第100話

 瑠華が魔銃の調整をしている間に、奏が話を率先して進めていく。


「サナさんはどんなコラボ企画を考えているんですか?」


「そこまでバッチリ決めている訳ではないけれど…どうせなら少し遠い、あまり人気の無い所に行きたいとは思うわね」


「人気が無い、ですか?」


 その言葉に奏は疑問を持つ。配信者とは見てくれる人が居るからこそ成り立っている。だからこそ、人の目を集める話題作りは必須だ。それなのにわざわざ人気の無い場所に行くとは、どういうつもりなのだろうか。


「私達は配信者である以前に探索者。それはダンジョンを調査し、時に管理もする義務があるという事よ」


「勿論知ってます。試験にも出ましたし」


 サナの言葉に頷く。まだ試験を終えてからそう時間も経っていないので、探索者に関する権利や責任、義務についてはちゃんと覚えていた。


「そして探索者の中でも配信を行っている人には、特別な仕事がダンジョン協会から斡旋される事があるの」


「特別な仕事…」


「それが所謂広報活動……まぁ言ってしまえば、人気の無いダンジョンを何とかして盛り上げて欲しいって依頼よ」


 ダンジョンは放置した場合、地上にモンスターが溢れ出すダンジョンブレイクを引き起こす可能性がある。それをたった数人の探索者で防止するのは不可能だ。

 そこでダンジョン協会が考えたのが、ダンジョン配信者を活用した広報を行う事だった。


「どうかしら? ただ配信を続けるだけじゃなくて、こういう事も経験しておいて損は無いと思うの」


「そう、ですね…それは何か指示があったりするんじゃなくて、ただ攻略している姿を配信するだけでいいんですよね?」


「ええそうよ。それで何か起きても通常通り自己責任ではあるけれど、完了すれば特別手当が支給されるわ」


「……凪沙はどう?」


「私は瑠華お姉ちゃんと一緒だったら別に何でもいい」


「まぁそうだよね…分かりました! じゃあその方針でいきましょう」


「ありがとう。勿論先輩としてちゃんとサポートはするから安心してね」


 そうしてコラボ企画の話が進んだところで、瑠華の作業が終わった。


「ほれ。これで以前通りになっておるはずじゃ」


「わざわざごめんなさいね。ありがとう。お礼…って言っても金銭は色々と問題がありそうだったから、菓子折りを持って来てるんだけど…」


「気遣い感謝する。最近は寄付金も多くなっておる故、そうして貰えると有難いのじゃ」


 瑠華が申し訳なさそうに眉を下げながら、サナが手渡してきた菓子折りを受け取る。

 配信を始めた影響で、【柊】に対する寄付金は実際かなり増えていた。これ以上増えると提出書類が何かと面倒になるので、本当に有難い対応だった。


「お菓子!」


「後で皆で食べようかの」


「ん。楽しみ」


「……多めのやつ買っといて正解だったわね」


 人知れずサナが安堵の息を吐き、胸を撫で下ろす。知人の勧めに従って正解であったと。


「ところで瑠華ちゃん。瑠華ちゃんなら壊れない魔銃も作れたんじゃないの?」


「それをしてしまうと流石にやり過ぎじゃからというのはあるが…壊れぬ物というのは何かと火種になりやすいからの。迂闊に作るべきでは無いのじゃよ」


「あー、成程ねぇ……」


「……え待って。サラッと流してるけど、壊れない物作れるの?」


「意外と簡単じゃな。それこそ奏でも、あと少し文字を学べば作れるぞ」


「あ、魔法文字使うんだね。そろそろ瑠華ちゃんに教えてもらったやつも終わりそうだし、次はそれ?」


「そうじゃな…順調に進めばそうなるかのぅ」


「……うん、いいやもう。これ諦めた方が楽だわ」


 置いてきぼりを食らったサナは、何処か遠い目をして呟いた。今なら瑠華達の視聴者の気持ちも理解出来るなと。


「…瑠華お姉ちゃん。私も勉強したい」


 サナが少し放心状態になっている間に、置いてきぼりを食らったもう一人である凪沙がクイクイと瑠華の袖を引いてそう訴える。


「ん? …奏に渡したものを使うと良いじゃろう。それに勉強に関して聞くのであれば、妾よりも奏の方が適任じゃ」


 元から全て知っている瑠華と、自ら知識を吸収した奏では、後者の方が勉強を教える事に向いているだろう。

 凪沙としては瑠華から教えて貰いたかったが、それ以上の我儘は駄目だと自制する。そんな事を続けていては、いつまで経っても自分は“妹”でしかなくなってしまうのだから。


「それで何処のダンジョンに向かうつもりなのじゃ?」


「……あっ、えっと…群馬の方にあるダンジョンね。山間部に位置しているから、そもそものアクセスが悪くて人気が無いそうなの」


「……山間部」


「ええ。それがどうかした?」


「……いや、なんでも無い。少し気になっただけじゃ」


(まさか妾が以前行ったダンジョンではあるまい。そんな偶然は無い…はずじゃ)


 思い出すのは、瑠華が気分転換で向かい、紫乃を助け出したダンジョン。あれも確か山間部に位置していたように思う。だが同じ様な地形に存在するダンジョンも数多い為、流石に同一の物では無いだろう。


「……そういえば前に瑠華ちゃん、夜中に気晴らしでダンジョン出掛けてたね?」


「よく覚えておるのぅ…」


「まぁ色々あったし…もしかしてそこ?」


「分からぬ。妾も適当に向かったからのぅ」


 本当に適当に飛んで向かった場所なので、詳しい地名など分かる訳もない。


「適当にダンジョン向かったって…それでも入るには予約いるでしょう?」


「………」


「あー…うん。出来るもんね、瑠華ちゃんならバレずに入るの」


「それ普通に罰則の対象なんだけど…」


「……すまぬ。黙っておいてはくれんか」


 瑠華にしては珍しい萎れた姿に、挟む二人は楽しげに目を輝かせる。対照的にサナは心底困惑した様子で頭を抱えた。


「……証拠は残ってないのね?」


「のはずじゃ。目撃されても意識には残っておらんしの」


 そしてその当時は画面越しにも効力を発揮する程に強化した状態だったので、例え映像が残っても誰にも気付かれないだろう。


「それならまぁ誤魔化しようはあるか…他には誰にも言ってないのよね?」


「言っておらん。配信でもな」


「そう。…はぁ…普段頼りにされる存在が問題起こしてどうするのよ……」


 その言葉に、瑠華はぐうの音も出なかった。






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