10「取得」
八月十五日
二週間ぶりに帰ってきた我が家が待っていたのは、掃除であった。
食材は片づけていたから良かったが、埃は積もりに積もっていた。
一輝は、家に帰ると、暑いからエアコンだと思ったが、これほどまでに埃っぽいとエアコンよりも先に、窓であった。
窓を開けると、少し暑いが涼しい風が、部屋に入ってくる。
身体を少し動かすと。
「さて、掃除するか。」
一仕事終えた男の顔は、とても、たくましかった。
掃除をしていくが、自分の部屋も空気を入れ替えたくて、扉を開ける。
すると、桜身の部屋も空気を換えたかったが、勝手に出来ずに、そのままにした。
掃除が終わり、風呂に湯を張った。
五時になるから、桜身が帰ってくる時間だ。
連絡をすると、企画は終わり、今日の五時に帰るという。
一輝は、取ったばかりの免許証を見て、誇らしくした。
五時になり、音が聞こえた。
「おかえり、母さん。」
「ただいま、一輝。」
二週間ぶりに顔を合わせると、お互いに笑った。
「一輝、なんだか、たくましい顔になっているわね。」
「母さんこそ……、これ何?」
桜身の腕を見ると、怪我をしていた。
包帯までもないが、傷を塞ぐテープが張られている。
「えーと、少しだけ切っちゃった。」
「はー、怪我するなって。」
「しょうがないでしょ?仕事で、少し無茶しただけだし。」
「仕方ない。今日は、家事するなよ。」
一輝は、桜身を居間へと連れて行く。
「埃が溜まっていると思ったけど、そんなにないわね。」
「掃除したからな。」
「そうなの。一緒にやれば良かったわ。」
「どのみち、そんな怪我をしているなら、掃除は任せられない。」
「むー。出来るよ。」
「させない。」
一輝に対して、文句を言っている桜身の目の前に、一輝は差し出した。
「この通り、自動車の免許、取得完了してきた。」
桜身は、一輝の免許を受け取り、見た。
免許証の顔が、とても凛々しく映っていた。
「本当にとれたの?すごいね。」
「実技も筆記もトップで卒業した。」
「筆記も?あの、ややこしい、ひっかけ問題みたいなのを?」
「仮の時も、本の時も、全問正解してきた。」
「すごいじゃない。私は、筆記、一回落ちて、やり直したのよ。」
桜身は、免許を一輝に返すと。
「これからは、車運転出来るから、もし、母さんに何かあれば、迎えに行けるし、送ってもいける。」
「まあ。いいの?最初に私でも。」
「母さんがいいんだ。」
「ありがとう。」
一輝は、免許を見ながら。
「明日、約束していたデパートにスーツを買いに行こう。」
「あっ、そうだったわね。お盆になったら行く約束だったわ。」
「その怪我では、運転させられない。俺がする。」
「大丈夫?」
「信じろ。」
桜身を真っ直ぐに見て、話すと、お互いに笑った。
夕ご飯を、一輝が作り、食して、風呂へと入る。
桜身から入り、一輝が入る。
洗濯位は、桜身がやるといったので、一輝は任せ、部屋へと行く。
部屋は、空気を入れ替えたから、息が吸いやすかった。
桜身の部屋は、空気を入れ替えていないが、大丈夫だろうか?
荷物を片づけていると、小型のノートパソコンがあった。
「明日は無理でも、明後日に屋敷に行くか。」
一輝は、そう思いながら、眠りについた。
次の日
桜身が起きてこないので、部屋の扉をノックする。
「母さん?」
すると、中から桜身が出てきた。
桜身は、顔を真っ赤にしている。
「母さん、熱があるのか?」
「平気よ。」
「平気じゃない。ほら、ベッドに戻って。」
一輝は、部屋へと入ると、窓を開け、空気を入れ替えた。
桜身は、ベッドに横になる。
「その怪我で熱が出ているわけではないのか?」
「え……ええ、きっと風邪ね。」
「病院行くか?」
「そこまでではないわ。休んでいれば、治るから。」
「氷枕作るから待っていろ。」
一輝は、台所に行き、氷枕とペットボトル状の水を桜身の部屋に持っていき、差し出す。
「ごめんね。スーツ買いに行くはずでしょ?」
「いいよ。今度で。それより、休んで。俺は、居間にいるから、必要なものがあったら呼んでくれ。」
「わかったわ。」
一輝は、扉を閉め、目を閉じた。
基本情報を掘り出す。
「桜身が熱を出した時の対処方法は、外の空気を浴びさせ、静かにする事。だったな。」
最初に山倉からもらった基本情報には、熱を出した時の対処方法が書いてあった。
怪我が原因で熱を出した場合は、病院に行く。
そうでない熱の場合は、自然に任せるであった。
自然に任せるとは、外の自然と一体化する事であるから、窓を開けた。
一輝は、居間にて、今までの基本情報を頭の中で復習をした。
居間で寝てしまったのだろう。
目を覚ますと、一輝の身体にシーツが掛けられていた。
そして、目の前には、桜身がいた。
目を瞑っているから、寝ているのだろう。
この状態になった経緯を考えると、居間に来ると、一輝が寝ていたから、シーツを部屋から持ってきてくれて、寝顔を見ている内に一緒に寝てしまったところか。
一輝は、桜身を両手で抱き上げ、ベッドへと運ぶ。
「本当に、母さんは、軽いな。」
すると、桜身の口から声が聞こえた。
寝言だと思う。
「秀。」
その一言だけを発して、顔はほほ笑んでいる様に見えた。
夢の中では、父さんと一緒にデートをしているのだろう。
一輝は複雑な心になったが、夢の中位は幸せにしてくれていると思ったら、さらに愛おしくなった。
一輝は、そのままにして、居間に戻った。
夕方になり、熱が引いた桜身は、部屋から出てきた。
「大丈夫か、母さん。」
「うん、熱はないよ。」
「良かった。何か食べれるか?」
「何があるの?」
「一応、うどんをと思って、用意してあるんだ。」
「それでいいわ。」
その日は、桜身を休ませつつ、一緒に過ごした。
次の日
桜身は元気になっていた。
朝食を作れる位に、回復していた。
「朝ご飯、俺作るよ。」
「いいの。朝ご飯位、作らせて。」
「母さんが、そういうなら、朝ご飯は任せる。」
朝ご飯を食べている時。
「今日は、スーツ買いに行こう。」
「大丈夫なのか?」
「ええ、それに、食材が少ないから買いに行きたい。」
「そうだな。だったら、スーツと食料買いに行ったら、直ぐに帰ってくるという事で。」
「だとすると、午前中に行きましょう。デパート、確か、九時から開くよね?」
朝ご飯を食べ終わり、デパートへ出かける用意をする。
今日は、免許を取りたての一輝が運転していく。
一輝は、車に自動車学校から貰った初心者マークを車に張ると、車の中や周りを確認し、危険ではないのを確認する。
慣れてくると、確認をしなくなると言われたから、慣れてきても確認はしよう。
お金を用意して、気分悪くなった時の為に嘔吐袋とシーツ、タオル、水など用意して、後部座席に乗せる。
助手席のシートには、シーツを敷いて、いつでも寝られる風にした。
車は、ワゴン型で、後ろを倒せば、荷物が十分に乗る。
出かける時間になった。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫。だけど、もしも、母さんから見て、足りない所があったら、教えてくれ。」
「わかったわ。」
デパートについた。
駐車場にて、車を停める。
一輝は、桜身に。
「どうだった?」
運転の感想を訊いた。
「恐ろしく安全運転だった。」
それが、一輝の運転に対する感想であった。
デパートで、言っていた事を消化すると、荷物がかなりのものになった。
ほとんどが、食料である。
野菜は、ほとんど冷凍して保存をしておくから、帰ったら下処理をする。
その食材を車に乗せて、最後にスーツとスーツに似合う靴にカッターシャツ、それにネクタイが入った袋を、静かに乗せた。
そして、菊も静かに置いた。
桜身は、助手席に座った後、後ろのスーツ一式を見て。
「スーツ、ネクタイ赤でいいの?」
「いいの。赤好きだから。」
「そうね。赤はとてもきれいな色ね。」
その一言で、一輝は察してしまった。
父の秀が好きな色かもしれない。
思うと、複雑な気持ちに襲われたが、嫉妬はなかった。
「それにしても、菊なんて、何に使うの?」
桜身が、一輝が最後に買った菊を見て、不思議に思っていた。
「玄関が寂しいから、花でも飾ろうかと思って。」
「確かに寂しいわ。」
「花なら、見ていてもいいし、世話もしやすい。」
「でも、菊は。」
「仕方ないだろ?この時期、菊が多くあって、目に留まってしまい、つい買っていたんだから。」
「お盆だからね。」
桜身は、空を見た。
外を見る桜身を見て、何も言わなかった。
帰ってきて、荷物を片づけ、玄関に菊を飾る。
菊を見ると、桜身にわからない様に手を合わせる。
「はー疲れたね。お昼ご飯、買ってきたお弁当食べよう。」
「そうだな。」
お茶を淹れて、お弁当を食べると、桜身は眠くなったといって、自分部屋に行く。
行く前に、桜身に。
「俺、午後から出かけてくるな。」
「あら?どこに?」
「弥代の所。」
「お盆だから、早めに帰ってくるのよ。」
「そうだね。」
お盆は、ご先祖様と過ごすから、邪魔にならなくする。
一輝は、リュックに小型のノートパソコンと免許証、今まで貰っているUSBメモリー、ゲーム機とソフトを入れた。
「では、行ってきます。もしも、体調が優れなくなった場合、連絡してくれ。」
桜身の部屋をノックして、少しだけ開け、声をかけると。
「はーい、いってらっしゃい。」
声が聞こえてきた。
「いってきます。」
一輝は、家を出ると、鍵をかけた。
そして、車ではなく自転車に乗る前に、三城に連絡すると、三城は親戚の家にいるといい、家にはいなかった。
その情報を利用して、屋敷に行く。
屋敷に行く理由として、三城の家に行ったがいなかったといい、色々と散歩したと出来る。
屋敷に着いて、いつもの様に自転車を預かってもらい、屋敷の中へ入る。
「久しぶりですね。一輝。」
山倉は、とても笑顔で一輝を出迎える。
「山倉さん。今日は、ゆっくりしていられないので、報告だけ。」
一輝は、今まで貰っていたUSBメモリーを返した。
小型のノートパソコンも渡した。
「記憶した。さあ、次の課題はなんだ?」
「ほほー。なら、今度は、この情報だ。」
「何が入っているのですか?」
「家に帰ってからの楽しみだ。」
一輝は、USBメモリーをリュックにしまい、入れ違いに免許証を山倉に見せる。
「おお、取れたの?おめでとう。」
「筆記も実技もトップだ。」
「それもすごいな。」
そんな風に話しをしていると、谷も来た。
谷には、ゲームの話しをする。
「ゲーム、後、三ソフトです。」
「なんと!」
「ゲーム好きな友達に見て貰って、クリア出来ました。それでですね。その友達が、このソフトが欲しいらしく、あげていいですか?」
「うーん、まあ、いいぞ。」
「ありがとうございます。パッケージが欲しくて。」
「そうだな。持ってくるよ。」
谷が持ってくる間に、一輝は、昨日の桜身を報告した。
「基本情報がなければ、俺は、救急車を呼んでいたと思った。あの情報はとても役に立った。」
「そうか。で、桜身様は今?」
「熱もないし、元気です。でも、今は部屋で休ませています。」
「この二週間は、忙しかったからな。」
「怪我していたみたいだけど、どうやって?」
「あ、その怪我なら、桜身様ではなく、我々のミスです。守り切れなかった。」
「そうなのか。」
「…………すまない。」
山倉の言葉で、一輝は仕方ないと思っていた。
谷がパッケージを持ってくると、受け取り、一輝は帰る準備をした。
「このお盆、桜身様をお願いします。」
「それは、俺のセリフだろ?」
「そうかも。」
山倉と話しをして、一輝は家に帰る。
家に帰ると、桜身が台所にいた。
「おかえり、一輝。」
「ただいま、母さん。」
このお盆は、親子二人で、家にて過ごした。
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