第101話 閑話 母の独白

勢いで書き上げてから絶対100話記念に書けばよかったと後悔している作者です


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 何処が始まりだったのか。それを明確に知る術は無い。分かるのは、その時には既に私という存在が居たという事実だけ。


 私という存在が居るだけで、真っ白な空間には掌に収まる程の小さな球体が産まれては消えていく。

 そんな球体をふと覗き込めば、その中で芽吹く様々な命が見て取れた。


「…可愛い」


 そんな感情が私の中に産まれ、私は自分の手で、それらを創ってみたいと思うようになった。


 けれど最初から上手くいく事はなくて、何回も、それはもう何回も創り直す事を繰り返した。


 最初はただ大きいものを創ろうとした。でもそれでは球体を維持する事が出来ず、直ぐに崩壊してしまった。


 次は維持出来るように小さくした。でも逆にそれでは余白が無くて、成長がすぐに止まってしまった。


 自然に産まれる球体を参考にしながら、中の要素を組み換え、大きさを変え、質を変え……そうして試行錯誤するのはとても楽しかった。


「出来た…!」


 漸く出来た球体は真っ白な光を放ち、ゆっくりと中で世界が渦巻いている。ここから時間を掛けてこの世界は変化していくだろう。

 そこでふとそれをただ眺めるのもいいが、やはり私だけというのは寂しいという感情が出てきた。


「………」


 世界を創るのとは違う、意志を持つ存在をゼロから創るというのはやはり難しいだろう。であるならば、何か元になる物があれば良い。


「…私の、半分を使えば」


 私の存在量の半分を費やし、新たな命を産み出す。もし失敗すれば、もう一度挑戦するには途轍もない時間が必要になる。けれど私は、やってみたいという欲求に耐えられなかった。


「全部を包み込めるように。愛せるように」


 そして願わくば愛されるように。


 自然に産まれる世界を素材として、そこに私の存在を混ぜ、願いを込める。強く気高く、そして厳しくも優しい子になって欲しいと。


 グルグルと渦巻く力の奔流は様々な色を放ちながらも、次第に真っ白に変化していく。それは奇しくも、私が最初に創った世界と同じ色で。


「……ん」


 意識を持ってから初めての疲労感を覚えつつも、産まれた存在を抱き締める。


「…私が、分かる?」


「……おかーさん?」


「ッ!?!?」


 その甘く柔らかい声を聞いた瞬間、私の胸がギューッと締め付けられる感覚がした。思わず強く抱き締めるも、流石は私の半身。全く苦しげな素振りを見せず、寧ろ嬉しげに笑っていた。


 ……やばい。うちの娘マジ可愛い。


「産まれてくれてありがとう、ルカ」


「るか…?」


「レギノルカ。それが貴方の名前よ」


「れぎのるか…るか!」


 キャッキャッと嬉しそうに燥ぐ娘―――ルカに、思わず顔が緩んでしまう。


 ルカの身体は私とは違って、世界の中で龍と呼ばれていた姿をしている。これは数多の世界を元に創り出されたからだろう。強さの象徴として有名らしいもの。


「私と一緒に世界を見ましょうね」


「うんっ!」


「………」


 どうしましょう。世界よりもこの子をずっと見ていたいのだけれど…!



 ◆ ◆ ◆



「ふふっ」


 ふと昔を思い出して笑ってしまう。あの時幼く可愛かったルカも、今では立派なお姉ちゃんだ。

 そんな子が、今は私と同じ見た目をして世界の中で過ごしている。それをただ眺めるだけでニヤニヤしてしまう。


「お母様。また見てるんです?」


 そんな私に呆れ顔で近づいてきたのは、ルカの後で産み出した娘だ。この子もすっごく立派で強くなったのだけれど、やはりルカには遠く及ばない。ちょっとルカの事強くし過ぎたかしらね……。


「仕事しないとルカお姉様の分体が叱りに来ますよ?」


「それはやだ」


 あの子結構容赦無いんだもん。分体ですら他の子達より遥かに強いから……。


「はぁ…私も早くルカお姉様の元へ行きたいというのに」


「相変わらずルカは人気ねぇ」


「当然です。私達の憧れですから」


 愛されて欲しいとは願ったが、まさかここまで慕われる事になるとは思わなかった。まぁ悪い事では無いのだから別にいいのだけれど。


「ルカお姉様は何してたんです?」


「んー…力の制御かしらね」


 その言葉に疑問符を浮かべているのがよく分かる。ルカってあんなに強くなったのに、制御は完璧だものね。


「あの子世界に降りても慕われてるみたいだから、どんどん力が強くなってるのよねぇ」


「……それ大丈夫なんです?」


「大丈夫よ。ルカだもの」


「その言葉を否定出来ないのが何とも…でもそうなると、そのうちお母様より強くなるのでは?」


「何言ってるの?」


「そうですよね。流石に「とっくに越されてるわよ?」……ゑ?」


 あの子はまだまだとか思っているけれど、実際のところもう私より強いのよねぇ。多分気付いていないのでしょうけど。

 まぁそれでも能力に違いはあるから、一概にルカの方が優れているとは言えないわね。


「え、え? え!?」


「何も困惑する事無いでしょう? ルカはそれだけ優秀な子なんだもの」


「いやでも…それだと世界が…」


「ルカが干渉して制御しているわ。それが出来る時点で、私より強い事に気付いてもおかしくないのだけれど…」


 世界に居ながらも干渉する事の難しさを、もうちょっと理解して欲しいのよね……。


「……ルカお姉様に強くなった事褒められたかったのに……」


「あら。ルカは過程も結果も全部を見てくれる子よ? いくらルカが強くなろうと、あの子が誰かを褒めないなんて事は無いわ」


 誰も彼もルカに褒めて欲しくて頑張っているのは私も知っている。私もちゃんと褒めてはいるのだけれど、ルカ程力の制御が得意な訳でもないから迂闊に触れられないのよねぇ……。




「……母君。メティラから呼ばれたのじゃが」


「んっ!?」


 そうしてしみじみとしていれば、いきなり少しの怒気を孕んだ声が背後から聞こえ、恐る恐る振り返る。するとそこには普段の半分ほどの大きさのルカが。あ、この大きさも可愛い…じゃなくて!


「メティ!?」


「取り敢えず呼んでおきました」


 思わずメティに詰め寄るも、いい笑顔でそう言い切られてしまう。


「妾を見る事を悪いとは言わん。じゃがそれで仕事を放棄するのは如何なものかのぅ…?」


「する! 今からするから!」


 笑顔を浮かべつつも目が笑っていないルカに、慌てて放置していた仕事を再開する。

 ……うん。既に力関係完全に逆転してるわね、これ。











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