同級生はプロボクサー

沈黙は金?

第1話

 高校のクラスメイトに、プロボクサーがいた。プロのライセンスを取ったばかりだったので4回戦ボーイだった。4回戦というのは、1試合4ラウンドで戦うので4回戦というのだ。

 アマチュアで実績のあるプロボクサーは、デビュー戦から6回戦だったり、稀に8回戦だったりする。因みに、日本タイトルマッチは10回戦で世界タイトルマッチは12回戦で戦う。1ラウンドは3分だ。

 クラスメイトのY君は、ライト級でだいたい真ん中あたりの階級だった。詳しく言うと、ミニマム級、ライトフライ級、フライ級、スーパーフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級、スーパーフェザー級、、スーパーライト級、ウエルター級、スーパーウエルター級、ミドル級……、ヘビー級というふうに、体重で階級が分かれている。


 Y君のデビュー戦が近づいてきた時、学校にチケットの束を持ってきたので、僕はY君に、そのチケットをどうするのか訊いてみた。そうしたら、チケットを買って欲しいというのだ。自分でチケットの持ち分があって、売れた分だけファイトマネーになるとY君は教えてくれた。クラスの皆で、チケットを買った。そして、クラスの皆でY君を応援することになった。


 試合当日、僕たちは、東京水道橋の後楽園ホールに集結した。パンフレットを見ていると、Y君は始めの方に出場するらしかった。メインイベントまで何試合もあり、Y君のような4回戦は、早い順番で試合をするということを僕は知った。

 ボクシングを目の前で見ると、凄い迫力だった。人間の殴り合いを、お金を払って見るということは複雑な気持ちになったが、正直なところこれが面白い。病みつきになりそうだった。

 Y君は、何番目に出場したか忘れたが、そんなに待つこともなく現れた。リングに上がった姿は、とてもかっこよかった。世界チャンピオンでも何でもない、無名の高校生だが、僕たちのヒーローに自然と声が出ていた。4回戦だって、プロボクサーには違いないのだ。

 1ラウンドのゴングが鳴った。初めから、激しい殴り合いが展開された。相手のパンチが、Y君の顔面にまともに入った。Y君はぐらっとした。Y君も相手に殴り返す。まともに相手の顔面にパンチが入る、僕たちは我を忘れて大声を出して声援を送った。

 何ラウンドか覚えていないが、相手のパンチがY君にまともに入って、Y君は背中から仰向けになってダウンした。それでも、Y君は、立ち上がった。僕たちの声援が自然と大きくなる。そして、Y君が何発もパンチを繰り出した、これが相手の顔に思いっきり入り、今度は相手が吹っ飛ぶようにダウンした。この時、僕たちの声は絶頂に達していた。相手も立ち上がる。お互い倒し倒され、激しい殴り合いは、Y君がダウンして幕が下りた。僕たちは、落胆してため息をついた。


 非常に、残念な結果に終わったのだが、Y君の試合を観て、僕は色々と考えるところがあった。リングの中を人生にたとえた場合、上手く事が運ぶ場合と苦しい状態に置かれる場合とがきっと訪れるはずだ。上手くいっている時、気を抜いたら足をすくわれるにちがいない。反対に、苦しい状態の時、自分がどこまで踏ん張れるかにかかっていると僕は思った。人生もボクシングと同じ真剣勝負。それを、今日、Y君は教えてくれた。


「試合は、負けちゃったけど皆これからだよ」とリングの上からY君は背中で語っているように僕の目に映った。





(了)

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同級生はプロボクサー 沈黙は金? @hyay

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