2「生活」

一輝は、家に帰ると、濡れた自分とカバンをどうにかしようとした。

カバンを見ると、中には弁当が入っていた。

もう時間は、午後一時半で昼ご飯を食べる時間が過ぎている。

中身は大丈夫だが、捨てようかと思った時、先程の山倉の言葉が頭脳によみがえってきた。


自分をタオルで拭いて、制服から私服に着替える。

制服は、網に入れて洗濯機できれいにする為、電源を入れて機能選択してから、スタートした。


冷蔵庫から今朝、作ってあった麦茶を出して、コップに注ぎ、弁当を広げて食べる。

意識していなかったが、弁当は、毎回、一輝が好きな卵焼きが入っていた。

それも甘いタイプ。

今日は、かみしめながら食べていると、何故か、目から涙があふれて来た。


どうしてだろう。


何故だろう。


どうしてか知らないが、涙があふれて、とまらない。




しばらくして、弁当を食べ終わり、弁当箱とコップを洗って、食器乾燥機に置いた。

スマートフォンで時間を確認すると、午後三時になる所だ。


一輝は、少し考え、台所でタマネギ、ニンジン、ジャガイモを出して、切り始めた。

冷蔵庫を見ると、こま切れ肉があった。

それも出して、フライパンでタマネギから炒める。

タマネギが、少し透明になってきたのを確認すると、鍋に移した。


また、そのタマネギの液が残っているフライパンで、今度はこま切れ肉を炒める。

こま切れ肉が赤色から焦げ茶色に変わると、それも鍋に移した。

この工程をニンジンとジャガイモもして、鍋の中には、熱が通ったタマネギ、ニンジン、ジャガイモ、こま切れ肉が入っている。


そこに、水を全部が浸るまで入れて、中火で熱を加え、煮立てる。

煮立てている間に、お米が炊いてあるのかを見ると、あった。

弁当にもおにぎりがあったから、お米が炊いてあって白飯があるかと思ったが、やはりあった。

見ると、二人分位は楽にある。

白飯の確認をした後、その台所にある机で宿題をし始めた。


時々、鍋の様子を見て、灰汁を取り、ゆっくりと混ぜて、また宿題に戻る。

そんな時間を過ごしていると、宿題が終わり、時間を見ると四時半を過ぎた辺りだ。

結構、集中して出来て、早く終わった。


「なんだ。結構、出されたなって思ったけど、やって見るとアッという間だな。」


台所から出て、今度は風呂場に来た。

風呂を洗って、湯を張る。

その後に、自分の道具を持って、部屋に行くと、ノートパソコンを起動させた。

このノートパソコンは、一輝が中学生になった時にお祝いとして、母が買ってくれたものだ。


最初は、学校でパソコンの授業もあり、習った内容を再度確認する為に使っていたが、今では、色々と調べ物や学校での資料を作る為に使っている。

ゲームも入れてしたかったが、このノートパソコンでは動かすのに無理があり、やるならデスクトップ型にして、それ専用に自作で組んでもらうのがいいとなった。


早速、母が帰ってくる前に、山倉から貰った母の基本情報を見る。

USBメモリーの中には、ワードで作られた資料が一ファイルあった。

題名は「基本情報」。

ファイルをダブルクリックして開く。


目の前に現れたのは、ぎっしりと書かれており、左下のページ数を見る十と記してあった。

フォントサイズは十点五であり、そのサイズで書かれてあった。

せめてもの救いが、余白もそのまま、上三十五mm、下と左右が三十mmで、段落も変更されていない。

ワードを新規で開いた設定のままだ。


その設定に、箇条書きで書かれていた。


箇条書きだったから、とても見やすかったが、それにしても情報量が多い。

読んでいくと、自分が知らない情報ばかりであった。

少し考えて、今、読むのはやめた。


台所へ行き、鍋の様子を見ると、とても美味しそうになっている。

カレールーを箱から出して、小分けにしてあるパッケージの上から、包丁の手で持つ所で少し砕き柔らかくして、フィルムを外して、中身のカレールーを鍋に入れた。

かき混ぜていると、ちゃんとカレーに見える。


一輝は、成績は良い。

それは料理も含まっている。

一般的に、学校の授業にある家庭科を集中して聞いて、それを家でもすれば、家事位は人並みに出来る。

五教科も必要だが、生活していくとなると家庭科の存在は、とても大切だ。

高級レストラン位おいしいのは出来ないが、人並みの食べられる程度の料理は作れるし、その他、裁縫、ゴミ出し、分別、洗濯、掃除も一通り出来た。


それに一輝の環境は、母と二人暮らしである点が大きい。


カレーを作り終わると、自分の制服を洗濯機の中から出して、室内で干す。

室内は、湿気がありエアコンで冷房を起動させてあるから、この状態だと明日の朝には乾いている。


自分の部屋に行き、先程の資料を見ると、やはり、情報量が多い。

一輝は、情報を印刷しはじめた。

印刷して紙状になったのを見ると、なんとかなりそうな顔をしている。


「これなら、覚えられそうだ。」


そう、一輝は、紙状だと覚えられる。

パソコンやスマートフォンの情報は、眺めている感覚で、読み飛ばしをしてしまい、覚えられないが、紙状だと一つ一つの文字を追えて、頭に入るのである。


さて、読もうかとした時、アパートの鍵を開ける音が聞こえた。

母だろうと思い、ワードで作られた資料を閉じて、パソコンとプリンターの電源をオフにし、印刷して出した紙を枕の下に入れてから、玄関に向かうと、そこには雨に濡れた母がいた。


「あー、もう、すごい雨ね。」


このアパートは、今、母がいる玄関を下にすると、玄関から見て、突き当りに扉がある。

その扉に行く廊下の右には壁があり、左には二つ扉がある。

手前が脱衣場と風呂であり、奥がトイレだ。

脱衣場には、洗濯機が置いてある。


奥の扉を開けると、台所と居間が一緒になった部屋があり、その部屋の右側には二つ扉があった。

手前が母の部屋で、奥が一輝の部屋だ。

母の部屋は、一輝の部屋より広いが、広い分収納が大きく、自分の物じゃなく季節物を収納してある。

だから、どちらかというと、一輝の部屋は自分の物だけなので、快適である。


台所は、扉から見て、冷蔵庫、水道、調理場、IHクッキングヒーターの順番で設置してある。

冷蔵庫の上には、電子レンジが置かれている。

それらの下には、収納が出来て、調味料やレトルト系があった。

上には、収納はない。


窓には、ベランダもあり、服が乾かせる様に、物干しざおが設置してある。

だが、今日は、物干しざおが、濡れている。


早速、その居間に桜身は来て、自分の部屋へと行く。

そして、着替えを持ってきた。


「今からシャワー使うね。」


一輝に言うと。


「風呂、沸かしてあるから入って来てくれ。」

「え?もう?ありがとう。それと、カレーの香りがするね。夕ご飯作ってくれたの?」

「あーそうだ。」

「なんだか、今日、良い事あったのかなぁ?何かあったら、ホウレンソウだよ。」

「わかっている。」


桜身は、居間の扉を開けて廊下を歩いている間。


「今日は、何色の入浴剤にしようかな?」


ご機嫌にしていた。

一輝は、居間に座り込む。


「はー、ホウレンソウ。報告、連絡、相談。分かっているけど。」


自分の部屋を見ると、一息。


「でも、今日の事は言えないな。」


顔を両手で覆った。




桜身が風呂から出てきた。


母の見た目は、一言で表すと、小さい。

一輝の腕だと、すっぽりとはまる大きさだ。

髪は、腰に届くか届かないか位であり、とてもきれいだ。

服だと、スーツよりもドレスが似合いそうである。


今、眼鏡を拭いているのを見ると、ふと、山倉の声が聞こえて、言葉が出て来た。


「難病。」

「何?何か言った?」

「いや、別に。」


確か左目と思い、桜身を見ていると、左目を気にしているらしく、指で触っている。

見えづらいのかもしれない。


「さー、こんなにおいしそうな香りをさせているから、もう、食べたい。いいよね?」

「はい、どうぞ。」


食器乾燥機から、お皿を出した。

二人暮らしだから、食器棚はなく、いつも食器乾燥機の中に使う皿はあった。

必要な食器は、マグカップ、茶碗、お椀、手ごろな皿、どんぶり、箸、フォーク、スプーンだ。

それと一輝が持っていく弁当の箱。


カレーはどんぶりに入れて食べる。


「いただきます。」


ていねいに手を合わせて、あいさつして食べる。


「おいしい。一輝、腕あげたね。」

「別に、一般的に作っただけだよ。何も隠し味とかいれてないからな。」

「いやいや、隠し味は入っているよ。」

「なんだよ。」

「一輝から、私への愛情。」

「な!馬鹿な事言っていないで、いっぱい食べろ。」

「はーい。」


食べ終わると、片付けは桜身がやるといって、作業している。

一輝は、部屋へと行き、今度は自分が風呂へといく。

枕元に隠した資料を見て、気づかれないように、その上からさらにタオルをかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る