私と、推(お)しのコンビニ店員ちゃんとの出会い

 私の職場しょくば雑居ざっきょビルの二階にかいで、コンビニまではあるいて一分いっぷんからない。ベンチャー会社で、会社といっても社員しゃいん十人じゅうにん以下いかだ。そして私は派遣はけん社員しゃいんである。


 簡単かんたん仕切しきいた区切くぎられたスペース、そこが私の食事しょくじ場所ばしょだ。コンビニでってきたパンやみものを手早てばや片付かたづけていく。社員しゃいんはそれぞれが自分じぶんのペースで業務ぎょうむをこなしていき、しょくのタイミングはわりとバラバラだった。


 なか社員しゃいん同士どうし一緒いっしょにランチへくのだろうが、私はだれともいがない。私の恋愛れんあい対象たいしょう同性どうせいで、それも人付ひとづいをけている理由りゆうではあった。同僚どうりょうとの距離感きょりかんちかいと、どんな間違まちがいがこらないともかぎらない。社内しゃない恋愛れんあいはご法度はっとで、派遣はけんの私はなにかあればさきにクビをられるポジションだろう。カミングアウトなどは出来できるはずもなかった。


 職場しょくばにはひとすくない。そもそも社員しゃいん全員ぜんいんはいるにはせま場所ばしょなのだ。だからちかくのコワーキングスペースを利用りようしたり、テレワークで自宅じたく仕事しごとものおおい。私がそうしない理由りゆうは、職場しょくばちかくのコンビニ店員てんいんである彼女にいたいからかもしれない。


 仕事しごとかりながら、私はしである彼女のことをおもう。最近のコンビニは、みせ方針ほうしんにもるのだろうけど、店員の名札なふだても名前なまえからなかったりする。プライバシーをかんがえてのことだろう。私はしである女子じょし店員てんいんちゃんの名前なまえすららないのだった。


(留学生りゅうがくせいなのかなぁ。コンビニではたらいてる外国人がいこくじんって、どんな背景バックグラウンドがあるんだろう)


 毎日のようにコンビニを利用りようしているのに、そこではたらいている外国の方々かたがたのことを私はなにらない。大半たいはんの日本人も、私と同様どうようなのだろうか。世界にけないのは勝手かってだけれど、づけばドルがたかくなってえんやすくなる一方いっぽうだ。日本が世界からけられなくなるのうせいだってある。


 給料きゅうりょう何年なんねんがらない。がっても物価ぶっかだかにはけなくて、同性婚どうせいこんもできない。どんどん魅力みりょくがないくにになっていないだろうか。派遣はけん社員しゃいん同性どうせい愛者あいしゃの私は、今後こんご国内こくないで私へのあつかいがわらないとかっている。それでなに文句もんくわず、ただ税金ぜいきんをひたすらはらうことだけもとめられるのだろう。ああちがった、『めよ、やせよ』と周囲しゅういからわれつづけるのか。


 カミングアウトもしない私は、べつなにもとめない。そのわり他人たにん干渉かんしょうれない。ただ私はしの存在そんざいむねとどめてきていくだけだ。そして現在げんざい、私のしは職場しょくばちかくのコンビニ店員てんいんちゃんなのだった。




 私くらいこじらせのレベルがたかくなると、業務ぎょうむかたづけながらしのことをかんがつづけることが可能かのうだ。私がはじめて彼女とったのは、たしげつほどまえだから五月ごがつだ。脳内のうないスクリーンには、そのときの光景こうけいかびがってくる。最初さいしょ遭遇そうぐうなにもドラマチックなことがかったけれど、それでも私にっては、印象いんしょうてきなシーンがいくつかあった。


『はい、ありあとしたー』


 いまよりもさらひどい、けた彼女のレジ対応たいおうが、そのの私をビックリさせた。ありがとうございましたとっているのだろうか。やっぱり時間じかん昼時ひるどきで、私はレジまえ行列ぎょうれつならんでいるところだった。きゃくきゃくともおもっていないような態度たいどで、こともあって、会計かいけいませたきゃくおこるというよりこわがってみせそとへと足早あしばやていったものだ。


 ああ、私も対応たいおうをされちゃうのかなとおもったものの。しかし私は、コンビニ店員てんいんちゃんが不機嫌ふきげんそうな対応たいおうをしているのには、なに理由りゆうがあるのかなぁともおもっていた。もちろん、なに理由りゆうがない可能性かのうせいだってある。だけど、たとえば身内みうち不幸ふこうがあったのかもしれない。


 コンビニ店員てんいんたいして、きゃくの私たちは愛想あいそさをもとめる。しかし、それは勝手かってけかもしれない。女性にたいして『めよ、やせよ』という勝手かって期待きたい周囲しゅういからけられるように。だから私は、彼女を理解りかいしたいとおもった。


 そんな私のおもいに、たして意味いみがあったのかどうか。のちしとなる彼女が、私の会計かいけいをするときがて。ひくい彼女は私を見上みあげるかたちになって、おたがいのった。ひとみれて、なものをるような反応はんのうがあった。彼女がなにかんじたのかはからない。


 私のほうは、彼女のはだ綺麗きれいだなぁとおもっていた。いまちがって化粧けしょうもしていなくて、わかでもそとられるのだとらしめられた。私にも、こんな時期じきがあったのだろうか。いまとなってはうたがわしいかぎりだ。


『あ、ありあとしたー……』


 こころなしか小声こごえになっていた。からないが、彼女がかかえる不満ふまんが、すこしでも解消かいしょうされたのならなによりだ。私はレジぶくろると、『ええ、ありがとう』と微笑ほほえんで見せた。彼女はビックリした様子ようすだったけど、じつは私も内心ないしんおどろいている。職場しょくばではだれにも笑顔えがおなどけず、ただひとりでごしているだけの、この私がと。


 以上いじょうが私と彼女のファーストコンタクトである。意識いしきしていなかったけど当時とうじから、彼女は私にって特別とくべつ存在そんざいだったのだ。脳内のうないスクリーンで当時とうじ見返みかえしてみると、それがかった。

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