ἡ ἀρχὴ τοῦ τέλους

巨大なセリオンの襲来後、数日が経った。

思っていたほどの動乱はなく街中は不気味な静けさを漂わせていた。


絶対的な保護を与えてきた黒き竜の不動。

それは信仰者にとって何を意味するのか。


私はカリンの家に居候をさせてもらい、

少しずつ灰にまみれた崩壊世界の知識を蓄えていく事にした。


もはや夢だなどとは言うまい。

これはまぎれもない現実だ。


そして現実であることを望む心が確かにあった。

何故そのようなものがあるのか。

答えは簡単だ。


カリンの存在である。


彼女は崩壊世界において、咲いた一輪の華ともいうべきものである。

優しくも強い心をもち、華奢な肉体は少しひねれば折れてしまいそうだ。


瓦礫がれきまみれの街を歩いていくと、特にそう感じる。

人々はボロボロの布切れのようなものをまとい、汚らわしい。

身を寄せ合い、ぼそぼそと何かを彼らは呟いている。

それは世界への恨みか、他者への妬みか。

なんとも醜悪なことだ。


カリンと歩けば彼らの視線は私ではなく彼女に一心に注がれていく。

獣のように飢えた目で。

だが、それも致し方ないのかもしれないと思い始めてもいる。


彼女は美しい。


崩壊世界には似つかわしくない可憐な装いは、外部からの収穫だという。

鮮やかな色合いの布地に、うら若き乙女が履く短いスカート。

そう、それは白い灰をまるでキャンパスとして描かれた華なのだ。

もしやこの灰はそういった役割があるのか?


...

......

...........


ある日、街中が騒がしくなった。


黒い竜が倒れたのだそうだ。


私とカリンもその現場を確認しに行くと、大勢が集まっていた。

警備兵が黒い竜をつつくも、ビクともしない。

もはやそこにあるのは肉にすぎなかったのだ。


かの竜を食料として配給対象にすべきだという意見と

ご神体として祀るべきなのだという意見で分かれた。


そして過激な信仰者が暴れ始めた。

銃声が鳴り響き、戦闘が発生した。


当初、武器をもたない信仰者たちはすぐ制圧されるものと思ったが、

彼らの中から捨人すてびとになるものが現れた。

その捨人は周囲の信仰者の死骸を自らに取り込み、巨大な肉だんごのような姿となって警備兵を吞み込み始めた。


多大な犠牲を出しながらも捨人は息絶えた。

そして残った肉だんごのような体に住人たちは群がり、その肉を食べていた。


カリンの小さく白い手は震えていた。


「なんで...」


彼女の声も同様に震えていた。

その呼吸の一息すら、私には馳走、だ。


...

......

..........


基地キープでは食料の配給が止まってしまった。

頼みの綱であった研究所からの食料供給が停止したのだ。


警備兵がこじ開けようとしても、研究所の扉は堅く封鎖されビクともしない。


人々はパニックに陥った。

依存していた食料源がなくなってしまったのだ。


かたや私はカリンの家での栽培された野菜や、カリンが外から持ってきてくれる缶詰などの食料があった。

私も食料調達の為に外に行きたいと申し出たが、危ないからと制止されてしまった。


「じゃじゃーん!今日はポークビーンズの缶詰です!」


カリンが微笑み、缶詰を温めてもってきてくれる。

彼女との食事は胃袋だけでなく、私の乾いた心を満たしてくれる。


食事の最中、窓のカーテンがすこしだけ開いてしまっているのを見つけた。

その部分を良く見ると、外から誰かが覗いているではないか。

私が外に出て捕まえようとすると、カリンは「大丈夫だから...!」となぜか止めようとしてくる。


きっと彼女を狙いに来たに違いない。


私の物なのに。


下劣で、性欲にまみれた目線で彼女を見るな。


その日の夜、私は寝ずに金属のパイプを手に持ち窓辺に立っていた。

彼女の寝顔を見ながら、その美しい四肢に舌を這わせる欲求を抑えながら、侵入者がきたときに対処できるように――

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