9「免許」

「おはー。」


三城が来た。

八時少し前である。


もう、桜身は仕事に行った。

三城を居間に案内すると、お客様用のコップに麦茶を入れて出す。


「ありがとう。はー、生き返る。朝なのに、本当に暑いぜ。」

「そうだよな。この所、暑いな。」

「早速だけど、ここなんだ。」


数学のプリントを出すと、一輝は三城に解き方を教える。

三城は、理解をして、次々へと説いていく。

その間に一輝は、タブレットで漫画を読んだ。


「ん?何しているんだ?」

「何って、漫画読んでる。」

「は?一輝が?」

「読んで悪いか?」

「論文とか、純文学しか読まない一輝が、漫画、明日は大雨かな?」

「失礼な事言うな。俺だって、漫画位。」

「読まなかったよな。」

「うっ。」


三城は、一輝を知っていたから、とても驚いていた。

なら、さらに、こちらも驚かせることになりそうだ。


「弥代、今度も驚くと思うけど。」

「なんだよ。」


一輝は、三城の前にゲーム機を見せて。


「うまくいかない所があるんだけど、教えてくれるか?」


三城の顔が変わった。


「お、おま、一輝、どうかしたのか?漫画に、今度はゲームって。」

「い、いけないか?」

「そんな事ないが……あー、本当にどうしたんだ?」

「ちょっと、私用で試しだ。」

「漫画やゲームやっているってことは、学校の宿題はどうしたんだ?」

「英語以外、済ませた。だから、この夏休みは、漫画とゲームに集中しようかと。」

「なんと!だったらさー、ゲーム教えてやるから、移させてくれない?」

「それはダメ。」


一輝は、今日教えた分だけでもいいから、ゲームを教えて欲しいと言った。

三城は、どこが難しいのか聞くと、タイミングの操作であった。


「あー、ここは、このタイミングで……、ほら。」

「行けた。良かった。これで先に進める。」

「このタイミングでいいからな。」

「サンキュー、弥代。」


三城は、楽しそうにゲームをやっている一輝を見ると、一つの資料を取り出した。


「実は、俺、自動車の免許を取ろうと思うんだ。」

「十八になったからな。」

「一緒に取らない?」

「は?」


一輝は、教習所の資料を見ていると、泊まり込みで二週間で取れる。

費用は、三十万ほどと書いてあった。


「二週間で取れるのはいいな。」

「だろ?」

「だけど、泊まり込みは出来ない。」

「やっぱり無理か。」

「泊まり込みじゃなければ、一緒に受けるぞ。」

「いや、俺は早く取りたいんだ。よし、俺は泊まり込みで取る。」

「そうか。がんばれよ。……まてよ、車か。」


一輝は、少し考えようと思った。

その後の時間は、三城は必要な問題は訊けたから、一輝のゲームを見ていた。

指の動かし方を少しだけ教えると、流石、一輝は吸収が早く、上達が見て分かった。


「それと、このゲームの中で、クリアが早く出来そうなのから、並べて欲しい。」


一輝が持ってきたのは、谷が移してくれたパッケージだ。


「は?って、すごいな。有名どころばかりだぞ。」

「そうなのか?」

「これ、どっから?」

「あー、友達?からかな?」

「なんで、ハテナなんだ。まあいい、俺なんか、持ってるの、この一部だぞ。いいなぁ、これ、やりたかったのだ。」

「今、あるなら、少しだけやるか?」

「いいのか?」


三城は、カバンからゲーム機を出した。

一輝は三城がゲーム機をいつも持っているのを知っていたから、提案したが、やはり持ってきていたか。


「なら、少し、ソフト借りるな。」

「おう。」


二人で昼までの時間、ゲームした。

色々と話しをしながらだが、とても充実した時間となった。


「ソフトありがとうな。」

「また、遊びたくなったら来いよ。」

「おう。」


三城を見送ると、一輝は昼ご飯を作って食べ、出かける用意をした。

屋敷に来ると、門番が笑顔で一輝を迎える。

一輝は自転車を停めて、屋敷に入ると、奥から山倉が来た。


「待っていたよ。一輝。」

「山倉さん。谷さんはいますか?」

「え?谷?いるけど。」

「呼んでくれます?」


山倉は、自分のスマートフォンで谷を呼ぶと、五分もしない内に来た。


「なんだ。一輝。」

「見てください。このソフト、エンディングまで行きました。」

「おおーすごいじゃないか。で、次のソフトは?」

「これです。」

「一輝の得意なパズル系だな。これはエンディングないから、こんなゲームなんだなって感覚でやればいい。」

「そうなのか。それで、貰ったゲーム、後、こういう雰囲気さえつかめればいいソフトはどれなんだ?」

「んー、これとこれにこれとこれだな。後は、エンディングがある。」


一輝は、ソフトを記憶して、早速、プレイを始めた。

すると、山倉が咳払いをした。

それに気づき、一輝は。


「報告まだでしたね。漫画ですが、これだけ読めました。後、もう少しで全部読みり切ります。」

「な、本当に読んだのか?」

「読んだぞ。だから、もう少しで、山倉さんの宿題、完了します。」


一輝は、にやりとすると、山倉もにやりとした。


「では、漫画が全て制覇出来たら、次の課題を出すからな。」

「そう来ると思っていました。覚悟できています。」

「本当にか。」

「ああ。」


山倉は、とても生き生きとしている。

谷は、山倉に仕事に戻ると言って、その場を去ると、一輝は早速漫画を読み始めた。

その姿を山倉は見ると、ほほ笑む。


一輝が帰る四時まで、山倉は一緒の空間にいた。


何も話さないが、心地よい。


お互いに思っていた。




四時になり、一輝は帰っていく。

山倉は、そんな一輝の姿を見て、微笑んだ。


一輝は、今日の夕ご飯は何にしようかと思いながら、帰った。

帰ると、先にやるのがエアコンの電源をつける。

冷蔵庫の中を見ると、卵を使いたかった。

だから、卵どんぶりにした。


タマネギとニンジンを細く切って、しょうゆと砂糖、だし汁で煮て、溶き卵を流し入れ、卵が固まるまで煮ると、出来上がりだ。

後は味噌汁を作り、完成。


桜身が帰ってくるまでに、時間が余っていた。

三十分はあるから、今日は、自分が先に風呂へ入る。

入り終わった後、風呂を一度流して、洗って、また湯を張った。


すると、母が帰ってきた。

丁度、脱衣場から出てくる所だったから、直ぐに出迎えられた。


「おかえり。」

「ただいま。え?お風呂入れるの?」

「入る?」

「一輝は、まだ?」

「俺は、もう入った。」

「なら、入るわ。」


桜身は、着替えを持って風呂に行く。

出てくる時には、洗濯機が作動してある。


「今日は卵どんぶりなのね。」

「砂糖を少し多く入ったから、甘いかも。」

「どれ?…………おいしいわよ。」

「よかった。」


一輝も食べて、少し甘い程度で食べられないわけではない。


「で、三城君の宿題は、完了したの?」

「分からない所だけ教えただけだから、後は、自分で何とかなるよ。」

「そう。」

「…………母さん。」

「何?」


桜身の前に、自動車免許のパンフレットを置く。


「俺、自動車の免許を取りたいんだ。前、お金は気にするなって言ってくれたから、大学に行く費用をこっちに回して欲しい。費用は三十万ほどなんだけど、ダメか?」


桜身は、パンフレットを見ると、泊まりで二週間の文字が目に入った。


「八月一日からだと、十五日で取れるのね……、一輝、泊まりで取りなさい。だったら、費用は出します。」

「え?その間、この家は。それに母さんの食事とかは、どうするんだ?」

「平気よ。私、一人でも。」

「でも。」

「それに、仕事で少し大きな企画があって、私も泊まり込みになるかもしれないのよ。だから、それに合わせて、お互いにやるべき事やりましょ。」

「泊まり込みの仕事。どんな仕事だよ。」


このチャンスを逃しはしない一輝。

山倉や谷は、話さないなら、直接、桜身から訊く。


「それはいえないわ。秘密の事だもの。」

「……命にかかわらないか?」

「……かわからないわよ。」

「本当に?俺の免許合宿が終わって、怪我でもしていたら、許さないからな。」

「そっちこそ、筆記はともかく、実技でもたついて伸びたら許さないわよ。」


お互いに顔を合わせると、噴き出した。




八月一日になった。

一輝は、三城と一緒に自動車の免許合宿へ。

桜身は、泊まり込みの仕事で、それぞれに向かった。


「やっぱり来ると思っていたよ。一輝。」

「車があると便利だからな。」

「そうだよな。一応、車で登校は禁止だけど、忘れ物を取りに行く時には、便利だよな。」

「で、弥代?ゲームなんだけど。」

「またか。どこがわからないんだ?」


三城とは、一緒に自動車免許の合宿をするのを了解した代わりに、ゲームでわからない所を教えてもらうとなっていた。


山倉と谷には、自動車の免許合宿の為、二週間ほど屋敷に来れないと連絡してある。

連絡した時の顔は、谷は、がんばれよだったが、山倉は、少し寂しそうだった。


もう、漫画は全て読み終わり、追加の宿題を出されて、それを今している。

それが、生まれた時から今までの桜身に関する記録を、記憶してくるだ。


「一輝、お前は、自分が生まれた時から今までの桜身様しか知らぬだろ?その前の桜身様を知る必要がある。」


山倉は、また、USBメモリーを渡してきた。

家に帰り見ると、今度がエクセルファイルもあり、そこには桜身が使ってきたお金のやり取りが記載してある、いわばお小遣い帳があった。

大きな物から駄菓子のガム一つまで、全てが記録してある。

中には、自販機で買ったジュースまであった。


ワードで作られた資料は、桜身のアルバムであった。

赤ちゃんの頃からのがあって、それからどんな風にして育ってきたのかが分かる。

写真には、一言書いてある文があるから、それも記憶する。

また、これらもテストされると思い、ゲームと自動車の免許と同時で勉強していた。


本当に基本情報は、どこからどこまでなんだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る