ἔρως
研究所からの配給が途絶えて数週間はたった頃だろうか。
一部の住人が
さらに警備兵にも銃を脅しの道具として食料を奪うような輩まで出てきた。
もはや終末にふさわしい光景だといえよう。
「これで、いいかな...?」
カリンが着替えをしてきた。
その姿は住人たちと同じようなボロ布を見に纏うようなスタイルだった。
「うー...。まあ、しかたないか」
彼女は不服そうであった。
なぜならば、私が着替えるようにと強く言ったからだ。
彼女の可憐で美しい容姿はもとより、外部から収穫した衣服は色鮮やかで人目をひいてしまうのだ。ミニスカートは彼女の白く玉のような柔肌の太ももを晒す。
その肉にしゃぶりつきたいと思う住民は少なくなかったのだ。
「あ!ここリボンにして...え?やめたほうがいい?そっか...」
悲しそうな彼女の顔を見るのは辛い。
だが、これも彼女を守るためなのだ。
...
.....
.......
やられた。
私とカリンの愛の巣に盗賊が入ってしまった。
少しの間留守をした間に、窓を破られてしまい栽培していた野菜を根こそぎ奪われたのだ。怒りが収まらない私に彼女は微笑んで言った。
「だいじょうぶ、また作ればいいんだから」
だが、私は知っていた。
彼女は時折収穫した野菜を持って、家を出ていた。
私が後をつけると彼女は瓦礫の家のような何かに住む住人たちにそれを与えていたのだ。彼らは感謝の言葉など口にもせず我先にと野菜に群がっていた。
「おい、もっとないのか」
粗暴な男が彼女に詰め寄るように言った。
「ごめんなさい...今はこれだけしかなくて」
「あ?そんなはずないだろう!なんだその顔の艶は...俺達は配給もまとも食えずにやつれていくというのに...いい、女の匂いだ」
「も、もういくね!また来ます...!!」
彼女は逃げるようにして走り去った。
その姿を住人たちはじっと見つめていた。
その光景を見た私は、彼女の聖母の如き優しさに胸を打たれつつも
邪悪で陰湿な連中への怒りが止まらなかったのだ。
今回の盗みの一件も連中の仕業だろうと私は睨んでいた。
...
.....
.......
私は彼女に黙って、盗人の追跡を行うこととした。
愚かな盗人は野菜くずが道端に落としていることに気づいていないようだ。
それを辿っていくと、やはりカリンが施しをしていた集落だった。
奴らは"料理"という概念がないらしい。
盗んできた野菜をわめきながら食い荒らしている。
「この芯はかたくて食えやしない!」
高齢と思われる女がそう言い放った。
あろうことか、まだ食べれる部位まで捨てているではないか。
醜悪なゴブリンのような連中に私とカリンが育てた野菜を喰う資格はない。
そう決意した私に、もはや迷いはなかった。
ちかくにあった古びたパイプのようなものを手に、彼らの眼前に向かっていった。
その時の肉が飛び散る様子、そして硬い骨が砕ける音は忘れはしない。
私は自分の口角があがっている事に気づいたが、気にしないことにした――
...
.....
........
帰宅した私を見てカリンは悲鳴をあげた。
「いったい...なにがあったの?!」
私の衣服は盗人たちの穢れた血にまみれていた。
だが、事実を話せば彼女は傷つくだろう。
故に私は、集落を襲っている捨て人に遭遇し彼らを守ろうとしたが間に合わなかったことを彼女に伝えた。
「そ、そんな...君は大丈夫なの?!怪我してない!?」
彼女の必死な顔を見ると私も胸が苦しくなってくる。
その顔をみて涙をこらえると、彼女は私を抱きしめてくれたのだ!
盗人どもの死がもたらしたのは、なんという
彼女を守ろう。
そう固く心に誓いを立てた。
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