第5章「宇宙の中の人間なんて、ホコリみたいなものさ」

「さて、宮藤さん。人間の存在について、どう思います?」

 

 麗華は、少し真面目な顔で尋ねた。宮藤さんは、考え込む。

 

「人間の存在、ですか……。そうですね、人間は地球の中心で、全ての生物の頂点に立つ存在だと思います」

 

「ふーん、そう思うのね。でもね、この間ある本を読んだら、衝撃の事実が書いてあったのよ」

 

 麗華は、わざとらしく目を見開いた。

 

「衝撃の事実、ですか?」

 

「そう、なんと宇宙って信じられないぐらい広大なのよ! 天の川銀河だけでも直径10万光年以上あるんですって。その中の太陽系なんて、砂漠に落ちた一粒の砂みたいなもんなの」

 

 麗華は、両手を大きく広げて表現する。

 

「え、そんなに宇宙は広いんですか……?」

 

 宮藤さんは、驚いて息を呑む。

 

「そうなのよ。そして地球なんて、その太陽系の中のちっぽけな存在。まさに宇宙から見たら、ホコリみたいなものなのよ」

 

 麗華は、人差し指と親指で小さな輪を作って見せる。

 

「じゃあ、人間なんて……」

 

「そう、言わずもがなよね。宇宙のスケールから見たら、人間の存在なんてホコリのホコリよ。ミクロのミクロ。原子より小さいナノレベルの存在なのよ」

 

 麗華は、得意げに言い放つ。

 

「そんな……人間なんてそんなに小さな存在だったんですね……」

 

 宮藤さんは、ショックを隠せない様子だ。

 

「でもね、だからこそ逆に一人一人が輝いて生きる必要があるのよ」

 

 麗華は、急に熱のこもった口調で言う。

 

「輝いて、ですか?」

 

「そう、一人一人が自分の光を放つの。小さな存在だからこそ、その小ささを生かして、キラキラ輝くのよ」

 

 麗華は、宮藤さんの目をまっすぐ見つめる。

 

「でも、ホコリみたいな存在が輝けるんでしょうか……」

 

 宮藤さんは、自信なさそうに言う。

 

「輝けるわよ。ホコリだって、光の当たり方次第では美しく光るのよ。ダイヤモンドだってそうでしょ?  ある意味ホコリの仲間なのよね」

 

 麗華は、にっこりと微笑む。

 

「ダイヤモンドも、ホコリ……。なるほど、そういう見方もあるんですね」

 

 宮藤さんは、少し目を輝かせる。

 

「そういうこと。人間は小さな存在だけど、一人一人が自分なりの輝き方をすればいいの。それが宇宙から見た時の、人間の美しさなのよ」

 

 麗華は、自信たっぷりに言う。

 

「わかりました。小さいからこそ、精一杯生きることが大切なんですね」

 

 宮藤さんは、力強くうなずく。

 

「そうそう。小さいことを嘆くんじゃなくて、小さいなりの生き方を楽しむの。それが宇宙に認められる、人間の生き方なのよ」

 

 麗華は、人生の先輩らしい口調で語る。

 

「先生の言葉、胸に刻みます。自分なりの輝き方を、見つけていきたいと思います」

 

 宮藤さんは、心に決意を固めたようだ。

 

「ええ、きっと見つかるわ。宮藤さんには、宮藤さんにしか出せない光があるはずよ。その光を、存分に放っていってちょうだい」

 

 麗華は、宮藤さんの肩に手を置いて、優しく微笑む。

 

「ありがとうございます、先生。自信が持てました」

 

 宮藤さんは、麗華に感謝の笑顔を向ける。

 

「ふふ、私も負けてられないわね。精神科医という小さな存在が、どれだけ輝けるか。患者さんと一緒に、光り輝いていきたいわ」

 

 麗華は、宮藤さんと一緒に笑う。

 

「でも先生、宇宙のスケールで考えると、ちょっと気が遠くなりますね……」

 

 宮藤さんが、ため息をつく。

 

「そうね、宇宙の広大さを思うと、目が回りそうよね。だからたまには、もっと身近なものに目を向けるのも大事よ」

 

 麗華は、不敵な笑みを浮かべる。

 

「身近なもの、ですか?」

 

「そう、例えば……」

 

 麗華は、体を前に乗り出す。

 

「私の目よ。宇宙よりも、ずっと近くにあるでしょ? この目に映る宮藤さんは、宇宙一のイケメンに見えるわよ」

 

「え、えっ? !」

 

 宮藤さんは、思わず赤面する。麗華は、くすくすと笑う。

 

「冗談よ、冗談。でも、目の前の人を大切にすることも、立派な人生の輝き方よ。宇宙のスケールも大事だけど、身の回りのことも忘れちゃいけないわね」

 

 麗華は、茶目っ気たっぷりにウィンクをする。

 

「先生ったら、からかわないでくださいよ……」

 

 宮藤さんは、照れくさそうに言う。

 

「ごめんごめん。でも、私が言いたいのは、遠くばかり見ちゃダメってことよ。時には足元を見つめることも、人生を豊かにするのよ」

 

 麗華は、真面目な顔で言う。

 

「足元、ですか……。確かに、身の回りのことを大切にすることは、とても大事ですよね」

 

 宮藤さんは、納得したようにうなずく。

 

「そういうこと。宇宙のホコリのような存在でも、今ここにいるかけがえのない自分を愛することが、何より大切なのよ」

 

 麗華は、温かい眼差しで宮藤さんを見つめる。

 

「先生……ありがとうございます。自分を愛することの大切さ、忘れないようにします」

 

 宮藤さんは、心から感謝の言葉を口にする。

 

「ええ、忘れないでね。自分を愛せる人は、きっと誰かも愛せるはずよ。そうやって広がる愛の輪が、宇宙を輝かせるのよ」

 

 麗華は、壮大な夢を語るように言う。

 

「愛の輪……。壮大な物語ですね」

 

 宮藤さんは、感銘を受けた様子だ。

 

「ふふ、壮大も何も、私の妄想よ。でも、夢を見ることは大事よね。宇宙のホコリも、夢を見る権利があるのよ」

 

 麗華は、あっけらかんと言う。

 

「先生の夢、ぜひ聞かせてください」

 

 宮藤さんは、興味津々な表情を見せる。

 

「私の夢? そうねえ……」

 

 麗華は、少し考えてから、にっこりと笑う。

 

「いつか宇宙飛行士になって、宇宙から地球を見てみたいの。そして大きな声で叫ぶのよ。『聴こえますかー、地球のみなさーん! 』って」

 

 麗華は、大げさに手を振ってみせる。

 

「先生、それは……」

 

 宮藤さんは、呆れたように言葉を詰まらせる。

 

「だって、宇宙飛行士になれば、ホコリが宇宙を飛べるのよ。そうしたら、地球もホコリも、みんな一緒だってわかるでしょ?」

 

 麗華は、きらきらした目で語る。宮藤さんは、彼女の想像力に圧倒されながらも、どこか納得してしまう自分がいた。

 

「先生の夢、すてきです。いつか叶うといいですね」

 

 宮藤さんは、麗華の夢を応援する気持ちになる。

 

「ええ、きっと叶うわ。だって、夢を追うホコリなんて、宇宙で一番輝いているはずだもの」

 

 麗華は、満面の笑みを浮かべる。彼女の笑顔は、まるで宇宙に輝く星のようだ。

 

「先生、私も夢を追います。小さなホコリでも、キラキラ輝けるように」

 

 宮藤さんは、心に決意を込めて言う。

 

「ええ、そうね。一緒に頑張りましょう。私たち宇宙のホコリ、負けないわよ」

 

 麗華は、宮藤さんと固く握手を交わす。人間は宇宙のホコリかもしれないが、夢を追う限り、その存在は美しく輝き続ける。二人は、そんな思いを胸に、それぞれの人生を歩んでいくのだった。宇宙の広大さに負けず、小さな存在が放つ確かな光。それが、僕らの生きる証になるのだ。

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