作者による主人公設定の異種格闘技戦

ちびまるフォイ

主人公に求められる最大の能力

「こ、これがS-1コロシアム……!」


初めて鑑賞したそれはまさにカクヨム作者による異種格闘技戦。

自分の創作のキャラが具現化し、お互いの創作キャラ同士と争う。


異世界転生のチート勇者から、

鈍感な恋愛小説の主人公まで。


「ぼくがかんがえたさいきょうのせってい」を

ぶつけあってしのぎを削る戦いに目を奪われない作者はいない。


「俺の最強の主人公もこの戦いに出してやる!!!」


出場には一定のルールが有る、

主人公であること。

作品が一定以上の認知度・人気であること。


出場のためにもまずは人気作品を作ることが大変だった。

流行りに乗っかりまくり、ついに爆誕した最強主人公が出場するまでに半年かかった。


「それでは紹介しましょう!

 "異世界が弱すぎてお話になりません"から、

 『剣狂殺滅けんぐるい さつめ』選手!!!」


自分が作った小説の主人公がゆうゆうとコロッセウムに現れる。

まだ始まってもいないが負ける気がしない。


「ふふふ。あらゆる魔法を習得し、

 攻防一体の剣撃を操り時空をも歪める"光速"の騎士。

 この設定に勝てるキャラなぞいない!」


あらゆる無敵系SUGEEE主人公を下地に

強化チューンナップを繰り返した自慢の主人公。


作中でも焦ったり負けたり傷ついたりしたことがない。


「対するは、あらゆる能力を無効化する主人公!

 "最弱だと思われていた自分の能力が実は無敵でした"から

 『無味無能なみ むのう』選手ーー!!」


現れたのはボッサボサの髪型と覇気の感じない目をした主人公だった。

バトルが始まるや、あっという間に自分の剣狂はボッコボコにされた。


「うあああ! 助けて! なんで能力が出ないんだよぉ!!」


「……」


無言のまま無能にボコられる様子は見ていて辛かった。


自分の作中では涼しい顔で困難を突破し、

ヒロインに褒めちぎられて自己承認欲求を満たす存在だったのに。


敗北を知らないせいか、創意工夫をしなかったせいなのか。


自分の魔法や攻撃が無効化されるやパニックになり、

気がつけばマウントポジションでボコられるという有り様だった。


「こんな弱っちい主人公ダメだ!! 俺の作品にふさわしくない!!」


自分の主人公の敗北は、自己投影した自分の敗北同然。

あまりの悔しさにもっと強い主人公を生み出した。


「これなら負けっこない。

 あらゆる無効能力を貫通する驚異的な能力をもち、

 重力と地殻変動と太陽系の因果をもねじまげ、

 "拘束"の異名を持つ恐るべき神話の戦士だ!!」


たとえ相手がどんな無効化能力を持っていたとしても、

どんな攻撃を仕掛けたとしても絶対に負けない。


負けたとしても時空間をゆがめて過去からやり直せる設定をも追加した。


前後左右あらゆる隙間を「最強」で補強して試合に送り込んだ。


「いいか! お前は無敵だ!! 自分を信じろ!!」


「作者先生、任せてくださいよ。秒殺してきますよ」


送り出した第二の主人公には負けるビジョンが浮かばなかった。

たとえどんな相手だとしても。



「対するは! エッチ同人誌

 『憧れのクラスメートに催眠をかけて好き放題』から

 主人公?のおじさん~~!!!」



現れたのは中年太りでなぜか裸のおっさんだった。

顔すら描かれていない。


あまりの期待外れ具合に失笑がもれてしまった。


「おいおい……まさか同人誌って。

 ペラッペラ数ページ程度の設定しかない主人公に

 俺の最強主人公が負けるわけ無いだろう」


試合がはじまった。


自分の主人公はげに恐ろしき究極極大絶滅破壊魔法の詠唱を始めた。

これはどんな無効化スキルも止められない。

どんな能力を持っている敵でも瞬殺。そういう設定だ。


ましてなんの能力もないおじさんごときにーー。



「おらっ! 催眠!!」



おじさんは裸のくせになぜか持っていたスマホを主人公に見せた。

すると主人公の目からハイライトが消える。


詠唱が完了した魔法を、催眠おじさんの指示通り自分にぶつけた。

エクストリーム自滅で試合は終了。


あまりの悔しさに自分の作品を終わらせた。


「なにが催眠だこのやろーー!!! あんなの卑怯じゃないかーー!!!」


相手の能力を無効化したり、無効化する能力を無効化したり。

確実に仕留められるあれやこれやを考えていたが、

メタボのおっさんに負けるなんて考えられなかった。


無効化するのは本体だけで、催眠スマホに効果はない。


時空を操れるとしても催眠にかかってしまった以上、

意思決定もできなくなるので敗北まっしぐら。


「うう……悔しい……。俺の最強主人公が負けるのが許せない……」


設定を盛れば盛るほど、敗北したときのダメージが大きい。

井の中の蛙だったと笑われるような気分になる。


こんなみじめな感情はもう味わいたくない。

かといって、ここで引くのはもっといやだ。


全主人公を踏み潰し、俺が最強だと。

俺の主人公が最強だと示したい。


「もっと……もっと強い主人公を作ってやる……!!」


それからは主人公の設定づくりに時間をかけた。


これまでは相手の出方を考えずに強さを追い求めていた。

今度は違う。


"とにかく強い自分"ではなく、"どんな相手でも負けない"という点で突き詰める。


相手の能力がなんであっても。

相手がどんな道具を使ってきても。

相手の戦略がどんなに姑息であっても。


負けず、動じず、ゆるがない。


そうして生み出されたのは、自分史上最強傑作の主人公だった。


「できたぞ! 最強の主人公だ!!!」


設定は長すぎて広辞苑ほどの厚みにもなった。

それほどまでに隙のない設定にした。


かなり圧縮して解説するなら。


「どんな能力でも無効化して跳ね返すバリア!

 自分の能力はあらゆる能力を無視する攻撃!

 呪文の詠唱は不要。

 相手の思考を読んで相手が出す攻撃を先につぶす!

 さらに相手の能力をすべて奪い自分のものとし、

 森羅万象の精神攻撃も無効化する。

 

 という最強殺りくロボットだーー!!」



催眠おじさんだろうが。

無効化能力者だろうが。

自分が作った過去作の主人公だろうが。


この究極アンドロイドには勝てないだろう。


この世のすべての人間が生み出す創作物の頂点。

それが自分の作り出したこの最強ロボットだ。


あとはこの主人公が戦いを蹂躙していくさまを見届けるだけ。


けれど障害は思わぬところにあった。


「すみません。出場できませんね」


「はああ!?」


まさかの出場拒否。

どんなに強くても戦う相手がいなければ強さがわからない。


「なんで出場できないんですか!!

 

 そりゃ確かに強いですよ! 圧倒的ですよ!

 でもこの強さは俺の創作の結果じゃないですか!

 

 最強を決める主人公として、出場拒否されるいわれは無いですよ!!」


真っ向からの反論にスタッフは困った顔をした。


「いえそこではなく……」


「じゃあどこですか! なんで俺の主人公だけ出場できないんですか!!」


スタッフは気まずそうに答えた。





「その主人公は完全無欠すぎて……人気ないから出場できないんですよ」

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