第114話
その後も日が暮れるまで釣りに没頭し、結果的に奏が釣り上げた鮪を含めて六匹の魚を釣り上げる事に成功した。その中には鯛まである。ちなみに釣ったのは奏だ。
「これぞ海老で鯛を釣る…」
「そもオキアミは海老ではないがな」
「そうなの!?」
「らしいのじゃ」
買う時にチラッと聞いただけなので瑠華としても詳しくは知らないが、どうやらそうらしい。
サビキ釣りの方もそこそこ釣れていたらしく、最終的にかなりの量になった。
「さて…こうも様々に釣れたのであれば、手巻き寿司というのも無しでは無いな」
「材料あるの?」
「一応な」
瑠華のウエストポーチにはかなり色々なものが入っている。なのでいきなり作るものが変わったところで、さして問題は無かった。
「何で調味料とかいっぱい持ってるの?」
「単に【柊】で使っている物の予備じゃな。嵩張る故、こうしていた方が何かと楽なのじゃよ」
「ほぇぇ…」
次元収納は時間停止では無いものの、気温や湿度が一定なのでそうしたものの保存に適しているのだ。
無駄遣いではなく有効活用である。間違えてはいけない。
「そもそも鮪捌けるの…?」
「問題無い。見れば大体分かる」
心配そうに訊ねるサナに、瑠華が堂々とした様子で答える。今時、インターネットで探せば欲しい情報は直ぐに出てくる。瑠華からすれば、それさえあれば後は簡単だ。
「キャンプ場で鮪の解体ショー…中々凄い思い出になりそうね」
「先ず有り得ん事じゃからの。何故奏がこれを釣れたのかは甚だ疑問ではあるが…まぁ、今はいいじゃろ。紫乃、その他の準備を任せても良いか?」
「かしこまりました。お任せ下さい」
瑠華は恐らく鮪に掛り切りになるので、バーベキューや手巻き寿司の準備、その他の魚の処理を紫乃に任せる事に。
「手伝うわ。何すればいい?」
「あっ、でしたら火を起こして頂けますか? その後はもう食材を焼いて頂いて構いませんので」
「りょーかい」
流石に子供達に火は任せられないので、サナが手早く火を起こす準備を始めた。昼は瑠華が魔法で付けたが、今回はしっかりと文明の利器を使う。
その間の瑠華はというと、小さい子達を観客としてテキパキと鮪を捌き続けていた。
「頭は流石に仕舞っておこうかの」
切り落とした頭を腐らない内にスルリとポーチへ仕舞う…ように見せ掛けて、時間停止機能がある自前の収納に仕舞う。時間停止しておかないと流石に駄目だろうという判断である。
「どうするの?」
「帰ってからあら汁でも作ろうかと思っておるよ」
「ぜーたくだぁ…」
「ふふふ…ほれ、奏」
「んぇ…?」
中落ちをスプーンで削ぎ落とし、少しの醤油を掛けて奏の口元へと持っていく。
「釣ったのは奏じゃからの。一番は奏であるべきじゃろ?」
「あ、えと…じゃあ…」
奏が顔を少し赤らめながら、パクリと差し出されたスプーンを咥える。
「どうじゃ?」
「……ちょっと、限界」
「ん…?」
味を尋ねたのに予想していた返答とは違うものが聞こえ、瑠華が思わず首を傾げる。詳しく聞こうにも、当の本人は口元を抑えて顔を背けてしまっていて無理そうだ。
「瑠華お姉ちゃん。私も私も」
「ん。少しだけじゃぞ」
ねだってきた凪沙や他の子達にも同じように食べさせ、解体を再開する。そしてそこまで大きな鮪でもないので、一旦全部を皿に盛り付けておく。
(余ったなら仕舞えば問題なかろう)
最後に綺麗に後片付けを済ませて紫乃達の方へ合流する。と言ってももう殆どの準備は終わっており、盛り付けを手伝うくらいだったが。
「「「いただきますっ!」」」
「良く噛んで食べるようにの」
「欲しいのがあれば言ってね。私が取るから」
サナは竈の前に陣取り、子供達が食べたいと言ったものをトングで渡す係に努めるつもりらしい。
「そこは暑いじゃろ。代わるか?」
「大丈夫よ。それに瑠華ちゃんにはやる事あるんだから」
「……必要かのぅ?」
サナの言う瑠華のやる事というのは、簡単に言えば寿司を握る事である。
手巻き寿司があるのに握り寿司まで用意する必要は無いだろうと瑠華は思っていたのだが、どうやら皆はそうでは無いらしかった。
「瑠華お姉ちゃん握ってー!」
「良いぞ。何を握るのじゃ?」
「中トロ!」
「山葵はどうするのじゃ?」
「あり!」
ちなみに瑠華は山葵の風味が好きである。なので【柊】の子達は皆影響されていたり……。
「瑠華ちゃん私もー」
「少なめで中トロじゃろ?」
「うんっ」
奏の好みは他の子達よりも把握しているので、わざわざ聞くことは無い。
「……あれ通常運転?」
「そうですね。瑠華様は奏様の事を特に気にかけておりますので」
「それで無自覚なのタチ悪いわね…」
「無自覚…? いえ、瑠華様は御自覚があるようですが…」
「……え?」
思わずサナが紫乃を凝視する。それに対して何か間違ったことを言っただろうかという様に紫乃が首を傾げた。
「何か?」
「…意識的にって事なの? あれ」
「行動自体は無自覚でしょう。ただ…いえ。これ以上は私の口からとても」
「…そう」
気になりはするが、これ以上の詮索も野暮だと思いサナは口を噤んだ。
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