第47話
本来であれば少し休憩した後にドロップ品を回収するつもりだったが、もうそんな時間は残っていないと判断し捨て置く。
瑠華はそのままで、奏は[身体強化]を脚に重点的に掛けながら森を駆ける。方向しか分からない為にどれだけ距離が離れているかは分からない。だからただ急ぐしか無かった。
「っ! 瑠華ちゃん!」
「うむ…」
そうして走り続けていれば、明らかに戦闘の跡が刻まれた場所を発見した。ダンジョンは自己修復機能を有している為、戦闘痕は基本残らない。残るのは、直近のものだけだ。
「この近くじゃろう。気を抜くでないぞ?」
「勿論」
Dバンドによればこの方向で間違いは無い。であれば救援を求める探索者、又は救援を求める原因となった存在が近くに居る可能性が高い。
瑠華が魔力を広げて探知すると、幾らかの反応が返ってきた。しかしそこに人らしき反応は無い。
「……下か?」
「え?」
くるりと薙刀を回して地面へと突き刺し、魔力を浸透させる。すると地表よりも遥かに多い反応が返ってきた。それが意味するのは……
「奏っ!」
「へっ? わっ!?」
瑠華が薙刀をDバンドに仕舞い、奏を横抱きにして木に飛び乗った。いきなりの事で目を白黒させるも、その眼下に広がった光景に息を飲む。
――――先程まで奏達が立っていた場所が、大きく窪んでいた。
:あぶなっ!
:ナイス瑠華ちゃん!
:東京第一ダンジョンなら、いるよなアイツ。
「何これ…」
「アーミーアンツの仕業じゃろう。軍隊蟻と言った方が分かりやすいやもしれんのう」
アーミーアンツは蟻の見た目をしたモンスターであり、その特徴はダンジョン内に巣を作り出すこと。そして、その巣を利用した落とし穴で獲物を捕らえる事だ。
瑠華が説明したと同時に窪んだ場所に穴が開き、黒い何かが這い出てくる。わらわらと集まっていくその光景に、奏が思わず口を押さえた。
出てきたアーミーアンツが少し辺りを回した後、穴に戻りながらその窪みを協力して戻していく。数分経てば、そこには以前と変わらぬ状態に戻った地面が。
「アーミーアンツは目が悪い。木の上の妾達を見付ける事はまず無いじゃろう」
「そうなんだ…」
:瑠華ちゃんマジで何でも知ってるじゃん。
:そしてさり気なくお姫様抱っこ。
:てぇてぇ…
:でも奏ちゃん抱っこして軽々飛び乗ったのすげぇ。
:それな。
「あ…」
いきなりの事で気が付かなかったが、衆目に晒された状態でお姫様抱っこされているという現状に顔が熱くなる。
:あ、気付いたwww
:わかりやすいなぁwww
今はスマホを見られない為に視聴者の反応は分からないが、それでも何かは言われている事だけは分かり「うぅ…」という声を零した。
「奏?」
そんな奏の様子を不思議に思った瑠華が、小首を傾げながら奏の顔を覗き込む。するとただでさえ限界状態であったところで瑠華の顔を至近距離で見てしまい、奏が耐え切れず顔を逸らした。
「…瑠華ちゃん自分の顔が良い事自覚して」
「何をいきなり…」
:てぇてぇ…
:(´・ω...:.;::..サラサラ..
:でも状況は最悪なんだがな?
要救助者は恐らくアーミーアンツに襲われたものとみて、ほぼ間違いないだろう。であれば助ける為には、わざと先程の窪みに呑まれる必要がある。
「さて、どうしたものか…」
「中狭い?」
「いや、アーミーアンツは数が多いからの。通路もそれなりに広いはずじゃが……」
それでも人一人通るのがやっとだろうと思う。そしてそんな場所で呑気に人を探すことなど出来はしない。
「さっきの瑠華ちゃんの魔法は?」
「…氷漬けにする気か?」
「え、だって私凍らなかったし…」
「あれは妾の近くにおったからじゃ。《
「わぁ……」
:わぁ…
:あの範囲で無差別かぁ…
:…防げるの? あれ。
:壁作ったらワンチャン?
「《絶氷地獄》は壁ごときでは防げんぞ。範囲から逃れるか、魔法の魔力以上の魔力を込めた結界しか不可能じゃろうな」
「そんなにエグい魔法なんだ…あれ? 瑠華ちゃん何かあるよ?」
「む?」
お姫様抱っこに慣れてきた奏が辺りを見渡し、何か金属質のものが転がっている事に気付いた。それを瑠華が《
「……カメラ?」
それは瑠華達も使っている、浮遊カメラの残骸であった。
「配信者が巻き込まれたかのぅ。誰か情報を持っておらんかの?」
:配信者いっぱいいるからな…
:東京第一ダンジョンだと仮定して今日配信してたのは……
:三人くらいいるけど、全員配信中だな。何かに巻き込まれたっていう様子もない。
「となるとただの犯罪防止か」
「瑠華ちゃんそんなに呑気に考えてないで助けないと」
「何故じゃ?」
「ぇ…?」
奏が信じられないとばかりに目を見開く。それとは対照的に、瑠華は心底分からないと言いたげな表情を浮かべていた。
「すぐに助けられる状態であったのならば助けたじゃろうが、この状態では今も生きている保証は無い」
「それ、は…」
「妾は見ず知らずの人間よりも、奏の方が大事じゃ」
「そう、だけど、でも…っ」
奏は自分が足手纏いである事は理解している。しかし、それでも目の前で散ろうとしている命を見捨てる事など出来そうには無かった。
「…瑠華ちゃん」
「なんじゃ?」
「お願い。助けて」
「………」
「瑠華ちゃんなら、私一人護りながらでも問題無いでしょ?」
「そういう問題では無い。奏、妾は」
「分かってる。ちゃんと、分かってるから。瑠華ちゃんが私を大切に思ってる事も。だから、
「っ…」
:あっ…
:そっか、そういう事か。
「瑠華ちゃん、私は、大丈夫だから」
「………」
「お願い」
「………はぁ」
瑠華が溜息を吐いた瞬間、奏が目を輝かせる。それは、瑠華が折れたということに他ならない仕草だった。
「…奏、後悔するでないぞ?」
「やらない後悔よりやって後悔した方が良いもん!」
「…『護れ』」
「え?」
奏が聞き取れない言葉で紡がれた音が、奏を包む。
「いくぞ」
「うんっ!」
奏が頷いたのを確認して、瑠華が地面を吹き飛ばした。
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