第1章「生まれてきた理由なんて、誰にもわからない」
「さて、宮藤さん。人生の意味を探る前に、そもそも私たちはなぜこの世界に生まれてきたのでしょうかね?」
麗華は、宮藤さんに問いかけるように言った。宮藤さんは、少し困ったような表情を浮かべる。
「う? ん、そりゃあ両親がいたからですかね……」
「ふふ、そうね。でも、両親に聞いてみても、満足な答えは返ってこないのよ。私の場合なんて、『授かり婚だったのよ』なんて言われちゃった。まるで私が予定外の産物みたいじゃない!」
麗華は、わざとらしく眉をひそめて見せた。
「それに、神様に聞こうとしても、いつも留守電話ばっかりなの。『ただいま神様は創造業務のため電話に出ることができません。世界の理(ことわり)についてのお問い合わせは、哲学書を読むなどしてご自身でお調べください』なんてさ」
宮藤さんは、麗華の冗談に思わず苦笑した。
「結局ね、気づいたら医者になってたってわけ。特に深い理由もなく、なんとなく流されるまま生きてきちゃった。人生ってそんなものよね」
麗華は、投げやりに言いながらも、どこか楽しそうだった。
「でも先生、生まれた理由がわからないなら、見つけていけばいいんじゃないですか?」
宮藤さんが、真剣な眼差しで言った。麗華は、少し驚いたように彼を見つめる。
「おや、前向きなこと言うじゃない。確かにそうね。生まれた理由は最初からあるわけじゃない。生きていく中で、自分なりの理由を見出していくしかないのかもしれない」
「そうですよ。だって、生まれてこなければ、先生の言うおいしいカレーにも出会えなかったわけですから」
宮藤さんは、にっこりと笑った。麗華も、つられるように笑顔を見せる。
「ああ、そういえばカレーの話をしたわね。人生の意味を探すのはちょっと置いといて、今度ここの近くの名店に連れて行ってあげるわ。私の知る限り、この世界に生を受けた意味がわかる一皿よ」
「そんなカレー、ぜひ食べてみたいです」
「でしょう? それに、もしかしたらカレーを食べてる時が、私たちが生まれてきた本当の理由なのかもしれないわ」
麗華は、わざと真面目な顔で言った。
「カレーを食べるために生まれてきた、ですか?」
「そう、壮大な使命よね。神様も、私たちにそれぐらいの役割は期待してるんじゃないかしら」
二人は顔を見合わせ、大笑いした。
「冗談はさておき、生まれた理由なんて、そう簡単にはわからないものね。でも、わからないなりに、自分らしく生きることは大切よ。そうやって生きてく中で、ふとした瞬間に理由を感じられたりするものなの」
麗華は、優しい眼差しで宮藤さんを見つめた。
「そうですね。先生と話していて、なんだかそういうことを感じました。生まれた理由は、自分で作っていくものなのかもしれません」
「そういうこと。私たちは、生まれた理由を探すために生まれてきたのかもしれないわね。なんだか矛盾してるけど、人生ってそういうものよ」
麗華は、ウィンクをした。
「まあ、そんなに深く考えても仕方ないわ。今ここにいるということ、それが私たちにとって一番大事なことなのよ。ほら、窓の外、いい天気でしょう? こんな日は、公園でも散歩したくなるわね」
「そうですね。先生、今度一緒に散歩でもしませんか?」
「あら、それはいい提案ね。でも、その前にカレーを食べに行かなきゃ。人生の意味より、今は目の前のカレーが大事なのよ」
麗華は、真剣な表情で言った。宮藤さんは、彼女のユーモアが心地よかった。
「そうですね。今を大切にしないと。先生、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。あなたの人生の意味、一緒に探していきましょう。……なんて、大げさなことは言わないわ。でも、一緒に楽しく生きていければいいわね」
麗華は、微笑んだ。生まれた理由はわからないけれど、こうして患者さんと笑顔で話せること、それが彼女にとって大切な意味を持つのだろう。人生の意味は、探せば探すほど深くなるけれど、シンプルなことにあるのかもしれない。麗華は、そんなことを感じながら、宮藤さんとの対話を続けるのだった。
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