第48話

「瑠華ちゃん瑠華ちゃん」


「なんじゃ?」


「普通地面をいきなり爆発させないんじゃないかなっ!?」


 :草。

 :瑠華ちゃんだもの。

 :平然と突拍子も無い事するよね…

 :普段は頼りになるんだけどなぁ……


 奏が見下ろす凄まじい土煙の先には、地面に開いた大穴が。確かに中に入るのであれば入口を作る必要があるだろうが―――これは流石にないなと奏は思う。


「せめて言って!?」


「ふむ、善処しよう」


「善処かぁ……」


 :ねぇねぇこれってさ…

 :瑠華ちゃん面白がってるね。

 :てぇてぇんだが状況がなぁwww


 兎も角アーミーアンツが群がる前にと、瑠華が木から穴へと飛び降りる。……当然奏の悲鳴付きで。


「瑠華ちゃんっ!」


「妾が落とす訳なかろう」


「分かってるけどっ! 信頼もしてるけどっ!」


 若干涙目で抗議する奏に流石に悪いと思ったのか、瑠華が地面に降ろしてその頭を撫でた。


「少しからかい過ぎたのう、すまぬ」


「……いいよ。私の為なの分かってるし」


 やめて欲しいとは思ったが、そのおかげで変に掛かっていた肩の力が抜けたのが分かった奏は、それが自分の為にやった事だと理解していた。


「さて。探すとするかの」


「場所分かるの?」


「一応把握は出来ておるが…身動きしていないようでの。少し気掛かりじゃ」


「……急ごう」


「うむ」


 ダンジョン内は薄暗いものの、壁が光る性質がある為明かりが無い訳では無い。だがアーミーアンツの巣の中は一切の光が無い。一寸先は闇を体現した場所だ。


「見えない…」


「奏に[暗視]を覚えさせるのには適しておるのじゃが…仕方あるまい。奏、少し触れるぞ」


「ん? いいよ〜」


 瑠華が奏へと手を伸ばし、頬に触れる。それに対してピクリと身体が跳ねるも、大人しくされるがままになる。


(……ん?)


 触れたところから何やら温かい物が流れ込んだと思えば、次第に視界に変化が訪れる。


「見えるかえ?」


「…見える」


 先程まで真っ暗で何も見えなかった通路の先が、今は見通せる。明るくなったというよりは、暗い事自体は分かるが、それが気にならなくなったと言うべきか。


「何したの?」


「ちょっとした補助魔法じゃよ。ネックレスから魔力供給がされるようにしておる故、切れる事はなかろう」


 :何それ知りたい。

 :暗い所が見えるようになる補助魔法…光属性?


「簡単に説明するならば、潜在意識に干渉する魔法じゃ。詳しい事は言わん。未熟な者が扱えば危険が伴う魔法じゃからの」


 :精神干渉系かぁ…

 :危険なのは分かる。最悪使った人の精神が壊れるらしいし。

 :怖ァ…


 瑠華は“龍眼”によって全てを見通す為、暗闇であっても問題無い。あとは要救助者を探すだけだ。


(…生きておれば御の字じゃ。死体を見せる訳にはいかぬ)


 瑠華はレギノルカであった頃から死体を見る事は多かった。…殺した事も、多くある。だからこそ見慣れているが、それ故に奏には見せるべきでは無いと思っていた。


 いざ先へ進もうという時、カサカサと何かが近付いてくる音が通路の先から響いてくる。


「遅かったのぅ」


「っ…」


 瑠華によって見えるようになった視界に写った大量のアーミーアンツの姿に、ギュッと刀に添える手に力が入る。

 瑠華がDバンドから“明鏡ノ月”を取り出して、奏の前に出る。


「…《明鏡は陰りを知らず》《月は遮る事を許さず》」


 静かな瑠華の声に応えるように、“明鏡ノ月”がその黒い刀身から紅い光を放つ。

 そして一体のアーミーアンツが瑠華の眼前へと近付いた時。


「…《退け》」


 一閃。その瞬間半月状の紅い刃が飛び出し、アーミーアンツの胴体をスパンと切り飛ばした。しかし刃はそれだけに留まらず、奥の通路を所狭しと塞いでいたアーミーアンツ達にも襲い掛かる。


「わぁ……きれーだねー」


 遠い眼差しをしながら、棒読みで奏が呟いた。


 :奏ちゃんwww

 :戻ってきて奏ちゃんwww

 :武器性能やべぇ…

 :そんな武器に認められてる瑠華ちゃんやべぇ…あ、今更か。

 :草。


「ふむ…こんなものか」


 事切れたアーミーアンツの死体が崩れ落ちる。残ったのは、大量のドロップ品。魔核が独特の光を放ち、宛らイルミネーションの様である。…実態はかなり物騒なのだが。


「…え、私この領域に行かなきゃいけないの?」


 分かっていたつもりだったが、目の前で見せられた隔絶とした実力差に奏が軽く絶望する。

 ……まぁ、諦めるつもりもないのだが。


「瑠華ちゃん、私美影と一緒にドロップ品集めるね」


 今は足手纏いでしかない。だからこそ、そんな自分でも何かしたかった。

 瑠華が頷いたのを確認して、十分に警戒しながらドロップ品を回収してウエストポーチへと入れていく。


「これ売ったらかなりのお金になるんじゃない?」


 集まったドロップ品にホクホクといった顔をする奏。しかし―――――


「これらは換金出来んぞ」


「何で!?」


 瑠華から告げられた残酷な事実に、思わず声を上げて目を見開く。だがこれはしっかりと規定で定められたものなのだ。


「妾達のランクは最も下のFじゃ。そして暫定ではあるが、ここはおそらくBランクダンジョン。自身のランクから掛け離れたダンジョンには無論入れぬが、手が無いわけでもない。故に馬鹿な真似をする者が出ないよう、売却には制限が掛かっておるのじゃよ」


 :ランクが高い方が値段は高いからね。

 :だから金に目をくらませて命を投げ出さないように、規制があるんだよ。

 :さす瑠華。

 :でも瑠華ちゃん達が未だFなのが信じられないwww

 :それな。


「そんなぁ…」


「そう落ち込むでない。ほれ、先を急ぐぞ。反応はこの先じゃ」


「あ、忘れてた」


「………」


 瑠華が思わず奏の頭を叩いたのは、仕方の無い事だった。








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