花束と銃口
『フラナデール・リティ』
控室へと戻る廊下を歩いていたフランは、静かな
『ミズ・マーズ?』
スタッフたちに許可を取ると、フランはリラの側に寄った。
『来てくださったのですか? ありがとうございますわ』
『こちらこそ、覚えていてくださり光栄です』
『お仕事のお相手は、できる限り覚えておくようにと言われているものですから』
リラは薄く笑うと、手に持っていた花束をフランに差し出した。
『公演の成功と、お誕生日のお祝いに。受け取っていただけますか?』
『まあ、嬉しい』
大きな花束にはずしりとした重みがある。フランは花束を受け取ると、目を細めて色とりどりの花弁をそっと撫でた。
『この花、ポピーね。ミズ・マーズはポピーの花言葉をご存じかしら?』
フランが問うと、リラは少し考えた後で伝えた。
『……静寂を返せ、でしょうか?』
『え?』
フランがきょとんと顔を上げる。その胸元に、花束の間からのぞく黒光りする銃口が向いていた。
『──フラン!』
ユーロゥが廊下に着いた時、目に映ったのはスタッフに取り押さえられたリラと、血溜まりの中に倒れるフランの姿だった。
『
『既に
止血に対応するスタッフが告げると、ユーロゥは青ざめた顔で拘束されたリラの側に寄った。床に落ちる
『ミズ・マーズ、何故彼女を撃った?』
乱れた髪を揺らして、リラは暗い笑みを浮かべた顔を上げた。
『これ以上、
昂っていた鼓動と血圧が氷点下まで下がったような心地がした。
たかが声有り。
それを決意するに至った
目の前の女にとっては、その程度のことでしかないのだ。
『……君の主張は、把握した』
両手を強く握りながら、彼はリラを見下ろした。
『けれど、暴力でしか押し通すことのできない主張に価値があるとは、僕には到底思えない。君とは法廷で決着をつけさせてもらおう、ミズ・マーズ』
それだけ伝えてユーロゥは耳を澄ませる。どうやら救急隊が到着した様子だった。
だが自分は、彼女に付き添うことができない。
起こってしまった事態なら、ユネイル社の代表として、未来に最も効果的となる形で事後処理を行わなければならない。共に闘ってきた彼女のためにも。
(……どうか、死なないでくれ)
祈る神のないことが。上げる声を持たないことが。これほど口惜しく感じたのは初めてのことだった。
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