第20話 二人目 ミア


「それじゃ、行ってきま~す!」


「リヒト、今日も何処に行くの? きょうは仕事しないで良いの?」


「期待されても困るけど、一応カナの友達探しな……」


「私の友達探しですか……本当に探してくれていたんですね。ありがとうございます。 それなら、私も……」


「いや、良いから」


流石に奴隷商、しかも、その中でも一番酷いであろう店にカナを連れていきたくなかった。


「でも……」


「俺がもし購入するとしたら、カナみたいに酷い目にあっている子なんだ……だから、出来るなら留守番していて欲しい」


「そう言う事なら……」


どうやら納得してくれたみたいだ。


◆◆◆


俺にとってカナが居れば充分だし、他に女性は要らない。


だけど、カナの寂しい気持ちも解る。


今迄、一人ぼっちで生きて来たカナ。


今は俺がいるとは言え留守にする事も多い。


『友達が欲しい』当たり前の事だ。


だが、男を近づけるのは嫌だ。


それじゃ女なら誰でも良いのか?


これも問題がある。


多分、どんな美女を買ってもカナと同じように愛せない。


ハリウッドスター並みに綺麗な子ならエルフや落ちぶれた貴族の令嬢には恐らく居る。


だが、俺は人形者。


フィギュアやドールを愛する存在。


決して出会う事が無い『理想の彼女』カナに出会ってしまった。


きっと、俺はカナと差別する。


いや、それ以前に迎えた相手もカナを嫌うかも知れない。


『難しいな』


俺は奴隷商の言うとおり奴隷市場の前まで来た。


見た感じ、市場の入り口では何人かの男が立っていてお金を取っているようだ。


『入場料銅貨5枚、但し奴隷購入時はこの金額はお返しします』


そう書いてある。


だが、俺の目当てはそこではない。


俺の目当ては、奴隷市場の外、テントみたいな場所で売っている奴隷。


そっちだ。


「すみません、少し見せて貰えないでしょうか?」


「どうぞ、どうぞ……安いよ! 本当に安いよ……質は良く無いけど」


思ったより……酷いな。


「あの、女性の奴隷が居たら見たいんですがいますか?」


「居ますが……こんな所で売られているのはババアか性病持ちか、容姿に問題がある存在だけですよ」


「若くて、性病持ちじゃ無くて……」


「それなら奴隷市場の中に行ったほうが良いですよ」


「変わった容姿をしている女性を見たいんだが」


「変わった容姿ですか……それはうちには居ないな。見世物にするような奴なら、あっちに『豚女』と『ゴブリンガール』って奴がいますが流石に見世物にするにも酷すぎるって言っていましたよ」


どちらも酷いな。


「他には居ないのか……」


「他にも居るかも知れないけど、まぁ地道にテントを回ってみるしかないな……しかし、そんな気持ち悪い存在買って本当にどうするの?」


「まぁ……蓼食う虫も好き好きって事で……」


「? それどういう意味ですか?」


「はははっ、何でも無いです」


「『豚女』はそこの右のテント、左のテントの方に居るのが『ゴブリンガール』だ。それ以外にも居るかも知れないけど、俺が知っているのは、それ位だな」


「ありがとう」


名前からしてどちらも碌な存在じゃない様な気がする。


どっちから見るか?


近い方、豚女から見るか……


「すみませ……いや、もう良い」


見た瞬間から解った。


そこの檻に入っているのが『豚女』だ。


ただのデブだ……な。


「ああっ、そうか……豚女って聞いて見に来たのか? まぁこれじゃ中途半端だな」


「はい……」


良い意味でも悪い意味でも中途半端。


只の想いっきり太っただけの女だ。


ハァ~これじゃ、もう一人も期待は出来ないな。


だが、見るだけ、折角だから見て見るか?


「いらっしゃい……」


「あのゴブリンガールって言う子が居るって聞いたんですが?」


「ああっ、余りに不評だから引っ込めたんだ見たいのか?」


「はい」


「それじゃ、悪いが銅貨1枚くれないか? 見世物扱いと言う事で」


銅貨1枚なら良いか。


「はい、銅貨」


「毎度~それじゃ奥にどうぞ」


幾つか檻があるが、居るのはまぁ普通のおばさんか男が多い。


うん……普通の奴隷だ。


「他には……その見世物みたいな若い子はいるのかな?」


「今回のジャンクでは、此奴と豚女しか居ませんね……どちらも、見世物小屋には向かないみたいで売れ残っています。豚女はみました?」


「見ましたが……あれは太った中年女ですよね?」


「あはははっ、そうですね……ですがゴブリンガールは、結構気持ち悪いですよ。あと碌に歩けないので本当の役立たずです」


「はぁ」


これは駄目だな。


「それじゃ、その奥の毛布で包んである檻です。 毛布どけて自由に見て下さい」


「解りました」


最悪、気持ち悪かったらどうしようか。


毛布を捲り見てみた。


これは……何処がゴブリンなんだ。


茶色のセミロングヘア―でロリ系アニメのヒロインの様な顔立ち。


身長は130cmくらいしかない。


頭が明らかに大きく、それに比べ体が凄く小さく見える。


頭が大きい5等身位の体型だから『ゴブリンガール』そう言う事か?

カナの傍に立ったらこれなら『妹』みたいに見える。


「あの、この子……」


「凄く気持ち悪いだろう? 目が凄く大きくて鼻も口も小さい、それでいてこの大きな頭、どう考えてもバランスがおかしいよな」


俺には変身する前の魔法少女。


もしくはロリコンマンガのヒロインにしか見えない。


「そうかもな……それで話をさせて貰っても良いかな?」


「どうぞ……」


「あの名前はなんていうの?」


「ミアです……役立たずですが買って下さい」


「役立たず?」


「此奴、頭が大きくて体が小さいでしょう? 良く転ぶんですよ。だから碌に仕事の手伝いもできない。言っておくが見世物位しか使い道がないんです……欲しければさっきの銅貨1枚でそのまま譲るよ。その代わり奴隷紋の代金として銀貨3枚は貰うけど」


銅貨1枚、たった1000円か。


「幾らなんでも安く無いか?」


「いや、村から買う時に欲しく無かったんだけど、此奴を引き取らないと他の女を売らないと言われて仕方なく引き取ったんだが、これじゃ売れないだろう? しかも奴隷法で最低限の生活は保証しないとならねーから金喰い虫なわけよ。どうだい気に入ったなら引き取らないか?」


「ううっ、本当に役立たずですが……買って下さい。もうひもじいのも寒いのも嫌なんです……何でもしますから見世物でもなんでもしますから……」


「どうしますか? 流石にこれは嫌ですよね。ですが奴隷は銅貨1枚以下にしちゃいけないんです……」


「それじゃ買わせて貰おうかな、奴隷紋の代金銀貨3枚で良いんだよな?」


「それで構いませんが、一応確認ですが見栄えが悪いだけじゃなく、此奴は真面に歩けないから仕事も出来ませんよ? それでも良いんですか?」


「構わないよ。それじゃ商談成立だな」


本当に役立たずみたいだけど、カナの友達ならそれでも良いかも知れない。


それにまるでちびキャラみたいで可愛いし。


良いか。


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