ある女性精神科医の人生考察~まあ、そんな大したことじゃないけどね★~
藍埜佑(あいのたすく)
プロローグ
麗華は、いつものようにリラックスした様子で診察室に座っていた。彼女は精神科医としての仕事を愛していたが、時には患者の悩みに真摯に向き合うあまり、自分自身の人生について深く考え込んでしまうこともあった。
そんなある日、診察室のドアがノックされた。
「どうぞ、入ってください」
麗華が答えると、ドアが開き、見慣れない男性が入ってきた。彼は神妙な面持ちで、どこか疲れているようにも見えた。
「初めまして、宮藤と申します。先生、実は最近、人生に疲れを感じていまして……」
男性は言葉を探るように話し始めた。
麗華は穏やかな笑顔を浮かべ、彼を座らせると、お茶を勧めた。
「宮藤さん、そういうお悩みは誰にでもありますよ。さて、どんなことで疲れを感じているのか、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
麗華の優しい言葉に、宮藤さんは少し緊張がほぐれたのか、徐々に本音を語り始めた。
「毎日同じことの繰り返しで、生きる意味がわからなくなってしまったんです。朝起きて、会社に行って、仕事をして、帰宅してご飯を食べて寝る。その繰り返しです。楽しいこともありますが、どこかむなしさを感じてしまって……」
麗華はうなずきながら、宮藤さんの話に耳を傾けた。彼女自身、人生の意味について問い続けてきた身だった。精神科医になる前は、哲学書や宗教書を読み漁り、あらゆる思想に触れてきた。だが、結局のところ、明確な答えは見つからなかった。
「そうですね、人生の意味なんて、簡単に見つかるものではありませんからね」
麗華は、わざと投げやりな口調で言ってのけた。
「ええっ?」
宮藤さんが驚いたように目を見開く。
麗華は、にやりと笑みを浮かべた。
「冗談ですよ。でも、本当のところ、人生の意味について、私にも確実な答えはないんです。ただ、精神科医として多くの患者さんと接していく中で、ちょっとした心境の変化があったんですよ」
「心境の変化、ですか?」
「そうなんです。生まれてきた理由も、生きる意味も、死後のことも、正直わからないままなんですけどね。でも、だからこそ人生は面白いとも言えるんじゃないでしょうか」
麗華の言葉に、宮藤さんは少し考え込む様子だった。麗華は、さらに続けた。
「人生に絶対なんてないからこそ、自分なりの答えを見つけていく楽しさがあるんです。確かなことなんて何一つないけれど、それでも今この瞬間を大切に生きる。そういうことなのかもしれません」
「なるほど……」
宮藤さんは、麗華の言葉の意味を噛みしめるように、ゆっくりとつぶやいた。麗華は、優しい目差しで彼を見つめた。
「私の考えが、宮藤さんのお悩みの解決に直結するわけではないと思います。でも、もしよかったら、私なりの人生観をお話ししますよ。ちょっと大げさに言えば『ある女性精神科医の人生考察』ってところですかね。まあ、そんな大したことじゃないんですけどね」
そう言って麗華は、わざとらしくウィンクをした。宮藤さんは、思わず吹き出した。
「ぜひ、聞かせてください。先生のお話、楽しみにしています」
「ありがとうございます。でも、ちょっと長くなるかもしれませんよ。お腹が空いたら言ってくださいね。ここの近くにおいしいカレー屋さんがあるんです。私の大好物なんですよ」
麗華は、人生の深淵について語ろうとしている割に、妙に上機嫌だった。宮藤さんは、彼女の飾らない人柄に、すでに心を開きつつあるようだった。
「それでは、『まあ、そんな大したことじゃないけどね★』って感じで、気楽に聞いていってくださいね」
麗華は、くすくすと笑いながら、自らの人生考察を語り始めるのだった。
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