三城は、人のスマートフォンとかゲームとか、そういう作業をしている時には、中身を見ない人だったから、小型のノートパソコンを広げていても、安心出来た。
こちらが見てくれと言わない限りは、見てこない。
小型のノートパソコンは、山倉から借りた物だ。
自動車の免許を取る前に、屋敷に出向いて、二週間は来れないのを伝えに行った時である。
「そうか。自動車の免許を泊りでね。」
「その時に、このUSBの中身を確認したいから、小型のノートパソコンはないか?」
「そうだね。一輝が持っているノートパソコンは、大きいから。」
「なんで知っているのかは、もう、諦めたから突っ込まないぞ。」
すると、山倉は一輝の部屋から出て、五分位したら戻ってきた。
本当に小型のノートパソコンを持って来た。
「ここが電源で、この突起がマウスの代わりになる。USBは、ここに差し込める。ただ、このパソコンの欠点は、使っていると、普段のノートパソコンより、早く熱くなる。だから、時々、休ませる必要がある。」
「ほほう。分かった。」
一輝は、小型のノートパソコンを電源毎借りると、早速、家について、USBメモリーの中身を移した。
自動車の免許で、部屋での生活は、小型のノートパソコンを冷やしている間に、三城と一緒に学科の勉強やゲームをして、過ごしていたから、充実した日々になった。
それを思い出しながら、服の整理を手伝っている。
この卒業式の服を着た桜身は、とても可愛かった。
桜身の最初にあった写真は、赤ちゃんの時で保育器にいれられていた。
その時から可愛く、順番に育っていくのを見ると、とても嬉しかった。
しかし、見ていくと、気づいた事があった。
それは、一人で写っている写真はいいが、皆で写っている写真には、必ずといっていいほど、一人の男がいた。
その男の成長も見ると、中学位で誰か分かった。
そう、一輝の父親である。
赤ちゃんの時、保育器に入れられている写真を見ると、横にも一人いた。
その時である。
山倉からの言葉で「天涯孤独」が、響いてきた。
そこから考えると。
桜身と秀は、何かの事件に巻き込まれて、赤ちゃんの時、一緒に病院へと運ばれてきた。
それから施設?に入り、一緒に暮らしてきた。
兄妹のようで、恋人のようで、同士のようで、親友のような関係。
そんな気配を、写真を見ていると感じた。
服を畳んでいる桜身を見ると、そんな過去があるのには見えない。
「一輝、手が止まっているよ。」
「あ、ああ。」
「何見ていたの?って、この服?この服ね。私が小学卒業式の時に、一回だけ着た服なんだ。どの服がいいって訊かれてね。一目でこれって決めたの。」
「そうなんだ。」
「でね。チラシには子供達の為にって書いてあったから、もう、着れないし、持っていても汚くなるだけだから、出そうかと思って。」
「それを着た母さん、かわいいと思うんだけどな。」
「あら?ありがとう。」
それから、袋に詰められたから、桜身と一緒に車で、市民体育館まで運ぶと、一輝はコンビニに寄った。
「何か買うの?」
「少し足りない物を思い出して。」
「私は車で待っているから、急いで行って来てね。」
「なら、ここからは、母さんが運転してくれ。」
「あ、そうね。運転席にいるわ。」
置き去りとか思われるといけないし、何かあっても、いつでも対処する為に運転席に桜身は移動する。
一輝は、安いイヤフォンと、ついでに飲み物を買った。
買い物が終わって、初心者マークを外して助手席に座る。
「何を買ったの?」
「これ。」
「あら、夏といったら、これね。」
白い液体を水で溶かして飲む、飲み物だ。
「この夏は、体験していないなって思って。」
「いいわね。だったら、早速、帰って飲みましょう。」
「比率は?」
「任せるわ。」
桜身は、車を発進させて、家へと帰る。
家へ帰ると、早速、マグカップを出して、氷を入れて、作り始める。
「はい。母さん。」
「ありがとう、一輝。」
一緒に、外の風景を見ながら飲むと。
「お盆を過ぎると、涼しくなるっていうけど、明日から涼しくなるかしら?」
「急には無理だろうけど、涼しくなるといいな。」
「ねえ、今日の昼ご飯や夕ご飯、何にしようか?」
「涼しくなるなら、その前にソーメン食べたい気分だな。それと肉。」
「そうね。昼は私が作るから、夜は任せるわ。」
「分かった。」
それから、お盆最後の日が終わった。
次の日。
「なら、いってくるわね。」
「いってらっしゃい。」
桜身は仕事に向かった。
お盆を過ぎると、後、二週間の夏休みである。
県立流石高校は、八月中まで夏休みであり、二学期は九月一日からだ。
「さて、動画をザっと見るか。」
この時から、一輝の夏休みは動画を見つつ、ゲームをして、昼ご飯を食べ終わった後、屋敷に出向いて、報告し、帰ると、風呂を洗って湯を張り、夕ご飯を作って、桜身が帰ってきたら、一緒に食べて、風呂に入り、桜身と少し会話をしてから、自分の部屋で、買ってきた問題集を解いて、英語の日記を書いて寝るという日々であった。
九月になり、学校へと向かうと、三城が声をかけてきた。
「一輝のおかげで、今回の宿題、全て出来たよ。」
「こっちも弥代のおかげで、ゲームがはかどって、昨日、最後のソフトエンディングまで行ったよ。」
「おう、すげーな。」
「それでだけど。」
一輝は、カバンからゲームのパッケージを出して、三城に渡す。
「これ。」
「ゲーム教えてくれたお礼だ。このゲームソフトをくれた人に、友達にあげていいかと聞いたら、許可くれたから。やる。」
「一輝。」
三城は一輝を抱きしめると。
「本当にありがとう。とっても嬉しい。」
「そんなに?」
「ああ、もう、今からでもやりたい位に欲しかったんだよ。」
「それは良かったな。」
「うん。もう、一輝に足を向けて寝られないな。」
「別にいいぞ。良かった。喜んでくれて。」
「ほっんとぉぉぉぉに、ありがとう。」
周りは、その姿を見ると、微笑ましいのか、とても温かな目で見て来る。
「もうそろそろ離せ。暑い。」
「そうだな。」
三城は、貰ったゲームのパッケージを見て、再度、喜びの顔を見せた。
学校が、今日は午前中で終わり、家に帰る。
お昼ご飯を作って食べて、屋敷に出むく。
「一輝、報告か。」
「はい。谷さんは、いますか?」
「いるぞ。」
山倉は、谷を呼ぶと、五分もしない内に来た。
「一輝、今日から学校か?お疲れさまだな。」
「谷さん、頭なでるな。」
「で?報告か。」
一輝は、持ってきたゲームソフトを全て出して、自分のゲーム機も出した。
「全て、完了しました。」
すると、谷はピュウと口笛を吹いた。
確認をすると、確かに、全て、満足いくクリアをしている。
「そうか、そうか、すごいな。」
「谷さんからは、まだ、課題出るのか?」
「出して欲しいなら出すが、一輝は、ノートパソコンは持っているんだったな。」
「はい。」
「だったら、脱出ゲームというのは聞いたことは?」
「ある。」
「それのまとめサイトがある。脱出ゲーム、桜身様は、とても好きでプレイしてらっしゃる。アドレスを教えるから、待ってな。」
チェストから紙とボールペンを出して、アドレスを書くと、一輝に渡した。
直ぐにアドレスが書けるのは、凄い。
それくらいじゃないと、桜身を助け出せないと思い直した。
「このサイトが、桜身様は一番やっている。」
「わかった。」
「これも雰囲気だけでいいんだが、一輝は気に入ると思う。結構、頭使うからな。」
「ほほーう。」
「気に入ったら、そのまま続けてくれていいし、気に入らなければ雰囲気だけで、そうだな。三十作品はやって見ろ。」
「わかりました。」
谷は、紙を受け取る一輝に。
「このゲーム機は、一輝にあげた物だから、持って帰っていいぞ。」
「え?でも。」
「いいぞ。」
「分かりました。でも、ソフトはお返しします。もし、繰り返しやりたいと思った場合は、自分で買います。」
「一輝は、十八歳だったな。」
「はい。」
「だったら、クレジットカード作れるぞ。ゲームするなら、クレジットカードは必要だ。そうだな。ここのクレジットカード、お勧めだし、桜身様も同じ会社のだ。もし、作る気があるなら、桜身様にご相談されてみてはどうだ?」
「そうか。十八歳になると、出来る事が増えて来るな。」
谷は、十八になった一輝に、出来る事を伝える。
「パスポートも十年有効のが作れるし、自分名義で携帯電話の契約が出来る。後は、大切だが、選挙権があるから、これだけは必ず行けよ。」
「そうか、選挙か。」
「それこそ、桜身様と話しが出来るではないか。最初の選挙は、桜身様と一緒に行って、体験するといい。不在者投票もあるから、そちらも経験して置くと為になる。だけど、最初は、選挙日に行けよ。」
「はい。」
山倉は、谷と一輝が話しているのを見て、耐えられなくなり、会話に入ってくる。
「確認だけど、お酒やたばこ、賭けの購入は、二十歳になってからだからな。」
「分かっていますよ。それに、それらはやれる資金は、家にはない。」
「そうだな。一輝は、やらないよな。それでいいよ。」
山倉には、動画を視聴しているのを報告すると、微笑んだ。
「沢山あるだろうけど、がんばれよ。」
山倉と谷と話しを二言、三言すると、帰る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます