Θάνατον καλοῦσα λευκὴ τέφρα
その光景を、私は目覚めたとしても忘れないだろう。
眼前には、マンハッタンのような高層ビル群がそびえ立つ姿が見える。
だが、それらのビルはかつての栄光を失い、崩壊寸前の姿をさらしていた。
ひび割れたガラス窓、剥がれ落ちた外壁、そして傾いた建物。
それらが、かつての繁栄の名残を物語っている。
そう、まるで何十年何百年と放置されてきたかのように。
すぐそばには広大な海が広がっており、その荒れ狂う波の音が耳をつんざく。
潮の香りが風に乗って漂ってくるが、それは新鮮というよりもどこか腐敗したような、不吉な匂いが混じっていた。
空を見上げると、灰色の雲が重く垂れこめ、まるで世界全体を覆い隠そうとしているかのようだった。
灰が静かに降り注ぎ、地面を薄く覆っている。
その灰の中に、かつての活気溢れる街の面影を見つけることは難しい。
後ろを私は振り返るが、そこに"扉"はなかった。
私は、かつて道路であった場所をゆっくりと進み始めた。
目の前の広がるビル群に向けて。
所々道は陥没し、穴が開いていた。
その穴を覗くと私は驚きを隠しきれなかった。
そこにあったのは、海。
海が、その穴の下に広がっていたのである。
都市の下の海...?私の脳内は疑問符にあふれ、しばらくその穴を覗いていた。
すると、波の中に大きな目が浮かび上がってくるではないか。
私は驚き腰を抜かしそうになりながら、その穴から遠ざかる。
私は走った。
心臓の鼓動がドクドクと早く脈打つ音が聞こえるが、構いはしなかった。
だが大きく息を吸うたびに肺が強く痛むようになってきて、私は足を止めざるを得なかった。
ゲホゲホと咳をしていると"それ"は喉から出てきた。
大きな灰の塊だ。
この地表を覆い尽くさんと空から降ってきている白い灰。
体に良くないものだとわかっていたが呼吸困難に陥る程のものだとは思わなかった。
急いで服で口と鼻を抑える。
ひとまずはこれで大丈夫だろう。
歩みを進めると、やがて大きな鉄格子のようなゲートが現れる。
見張り台のような場所にはガスマスクをつけた兵士のような者たちがいた。
私は安堵する。
人がいたのだと。
歩みを早くしてそのゲートに近づくと、路地から一人の女性が近づいてきた。
全身をローブと布で覆っており、目の部分だけが開いていた。
おそらく高齢なのであろう、目元は皺だらけだった。
「どうぞ、見ていってください。新鮮な食べ物ですよ」
彼女はランチボックスのようなものをローブの中から取り出して見せた。
内心、ありがたいとそれに手をかけて開けた。
中に入っていたのは、ぐちゅぐちゅと不快な音を立てる肉だ。
まるで豚の脂身と皮に張り付いているかのような赤い肉が
私は思わず声をあげてしまった。
すると女性は急かすように、それをグイグイと押し付けてくる。
私は拒絶し、それを押しのけた。
その衝撃でランチボックスから肉がドロリと地面に落ちてしまった。
「ぎゃあああああああ!!!!」
女性は叫び声をあげ、その肉をかき集めるかと思いきや顔を覆っている布をとり、
獣のように喰い始めたのだ。
ぐちゅちゅと咀嚼する音が響き、辺りに肉の血が散乱する。
目を凝らしてみると、その肉の中には人の目玉のようなものがあった。
そしてそれは流れるはずのない涙をながしてた。
やがて目玉は女性...老婆の鋭利な歯によって潰されてしまった。
一通り食べ終えた老婆は奇声をあげた。
すると彼女のローブを破って、まるで翼のようなものが生えてきたではないか。
だが異質なのは、その翼は骨に張り付いた薄い肉しかついていなかったことだ。
とてもではないが"翼"としての機能があるようには思えなかった。
それにも関わらず彼女は、その翼が飛べるかのように動かしながら私に向けて突進してきたのだ。
私は必死に走った。
もはや灰を吸い込もうが一切構わなかった。
すぐ後ろを奇声をあげて襲い来る老婆の化け物が迫ってきているのだ。
ゲートまでたどり着くと私は、開けるように見張りに懇願した。
だが、ガスマスクの男たちは一切動こうとしない。
老婆は迫り、私は死を覚悟したのだ。
そう、"夢"なのだから。
これがその覚醒のきっかけなのだろうと。
目をつぶろうとした瞬間、その声は聞こえた。
「これは―――夢なんかじゃないよ!」
路地から飛び出してきた少女のように思えるガスマスクの人が、私の手を引っ張り路地へと引きずり込んでいく。
「走って―――!」
その声は弱弱しくも必死さを伝えるのには十分であった。
私は彼女に手を引かれながらも薄暗い路地を進んでいく。
ふと、後ろを振り返ると異形と化した老婆がゲートに体当たりをしていた。
そしてガスマスクの見張りによって銃で撃たれ、暴れまわりながらも逃げていった。
少女に誘われるまま、私は下水道に降り不快な空間を進んでいく。
私が何かを言おうとしても、彼女は口に指をあてて「しゃべるな」といわんばかりに制止された。
やがて、上へと続く梯子が見えてきた。
彼女はそれを指さして「登れ」というジェスチャーをし、
自分のスカートを指さして、×のマークを指でつくってみせた。
そんなところは気にするのだな、と少し可笑しく思った。
指示に従い、私はその梯子を上った。
そして、蓋を開けると、そこはどこかの裏路地であった。
だが路地の上には布がかぶされており、白い灰は降ってこないようになっていた。
彼女は後に続いて登り、蓋を閉めてガスマスクを外した。
マスクを取ると、灰色がかった白い髪が肩に流れ落ちた。
風が髪を乱し、顔にかかるたびに、彼女は手早く払いのけて整える。
その仕草はとても女性的で、私の心をくすぐった。
年齢は10代後半ぐらいだろうか。
儚げで美しい顔立ちは、この荒廃した世界には不似合いに思えた。
私が凝視しているのに気づいた彼女は少し微笑んで
「もう大丈夫だよ」と言った。
この時はそう...思ったのだ。
これが夢でなければいいと。
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