買う側、買われる側

転生新語

「いらっしゃーませー」

　職場（しょくば）近（ちか）くのコンビニに行（い）くと、今日も気（き）の抜（ぬ）けた女子（じょし）店員（てんいん）の声（こえ）が出迎（でむか）えてくれた。ここの店（てん）員（いん）は、たぶん全員がアジア系（けい）の外（がい）国（こく）人（じん）だ。お昼（ひる）の時（じ）間（かん）帯（たい）は女子（じょし）店員（てんいん）がいて、夜（よる）になると男子（だんし）店（てん）員（いん）が働（はたら）いていると。基本はそんなシステムらしい。

　今（いま）は昼時（ひるどき）で、オフィス街（がい）だからか、昼（ひる）休（やす）みに入（はい）った男女（だんじょ）がレジ前（まえ）で列（れつ）を成（な）している。いつもどおりの光景（こうけい）だった。この辺（あた）りのコンビニでは一番（いちばん）の人気（にんき）店（てん）ではないだろうか。雑誌（ざっし）の立（た）ち読（よ）みが可能（かのう）で、女子（じょし）店員（てんいん）が可愛（かわい）い。特（とく）に後者（こうしゃ）は重要（じゅうよう）なポイントで、男性（だんせい）客（きゃく）が多（おお）い気（き）はした。

「ありあとござましたー」

　ありがとうございました、を極限（きょくげん）までだらけた口調（くちょう）にすると、こうなるのだろうなと。そう思（おも）わせる声（こえ）が今日も聞（き）こえてくる。私は店内（てんない）を回（まわ）りながらも耳（みみ）を傾（かたむ）けていて、心（こころ）が癒（いや）されていくのを実感（じっかん）していた。ここの店員（てんいん）は、ほぼ全員（ぜんいん）が礼儀（れいぎ）正（ただ）しいけれど、唯一（ゆいいつ）の例外（れいがい）である彼女はだ（・）ら（・）け（・）口調（くちょう）が甚（はなは）だしい。そして私は、彼女のそんな口調（くちょう）が大好（だいす）きなのだ。困（こま）ったことに。

　あれこれ食（た）べものと飲（の）みものを買（か）い物（もの）かごに入（い）れて、私もレジ前（まえ）に並（なら）ぶ。レジの会計（かいけい）は二人（ふたり）の女子（じょし）店員（てんいん）が対応（たいおう）していたけど、運（うん）よく私は、だらけた口調（くちょう）の彼女の前（まえ）へ進（すす）むことができた。

「あー、お姉（ねえ）さん。今日も美人（びじん）だネ」

　笑顔（えがお）で、そう言（い）ってくる。私に言（い）わせれば彼女こそ美人（びじん）だ。背（せ）は低（ひく）くて一五〇センチ程度（ていど）だけど（ちなみに私は一七〇センチ以上（いじょう）で無駄（むだ）に背（せ）が高（たか）い）、日（に）本（ほん）人（じん）とはまた違（ちが）った、東洋的（オリエンタル）な雰（ふん）囲（い）気（き）がある。目（め）は少（すこ）しき（・）つ（・）い（・）けれど、私の前ではその目（め）が優（やさ）しく緩（ゆる）んで、更（さら）に口調（くちょう）はだ（・）ら（・）し（・）な（・）く（・）なった。

「ありがとう。美人（びじん）さんに言（い）われると嬉（うれ）しいわ」

　軽（かる）く返（かえ）して見（み）せるけど、私の内心（ないしん）は少女（しょうじょ）みたいにドキドキしている。私は二十代（にじゅうだい）後半（こうはん）で、彼女は……幾（いく）つだろう？　二十代（にじゅうだい）前半（ぜんはん）だと思うけど、十代（じゅうだい）と言（い）われても納得（なっとく）しそうな若（わか）さだった。

　もっと話（はな）したいけど、私の後（うし）ろには客（きゃく）の行列（ぎょうれつ）ができている。彼女からレジ袋（ぶくろ）を受（う）け取（と）って、笑顔（えがお）を交（か）わしてコンビニから出（で）た。これで今日の仕事（しごと）も乗（の）り切（き）れる。彼女は私の推（お）しで、その存在（そんざい）は私に活力（かつりょく）を与（あた）えてくれていた。