第3章「神はいないと思うけど、念のため毎日お参りはしている」
「さて、宮藤さん。生きる意味についてはいろいろ考えられましたね。では次に、神様の存在についてはどうお考えですか?」
麗華は、少し意地悪な笑みを浮かべて尋ねた。宮藤さんは、困ったように頭をかいた。
「う~ん、正直よくわかりません。神様がいるのかいないのか……」
「フフフ、それなのよ。実を言うと、私も神様の存在には懐疑的なのよね。だって考えてもみてよ。もし全知全能の神様がいるなら、どうしてこんなに世界は混沌としているのかしら?」
麗華は、大げさに肩をすくめてみせた。
「確かに……。でも、信じている人も多いですよね」
「そうね。でも私の場合、信じられないというより、信じたくないのよ」
「えっ? どうしてですか?」
「だって、もし神様がいるなら、私たちの人生はすべて神様の思し召しってことになっちゃうでしょ? つまり、自分の人生に責任を持たなくていいってことよ。それじゃあ、つまらないわ」
麗華は、わざと不満そうな顔をした。宮藤さんは、少し驚いたようだった。
「なるほど……。でも、神様を信じることで救われている人もいるんじゃないですか?」
「そうね。信仰は人によっては大きな支えになるわ。でも私は、自分の力で生きていきたいの。神様に頼るんじゃなくて、自分の意志で選択していきたいのよ」
麗華は、真剣な眼差しで言った。
「先生は、神様を信じていないんですね」
「信じていない、というか……まあ、半信半疑ってところかしら。でも念のため、毎朝お参りはしているのよ」
「えっ、でも信じていないのにお参りを?」
「ええ、それが母の遺言みたいなものでね。『神頼みの方がいいことあるわよ』って言われ続けて、今じゃ習慣になっちゃったのよ」
麗華は、わざとらしく嘆息した。
「でも先生、それじゃあ神様に失礼じゃないですか?」
「ふふ、私はね、お参りは自分のためにしているのよ。神様のためじゃなくてね。お参りをすることで、自分を見つめ直す時間になるの。それに、早起きする習慣にもなるしね」
「なるほど、お参りにも意味があるんですね」
「そういうこと。ま、ご利益があるかどうかはわからないけどね。それに……」
麗華は、少し声を潜めた。
「実は私、ご神木よりご神酒の方が効くのよね」
そう言って、麗華はウインクをした。宮藤さんは、思わず苦笑した。
「先生、お酒の話はいいんじゃないですか……」
「冗談よ、冗談。でも、お参りの後の一杯は格別なのよね。神様も、きっと許してくれるはずよ」
麗華は、悪戯っぽく笑った。
「それにしても先生、毎日お参りをするのは大変じゃないですか?」
「ああ、それがね……」
麗華は、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「私、実は通い始めた神社の神主さんが気になっているのよ」
「えっ、神主さんが?」
「そう、なかなかのイケメンでね。毎朝会えるから、お参りが楽しみなのよ。まあ、ご利益はなくても、眼福にはなるってわけ」
麗華は、にまにまと笑った。宮藤さんは、呆れたように首を振った。
「先生、そういうのは倫理的にどうなんでしょうか……」
「だいじょうぶよ、私は医者だもの。倫理観はしっかりしているわ。神主さんとは、あくまで神聖な関係を保っているのよ」
麗華は、真面目な顔で言った。が、どこか嘘くさい。
「それに、私は神様の存在は信じていないけど、縁結びぐらいは信じているのよ。もしかしたら、神主さんとの出会いも、神様が与えてくれたチャンスかもしれないじゃない」
「先生……もうわけがわかりません」
宮藤さんは、頭を抱えた。麗華は、楽しそうに笑う。
「冗談はさておき、私が言いたいのは、信仰は人それぞれってことよ。神様がいるかいないかなんて、結局わからないことなの。だからこそ、自分の信じる道を歩めばいいのよ」
麗華は、優しい眼差しで宮藤さんを見つめた。
「先生の言う通りですね。信仰は、自分で選ぶものなんですね」
「そういうこと。私は神様より、自分を信じる道を選んだのよ。でも、それが正解かどうかは、まさに神のみぞ知るってことね」
麗華は、ウィンクをした。
「まあ、お参りぐらい続けても損はないわ。健康のためにもいいしね。それに、イケメン神主さんに会えるし」
そう言って、麗華は悪戯っぽく笑った。
「先生ってば、本当に信じられないですね……」
宮藤さんは、呆れつつも、どこか楽しそうだった。
「ふふ、私らしいでしょ? 信仰も恋も、自分次第よ。人生に正解なんてないんだから、自分の信じる道を楽しく歩むことが大事なのよ」
麗華は、人生を謳歌するように言った。神様の存在は定かではないけれど、こうして自分らしく生きられること、それが彼女にとっての神様の贈り物なのかもしれない。麗華は、そんなことを思いながら、お参りの予定をメモするのだった。神主さんとのデートの予定も、こっそり書き加えておくことにしよう。
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