11「履歴」
家に帰ってきて、夕ご飯、風呂も終わり、ゆっくりと桜身と話しをして、自分の部屋へと行く。
山倉から貰った追加の課題であるUSBメモリーを、自分のパソコンで見る。
USBメモリーを見ると、一つのメモ帳で作られたファイルが一つあり、タイトルが「履歴」だ。
開いてみると、そこには、メールアドレスとそのパスワードがあり、下に続いて、IDとパスワードがあった。
IDの横には、お店かな、名前があった。
一輝は、少し考えて、名前を検索すると、出てきたのは、ネットショッピングのサイトであった。
IDとパスワード、そして履歴というタイトル。
それだけで、一輝は。
「そこまでさせるのか。」
履歴を確認しろって事だろう。
だが、この行為は、例え、家族であろうとしてはいけない。
今では、ネットで情報管理をする会社が多くなっている。
会社のホームページを確認し、IDとパスワードを入力して、情報を書き換え更新する。
本人が亡くなっているなら仕方ないとしても、今は、桜身は生きていて、現在も使っているサービスだ。
「見てもいいのか?親子と言えど……ん?」
USBを見ると、もう一つファイルがあった。
そのファイルのタイトルは「了解」で、ダブルクリックして開くと、そこには一枚の書類があった。
書類は、画像ファイルである。
画像ファイルには、こう記されていた。
「許可証 私、清水桜身は、自分が使っているインターネットサービスのID、パスワードを提示し、履歴なら見ても良いと許可します。」
その一文と、最後の行には、桜身直筆のサインと拇印があった。
画像ファイルを見て「なるほど、これも仕事の内なのか。」と一輝は、考えた。
そう、これは仕事。
履歴だけを見るという条件の元で、それ以外には使えない。
一輝は、少しだけ悩み考えたが、山倉の事が頭を過ぎる。
「桜身様を救う。」
次の瞬間、頭で考えなく、自分のパソコンにIDとパスワードを入れて、ログインをしていた。
IDとパスワードを入れて、履歴を見ると、そこには、見慣れた商品が並ぶ。
ゲームソフト、電子書籍、それに、一輝の誕生日にくれた腕時計が表示された。
他にも色々と細かに購入していた。
発送先は、あの屋敷になっているらしく、家には宅配が届く事は、記憶でも本当に少ない。
大抵が、郵便で封書やはがきが多く、商品として段ボール箱で届くのは、ないに等しい。
だから、常に家でいなくても問題がなかった。
それに段ボールの処理をしなくても良いから、ゴミの処分が楽であった。
「腕時計、こんなにするのか。」
腕時計の値段を知ると、本当に大切に扱おうと、心に刻んだ。
それに、山倉のセリフが、まだ、自分の頭に反芻しているから、それも手伝い、とても、とても、大切にしようと腕時計を撫でる。
それから、記載されている名前を入れると、また、サイトが開かれ、今度はイラストサイトであった。
数多くの人が、イラストを投稿して、コメントが書ける。
また、ある名前は、コメントも書ける動画サイト。
この二つに関しては、履歴ではなく、メモ帳のパスワード横に(お気に入り)と書かれていた。
まさかと思い、どちらも気に入った作品を登録してあるのを見ると、すごい数あった。
「もしかして、これ。全部見てこいってわけじゃないだろうな。」
すると、頭脳に、山倉の言葉で「そうだよ。」と聞こえてきそうだ。
本当に、どこからどこまでが基本情報なんだろうな。と思いながら、少し考えて。
「見ないと、情報くれなさそう。仕方ない。」
一輝は、動画を見るのに時間かかりそうだから、イラストサイトを先に見る。
見ると、イラストサイトは、お気に入りの漫画やアニメのパロディー漫画や、クロスオーバーと呼ばれる違う世界のキャラが楽しくしているのや、ゲームのプレイ日記など、色々な作品が登録されていた。
中でも、やはりあったのが、十八禁の作品で拘束系であった。
食い入るようには見なく、こんな感じなのが好きなのかと眺める程度で終わらせる。
しかし、すごい数、登録されていたので、今日の夜は、それだけになった。
一輝は、文字を読むスピードが速かった。
内容が頭に入っているのかと思ったが、一輝の脳は、とてもよく記憶出来ていた。
次の日
「うーん。」
悩んでいる声を出して、桜身は朝ご飯を食べていた。
気になって。
「何?困っているんだ?」
「えーと、そんなに気にする事じゃないと思うけど、一輝、IDとパスワードの管理には気を付けてね。」
「え?いきなり何?」
「ちょっとね。パスワード、変更するべきかしら。」
桜身は、どうやらパスワードについて悩んでいるらしい。
そこで、一輝は感が良く「昨日の俺だ。」と思った。
どちらのかな?って思ったが、きっと、どれもかもしれない。
最近のIDとパスワードを入れるサイトは、ログインをしたのかを確認するメールが届く。
メールアドレス?
そうか、メールアドレスとそのパスワードが、最初にあったのは、そのメールが届いた時に、直ぐに削除出来るようにだったのか。
あの許可証を見るに、ログインしたら、メールアドレスにアクセスして、来たメールを削除するのが、約束なのだろう。
しかし、それが出来ていなかったから、屋敷に住んでいる人以外からのアクセスだと桜身は考えて、悩んでいるのだろう。
用意された朝食を食べつつ。
「変更しずに、少し様子を見てみたらどうだ?」
一輝がいうと。
「そうね。息子がいうんだもの。様子見てみる。何度も来るなら、変更するわ。」
「その時には、相談してくれ。察知されにくいパスワード、一緒に考えよう。」
「ええ、その時には、お願いするわ。」
内心、ドキドキとハラハラが取れない一輝だ。
まだ、胸が早く動いている。
この分だと、アクセスはもう一回しか出来ない。
ネットショッピングとイラストは、もういいとしても、動画は、お気に入りを記憶しなくてはいけない。
となると、自分でもIDとパスワードを取って、そっくりそのままコピーし、登録をしなければならないと考えた。
この後から、やり始めよう。
朝ご飯を食べ終わり、部屋へと宿題するといい、こもる。
すると、居間から音が聞こえてきた。
桜身のスマートフォンが鳴っている。
桜身が対応をして、話終わると、一輝の部屋をノックした。
「なんか、仕事でトラブルがあったみたい。行ってくるね。」
「わかった。気を付けてな。」
桜身は、出かけた。
だから、やりやすかった。
いや、やりやすくしてくれたのかもしれない。
「山倉さん、感謝。」
イラストサイトは、昨日、ザッと見て、ほとんど確認出来たから、もういい。
問題は、動画サイトだ。
流石、桜身であり、とてもきれいに整理してあった。
その画面をスマートフォンのカメラ機能で撮った。
自分で、動画のIDを取った。
そして、スマートフォンの写真が保存されてあるアプリを開いて、見ながら、検索して、自分でもそっくりそのまま、お気に入り登録をする。
今日は、この作業で手一杯になりそうだ。
桜身から、連絡がスマートフォンにかかってきた。
集中していたから、少し驚いた。
電話に出ると。
『一輝、今日、仕事が長引くから、自分で昼ご飯と夕ご飯、作って食べて。帰る時間は、夜九時過ぎるわ。』
「分かった。」
『結構、厄介なトラブルだったから、本当に面倒になっているの。』
「寝ないで待っているから、気を付けて帰ってきてくれ。風呂は、その後で入るのか?」
『お風呂も、仕事場で入るわ。気にしないで。』
「仕事場に、風呂もあるのか、いいなぁ。」
一輝は、あの屋敷なのは分かっていたから、風呂も台所もあるのは分かっているのだが、知らない振りして会話を続ける。
桜身も一輝は知らないと思って、ごまかす。
『そ、そう。いいでしょ、一輝も仕事場は風呂があるのを、進めるわ。そういうことだから、家の事よろしくね。』
「わかった。」
通話を切断すると。
「山倉さん、本当にありがとう。」
感謝をしながら、自分のIDに桜身のお気に入りを登録する作業をした。
全て出来たのが、午後四時であった。
「疲れた。マウス操作が大変だ。」
一輝は、自分の右手を伸ばしたり、グーパーさせたりして、解した。
一度、見直して、大丈夫と認識すると、桜身の動画サイトのログインを解除した。
そして、自分のIDをログインし直して、見えるようにした。
ゆっくり見たかったが、やるべき事を先にする。
お風呂と夕ご飯だ。
今日は、桜身が風呂を屋敷で入るとなると、一輝はシャワーで済ませた。
夕ご飯は、簡単に冷凍食品を温めるだけにした。
桜身がいないなら、簡単でいい。
終わったのが、五時半であり、帰ってくる九時までは時間がある。
自分の部屋で、動画を見ると、桜身が好きそうな動画だと思った。
ゲームをしながら、動画をBGM代わりに流していると、ふと思った。
「山倉さん、こわ。」
そう、なんで、山倉は、一輝が桜身のメールアドレスを開いて、メールを削除する作業をしなくて、桜身を不安がらせたのを知っているのか。
部屋や居間に、カメラが仕掛けられていないのか、疑い始めた。
しかし、先の掃除では、そんなものは見つからなかったから、山倉の直観だと思いたい。
それにしても、今の一輝は、外から見るとゲームして動画流している格好だ。
普段の親が見ると「宿題はいいの?」と言いたくなる。
だが、一輝は、宿題は済んでおり、唯一の英語は日記なので、その日の夜に書く。
もう、今日の分は済ませてあるから、余裕で遊んでいるのである。
でも一輝は、そんな自分の姿は嫌で、デパートに買い物に行った時、問題集を購入していて、時間が空いている時に、勉強をしている。
それにこれは、遊びではない。
人の頭は、何度も繰り返す事で覚えるのを、一輝は知っていて、やらないと覚えないから、夏休み明けても授業についていける様に備えていた。
九時になり、帰ってくる音が聞こえた。
一輝は、動画を閉じて、パソコンの電源をオフにして、桜身を出迎えた。
「おかえり。母さん。」
「だたいま。一輝、起きていてくれたの?」
「待ってるって言った。お茶入れようか?」
「お願い。」
ほうじ茶を入れると、桜身はゆっくりと飲んだ。
一輝も同じく、飲む。
「一輝、ごめんね。今日、一輝と一緒に過ごすはずが。」
「いいよ。仕事でトラブルなら、仕方ない。それよりも、それ飲んだら、もう休んで。」
「わかったわ。……お盆も明日で最後ね。」
「そうだな。」
「お盆開けたら、私はまた仕事だけど、一輝はどうするの?」
「俺は、家で過ごすよ。この暑いのに、外に出たくない。」
「そうね。熱中症とか怖いから、一輝、室内だからといっても、水分は取ってね。」
「母さんこそ、仕事で無理するなよ。」
桜身は、マグカップを一輝に渡して、お休みといい、部屋へと行く。
マグカップを洗って、食器乾燥機にいれると、一輝も自分の部屋に戻った。
そして思った。
動画は音がないと意味がない。
明日は、イヤフォンを買いに行こう。
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