第2話 新生、浄化された世界で。
風間ヤオという男について、これだけは言っておきたいというものがあるとしたら、以下の通りになる。
年齢が四十に近づいてきて、ようやく自分の将来について考えるようになり、そしたら思っている以上に先の見通しが暗かったことに気づいて、自分がいわゆるキモくて金のないおじさんであることに気づいて若干落ち込んでいるということ。
年の割に若く見える童顔は自分の長所だと思っていたけど、自慢のベビーフェイスに隠しようのないシワが刻まれて、いったい何歳なのか判別できない気味の悪い男になってしまったこと。
どうしていつもこんなに疲れてしまうのか考えると、もう人生を半分折り返したからだろうと考えて、ただただ焦ること。
それでも俺はあの聖戦を生き延びたんだぞと思い、とにかく必死でネガティブな考えを打ち消そうとしていること。
聖戦。
そう、聖戦についても書いておかなければならない。
それぞれ違う思想を持つ三つの勢力による三つどもえの激しい戦いは、後になって聖戦と呼ばれていた。
「世界で起こった
と評されるこの戦いから既に三十年経過しているが、聖戦によって世界から、もっといえば地球から邪悪な人間と認められた者どもは処刑され、汚染された大地も新しく生まれ変わった。
聖戦以降、世界のいたるところにダンジョンが姿を現し、そこで採集される未知の素材から新種のエネルギーが作られ、新世界は活気づいている。
命の危険を伴うダンジョンへ果敢に挑む「冒険者」は新世界で最も優れた職業となり、訓練された人間であれば「魔法」すら使える。
それが当たり前になった世界。
聖戦前はジリ貧で破産同然の日本であったが、聖戦以降、希少価値の高い素材を採集できるダンジョンがじゃかじゃか発見されたことで、あの高度経済成長期を上回る活気に溢れる時を過ごしていた。
けれども、格差は無くならない。
人がヒトである以上、能力とルックスの良し悪しは必ず存在するし、自分と他人を見比べることでしか人は自己を確立できない。
頂点もあれば、底辺もある。
風間ヤオという男についていえば、彼は自他共に認める底辺にいる男だろう。
この世界で誰もがなりたくない、ダンジョン専門の「
ダンジョン清掃員。
その名の通り、ダンジョンを清潔に保つために存在する職業。
清掃、ゴミ拾い、冒険者の紛失物の管理などなど、その業務をすべて記そうとすると、それだけで三千文字は軽く越えてしまう。
きつい、汚い、危険という、いわゆる3Kな業務内容だし、誰もがなりたい「冒険者」になれなかった成れの果てというネガティブなイメージもあったりするから、はっきり言って彼らは激しく嫌われていた。
ダンジョン清掃員になら何をしても犯罪にならないと無茶苦茶なことを考える輩もいて、オヤジ狩りならぬ、クリーナー狩りなんて言葉があるほど、ダンジョン清掃員は低く扱われていた。
旧世界にいたあのホームレスという存在と同じで、まったくもって不当な扱いをされていると言っていいだろう。
だがそれでも風間ヤオは、いわゆる普通のダンジョン清掃員とは違っていた。
彼は世の中で一番嫌われ、唾を吐かれる仕事に、それなりにプライドを持っていたのである。
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