第4話 訓練と掃除屋
独り身の中年男性が住むにはちょうど良いアパートの一室で、ヤオはスマホをいじっている。
明日の仕事を探していた。
「元新宿駅ダンジョンで起きた爆発事故の後処理か。凄い報酬だな」
ダンジョン掃除屋にとって一番キツいのが「冒険者の死体処理」であるが、この依頼はまさにそれがメインになるため、報酬が凄まじい。
掃除屋の一週間分くらいの稼ぎをたった一日で得られる依頼だが、
「これはパスしよう」
死体処理は何度かこなしたことがあるから苦でもないが、嫌な予感がする。
何が原因で爆発事故が起きたのか一切書かれていない。
もし爆発事故がモンスターによるものなら、というか、間違いなくそれが原因であるはずなのに、爆発事故が起きた後の経緯説明がまるで無い。
これは要注意案件だ。
今もなお新宿駅には強いモンスターが徘徊している事実をひた隠しにしているとか、説明できない大人の事情があるに決まっている。
なんせ長いこと掃除屋をやってるおかげで、もう一人の自分が囁いてくれる。
この仕事には手を出すなと。
だからもちろん、却下だ。
「なんかいいのないかな~。楽で、早く終わって、しかも高収入なやつ……」
どうしてこんな年齢まで独り身なのか証明するような言葉を吐き出しながら、ある依頼に辿り着く。
「冒険者志望の学生を対象にした模擬訓練か」
優秀な冒険者をジャンジャン育てて日本だけではなく世界中で活躍させようというのが政府の方針らしく、育成施設を建てまくっている。
掘り尽くされてもう何も採れない古いダンジョンが立川にあるのだが、それを政府が買い取って改装したのはニュースで見た。
そこで中学生から高校生までの冒険者志望の学生を一挙に集めて、大々的な訓練及び研修をする。その清掃作業が仕事の依頼だ。
「いいね」
あくまで実習だから、命の危険はありませんとはっきり説明されている。
モンスターは政府によって作られた機械だし、ダンジョン内部も舗装しているのでトラップにはまって大けがとか、そういうのも無いと。
しかも実習は午後三時で終わるので、その時点で帰っていいときた。
にもかかわらず、日給が二万四千円?!
「いいじゃんよ~」
こんな美味しい仕事なのに、募集人数に全然届いていない。
その理由はわかる。
子供が相手だから。
なんせ彼らは正直である。
特に冒険者志望の学生連中は、頭脳明晰かつ運動神経抜群だから、だいたいプライドが高く、どれもこれもイキっている。
大人になることで人前には出さなくなる選民意識や残虐さを隠そうともせず、惨めなダンジョン清掃員にぶつけてくるのだ。
肉体的には楽でも精神的にきつい仕事だとわかるから、誰も手を出そうとしない。
それでもヤオは参加のボタンを押した。
「警察に通報されるくらいきついことは起きないだろ」
そんな軽い考えだったのだが、実に甘かったのである。
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