第4章「自由意志なんてあったら怖い」

「さて、宮藤さん。次は自由意志についてどう思います?」

 

 麗華は、興味深そうに尋ねた。宮藤さんは、少し考え込む。

 

「自由意志、ですか……。人間には自由意志があると言われますよね」

 

「そうね。哲学者たちは『人間には自由意志がある』なんて言うわよね。でも、本当にそうかしら?」

 

 麗華は、わざとらしく眉をひそめる。

 

「どういうことですか?」

 

「だって、考えてもみてよ。もし完全な自由意志があるなら、私たちは何をしてもいいってことになるでしょ? 例えば……」

 

 麗華は、ちょっと声を潜めた。

 

「もし自由意志があるなら、私は毎日ドーナツを10個食べちゃうかもしれないわよ」

 

「またドーナッツの話ですか」

 

 宮藤さんは、呆れたように笑う。

 

「そう、想像してごらんなさい。サクサクのドーナツが10個も目の前にあったら……私は間違いなく全部平らげちゃうわ。でも、さすがにそれは体に悪いから、理性が止めるのよね」

 

 麗華は、残念そうに肩をすくめる。

 

「なるほど……確かに、何でも自由にできたら困りますね」

 

「そういうこと。結局、私たちは欲望と理性のバランスの中で生きているだけなのよ。本当の自由意志なんて、幻想なのかもしれない」

 

 麗華は、哲学者っぽく語ってみせる。

 

「でも先生、自由意志がないなら、私たちの行動は全部決められているってことですよね? それって、つまらないような……」

 

 宮藤さんが、不安そうに言う。麗華は、にっこりと笑った。

 

「そこが面白いところなのよ。自由意志があるかないかなんて、結局わからないのよ。だからこそ、自分の意志で選択していると信じることが大事なの」

 

「自分の意志で、ですか……」

 

「そう。例えば、朝起きて歯を磨くのは自分の意志でしょ? 歯磨きしないという選択肢もあるはずなのに、健康のために磨くって決めているのよね」

 

 麗華は、得意げに言う。

 

「なるほど、そういう小さな選択の積み重ねが、自由意志ってことなんですね」

 

「そういうこと。完全な自由意志はないかもしれないけど、自分で選んでいるという実感は大切よ。だって、人生は選択の連続だもの」

 

 麗華は、人生経験豊富な先輩のような口調で語る。

 

「先生の言う通りですね。自由意志を信じることで、人生に責任を持てるんですね」

 

「そうそう。自由意志を信じることで、人生をより能動的に生きられるのよ。受け身じゃなくて、自分で舵を取っていくの」

 

 麗華は、船長のようなポーズをしてみせる。

 

「でも、自由意志を信じすぎるのも危険よね。だって、何でも自由にできると思ったら、暴走しちゃうかもしれないもの」

 

 そう言って、麗華は不敵な笑みを浮かべる。

 

「暴走、ですか?」

 

「そう、例えば……ドーナツを100個食べるとかね」

 

「100個は流石に多すぎですって!」

 

 宮藤さんは、思わずツッコミを入れる。麗華は、楽しそうに笑う。

 

「冗談よ、冗談。でも、自由意志と理性のバランスは大切よね。自由を謳歌しつつも、節度を持つこと。それが大人の生き方ってもんよ」

 

 麗華は、妙に説得力のある表情で言う。

 

「先生の言う通りですね。自由意志を信じつつ、理性も大切にする。難しいバランスですけど、目指したいですね」

 

「そうそう。私たちに完全な自由意志があるかはわからないけど、自由意志があると信じて生きることは大切よ。その方が、人生を楽しめるもの」

 

 麗華は、ウィンクをする。

 

「そうですね。自由意志を信じて、自分らしい人生を歩んでいきたいです」

 

「その意気よ。でも、ドーナツは1日3個までにしておくのよ?」

 

「はい、わかりました(笑)」

 

 二人は顔を見合わせて、笑う。

 

「ふふ、哲学的な話が出来て楽しかったわ。自由意志についてはまだまだ議論の余地があるけど、私たちには自由意志があると信じることが大切なのよね」

 

 麗華は、満足そうに言う。

 

「先生と話していて、自由の大切さを実感しました。自分の人生は、自分で決めていくんですね」

 

「そういうこと。だから、自由意志を信じて、思い切り人生を楽しんでいくのよ。時には失敗もあるかもしれないけど、それも自由の証よね」

 

 麗華は、力強く言う。自由意志の存在は証明できないけれど、自由を信じて生きていくこと。それが彼女の人生観なのだろう。

 

「先生、今日も貴重なお話をありがとうございました。自由意志について、もっとよく考えてみます」

 

「ええ、ゆっくり考えてみてね。哲学書を読むのもいいかもしれないわよ。難しい本が多いから、眠れなくなっちゃうかもしれないけど」

 

 麗華は、悪戯っぽく言う。

 

「先生ってば、しっかり者のようで茶目っ気があるんですね」

 

 宮藤さんは、苦笑しつつも、麗華の人柄に惹かれていく自分を感じていた。

 

「ふふ、私らしいでしょ? 真面目な話も大切だけど、たまにはこうしてふざけるのも必要よ。それが自由意志の正しい使い方ってもんよ」

 

 麗華は、妙に得意げだ。自由意志は難しい問題だけど、こうして自由に笑えること。それが彼女にとって、自由意志の喜びなのだろう。

 

「先生、これからもよろしくお願いします。自由意志について、もっと一緒に考えていきたいです」

 

「もちろんよ。でも、次は私の自由意志でデートに誘っちゃうかもよ?」

 

「えっ、デートですか?」

 

「冗談よ、冗談。あなたを困らせるのが、私の自由意志の使い道ってわけ」

 

 麗華は、やんちゃっぽく笑う。彼女の自由な生き方に、宮藤さんもつられて笑顔になるのだった。自由意志の存在は不確かだけれど、自由に笑える喜び。それが二人の心を繋いでいく。麗華は、そんな自由の力を信じながら、これからも人生を謳歌していくのだろう。自由意志なんて、あったら少し怖いけれど、ある方が人生は面白い。そう信じることが、彼女流の自由なのかもしれない。

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