第17話 ライトSIDE 壊れたリヒト


「ライト様から伝言が届いています」


冒険者ギルドに行くと、ライトからメッセージが来ていた。


ギルドを通した前世で言う電報みたいなものだ。


『リヒトお前が必要だ……戻って来てくれ』


成程……やっぱり、家事や雑用が上手くいってないんだろうな。


だが、そんなのは関係ない。


俺はちゃんと確認したからな。


「それじゃ、俺からも返信をお願いして良いかな?」


紙を貰いライトに伝える事を書く。


『嫌だ!絶対に戻らない……自分達で頑張れ』


「これで頼む」


「本当にこれで良いんですか? 勇者パーティに戻れるんですよ?」


いや、ハーレムパーティに一人入るのは誰だって嫌だろう?


それに俺にはもうちゃんとした相手がいる。


誰が戻るもんか。


やんわり、説明しておくか。


「戻っても雑用をやらされるだけだからね」


「ですが、勇者パーティに戻れるチャンスですよ!」


この世界では勇者と戦えるのは『光栄』な事になるんだよな。


だが、前世の記憶がある俺は、そんな風に思わない。


何年も拘束されて強敵との戦いの殺伐とした日々。


絶対に他の事をした方が楽しい。


個人的にはライトには悪いが『貧乏くじ』の様な気がする。


だから、追放されようが全然恨みはない。


また『ハーレムパーティ』を作ろうが羨ましいとは思わない。


俺にとっては……追放バンザイだ。


だが、それを口にしていう訳にはいかない。


「そんないいもんじゃないよ! 本当に雑用係だから……此処だけの話、ライトも、リメルやマリアンヌにリリアなんて外面がよいだけだからね。 特に女三人、汚れた下着を平気で俺に押し付けて洗濯させるんだぜ。同じ女としてどう思う?」


「あははっ……ですが、それはご褒美とも言えるかも?」


「ないない。本当に此処だけの話、旅から旅で野営が多い時なんか、もう只の汚物みたいなもんだよ。 臭いのなんのって……俺は変態じゃないから、茶色く黄ばんだパンツを洗うのなんて、ただ辛いだけだよ」


「う~ん、そう考えると、男なのに女物の下着を洗うなんて地獄かも知れませんね」


「地味にプライドが傷つくんだよな……」


「そうかも知れませんね」


「他にも一生懸命食事を作っても、不味いとか駄目だしを食らうし、戻りたくないのは解るだろう?」


こっちは嘘だが、それとなく言っておいた方が良いだろう。


「あはははっ! 確かに、リヒト様が苦労している話は良く聞きましたね」


「そうでしょう! 考えたら戻りたくない気持ちも解るだろう?」


「確かに」


今の俺にはそれに増してカナが居る。


だれが、あんな所に戻るかっていうの。


これだけ言っておけば、無理に薦めて来ないだろう。


【勇者ライトSIDE】


近くの冒険者ギルドに寄ると……断りの伝言が来ていた。


『嫌だ!絶対に戻らない……自分達で頑張れ』


まぁ、こんな物だろうな。


周りでリメル達も見ているが、納得した顔をしている。


今回の伝言は何も待遇について書いていない。


この次の伝言こそが、本命だ。


それより先に……


「調査の結果はどうですか?」


リメル達と一緒に考えた事だ。


リヒトの現状を確認して、彼奴が望みそうな待遇を考える事にした。


お金に困っているならお金。


女関係で困っているなら、最悪この中の1人をつけてフォロー。


これは話し合いの末納得して貰った。


俺からすれば、リメル達三人には内緒だが『誰を選んでもリヒトにやって良い』そう思っている。


リヒトが居なくなって解ったが、此奴ら女として終わっている。


家事は全く出来ないし、身だしなみすら真面に整えられない。


リヒトが三人を寄越せと言うのなら『全員くれてやっても良い』とさえ思える。


とは言え、魔王討伐迄は仲良くしなくちゃならないが、それが終われば他の人間を伴侶に選んだ方がきっと俺は幸せになれる。


地位を望みそうなら、先々になるが魔王討伐後の報酬の中に彼奴への報酬として爵位を貰えるように手配。この辺りを条件につければ良い。


その作戦の為に『リヒトの現状』をギルドに頼んで調べて貰った。


「ご報告いたします! まずリヒト様は1人の女の奴隷を購入して生活しています」


クソっ! やっぱりそっちに走ったか。


彼奴はA級冒険者。


金を稼ぐのは簡単だ。


これで、此奴ら3人との交際をエサにリヒトを連れ戻す作戦は潰れた。


残るは地位と金だが……彼奴は支援金を貰えないにも関わらず小金を溜めていた。


余程の金額じゃないと無理だ。


そう考えたら、地位か?


「リヒトの奴最低だな……女奴隷を買うなんて」


「まさかと思うけど、追放されてすぐに走っていったけど、あの時に奴隷を買いに行ったのかな? 幼馴染より奴隷? 信じられないわ」


「ハァ~奴隷買っちゃうんだ……」


いや、誰ともつき合ってないし、パーティを追放されたんだ。


そんなのリヒトの自由だろう。


それに俺も、最近の此奴らより、エルフの奴隷の方が欲しいと思うようになった。


だが、リヒトの奴許せないな!


自分だけ幸せになってよう……絶対に連れ戻してやる。


「あの……皆さま考え違いをしています! リヒト様が買われたのは確かに女奴隷ですが、とんでもなくブサイクな奴隷です! 多分、あの女奴隷よりブサイクな女を探すのは難しいでしょう……まさに化け物。あっ……似顔絵見ます?」


「「「「どれどれ……えっ?」」」」


「これは新種のゴブリンなのか?」


「ゴブリンじゃ無いけど、一つ目巨人みたいな大きな目が2つ、人間に見えないぞ」


「バランスがおかしいよ、これ子供が書いた絵じゃないんだよね」


「子供が書いたんじゃないよ! 細部までしっかり書いてあるもん」


「なぁ、幾らなんでもこれは無いだろう……こんな奴いたら真面な人間じゃないぞ」


人間じゃ無くて『美しいゴブリン』そんな感じにしか見えない。


もし、これが人間だっていうなら余りにも目が大きすぎる。


「それが、間違い無いんですよ! 似顔絵だけじゃ信じて貰えないと思いまして、こちら記録水晶です」


「えっ、マジか……」


「本当にこの容姿なのか?」


「この容姿であっているのね……」


「なんだか可哀そう……」


どう見ても可笑しい。


「まぁ良い、このブサイクな奴隷をリヒトが買ったのは解った。二人で生活しているのまでは……続きを説明してくれないか?」


多分、このブサイクな生き物はきっと、料理や家事が上手いのだろう……所詮奴隷だ。


道具代わりならそれでも良い筈だ。


「それが、結婚しまして……毎日の様に楽しく暮しています」


「「「「まさか?」」」」


リメル達と声がはもってしまった。


信じられない……


「言いにくいのですが、パーティを追い出されてから狂ってしまったのでしょう……この化け物の様な奴隷を可愛い、綺麗だと褒めちぎり、本当に大切にし、愛し合っているようにしか見えません。また生活ももう『英雄リヒト』とは別人のように低ランクの冒険者がやるようなゴブリンや掃除しか依頼を受けないで生活しています。この間は二人でドブ掃除の依頼を受けていました。周りの人間の話では狂人のように『うりゃぁぁぁぁぁ』と叫びながら仕事をしていたそうです」


あのリヒトが壊れてしまった。


確かに俺程じゃない。


だが、彼奴はそんな人間じゃない。


「あの……リヒトがか」


「ワイバーンですら狩れる実力があるのに……」


「本当に壊れてしまったのかも知れませんね」


「ゴブリン? ドブ掃除……リヒトが……信じられない」


「困っている人の為にオーガの大群に突っ込んでいった英雄リヒト様は何処にも居ません……これは言いにくいのですが『貴方達が追放して世の中に絶望して可笑しくなった』皆さん、そう言いますよ。 ゴブリンではなくもっと上の魔物を狩るように頼んだギルドの受付嬢とも揉めたそうです。以前のリヒト様なら考えられない事です」


「そうか……」


「はい……もうリヒト様を連れ戻しても無駄だと思います」


本当にそうなのか……俺が追放したから、世の中に絶望して可笑しくなったのか……


俺は一体どうすればいいんだ……






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