第15話 結婚


カナを宿屋に戻してから冒険者ギルドへと向かった。


司祭からサインをもらった依頼書を窓口に提出。


時間帯的にあの時の受付嬢は居ないようだ。


「リヒト様、依頼達成ご苦労様です! こちらは報酬の銅貨8枚(約8千円)になります」


「ありがとう!」


御礼を言ってから報酬の銅貨8枚を貰いギルドを後にした。


宿に戻ると疲れたのかカナは眠っていた。


家畜小屋で過ごしていたと聞いた。


そのせいか、掃除は結構呑み込みが早かったな。


カナは俺から見たら、凄く可愛くて美人だ。


まさに神が与えた最高の美貌にしか思えない。


ただ、これは俺がアニメが好きでフィギュアやドールに慣れているからだ。


だからこそ、カナの容姿こそが『最高』というイメージがある。


だが、この世界にはアニメは無い。


フィギュアやドールを知らない人にはその価値が解らないんだろうな。


カナが傍にいるだけで、自分がアニメやマンガの主人公になった気がする。


そう言えば、前の世界の子供の頃見た『実写アニメーション』の世界で過ごしているみたいだ。


カナだけがまるでアニメーションの住民みたいだ。


多分前世で秋葉原を歩いたら沢山の人に囲まれて大変な事になるだろう。


『ありがとう』


そうカナに声を掛け、俺は隣のベッドで眠りについた。


◆◆◆


漆黒の翼の時の癖か俺の朝は早い。


いつも通り、朝食を作りカナが起きるのを待った。


いつもと少しだけ違うのはカナのオムレツにケチャップでハートマークを書いた。


スープとパン……それにチキンステーキをつけて豪華にした。


昨日の夜。


本当の意味で本当の意味で好きになって貰えた気がした。


だから、今日はカナと一緒出掛けよう。


そう思ったんだ。


「カナ~朝食が出来たよ……冷めないうちに食べよう?」


「リヒト様ぁ~おはよう……ございます」


う~ん、寝起きのカナも可愛い。


「おはようカナ! きょうも可愛いね!」


「そんな、リヒト様……リヒト様も凄くカッコ良いですよ!」


もう躊躇するのをやめた。


可愛い物は可愛い。


好きな物は好きだ。


「ありがとうな! カナ、スープ冷めちゃうからまずは食事しよう」


「はい、リヒト様」


「さぁ食べて、食べて」


俺はカナの椅子を引いて座らせ、食事を薦めた。


「いただきます」


カナは余り食べるのが上手くなく、結構こぼす。


だけど、その仕草も凄く可愛いからよしと。


この際だから、俺について話そう。


「カナ……食事をしながらで良いから聞いて欲しい」


「はい!?」


少し驚いたみたいだ。


「俺は、転生者なんだ。尤も『虫食い』というタイプで前世の記憶を所々持っているだけで、物語りにでてくるような完璧に全部の記憶があるわけじゃない」


「そうだったんですね! ですが転生者だからって何か変わるんですか? ただ珍しいというだけじゃないんですか?」


「確かにそうだけね。今となっては過去の転生者や転移者が大体の事はやったあとだから、余程の知識がなくちゃ通用しない。 俺もまた例外でなく、この世界で通用する有益な知識は無い。まぁ虫食いだから余計……その通りだ」


「そうですよね? カナはリヒト様が転生者であってもなにも変わらないですよ!」


この辺りで説明しないとな……


「それでな……俺の世界にはアニメとか、マンガがある……まぁ絵本みたいな物だと思ってくれ」


「はい? 絵本みたいな物ですか?」


「まぁ、それで良い! その物語のヒロインがカナみたいな容姿をしているんだ」


「それって物語の王女様とかですかね?」


「王女様であったり、冒険者だったり、英雄だったりとかかな……」


「そのヒロインに私が似ているのですか?」


「ああっ、そっくりだ……まるで、そう『物語のヒロインが絵本から飛び出してきた』そう思える程にね……そして声も凄く綺麗な澄んだ声に聞こえる……カナに例えるなら『物語の王子様が目の前に現れた』そんな状態だよ」


「本当にそうなんですね……話してくれてありがとうございます! この姿も声もリヒト様にとって本当に綺麗に思えていたのですね」


「うん」


「私この姿に生まれてきて初めて、良かったって初めて思いました!」


「そう……」


本当の笑顔だ……やっぱりカナは笑顔の方が可愛い。


「はい、私が物語の王女様なら、リヒト様は英雄です。いいえ、物語りのじゃなくて本物の英雄じゃないですか!」


確かに一部では『英雄』と呼ばれているけど、本当に一部だけだ。


「そう……そう言って貰えると嬉しいよ! それじゃ、カナ早くご飯食べちゃおう。今日はこの後お出かけするから」


「お出かけですか? 何処に行かれるんですか?」


「ないしょ」


お互いに意思は確認出来たし、サプライズ位しても良いよな。


◆◆◆


カナの手を引きながら街中を歩く。


「リヒト様、何処に行くの?」


「いいから、いいから」


そう言いながら、まずは洋服屋に向かった。


残念ながら、ウエディングドレスみたいな物は生地が無く俺も作れない。


それにそういう物を着るのはこの世界じゃ貴族階級以上で、平民は普通の服で式を挙げていた気がする。


一応女性の店員さんに聞いてみるか?


「あの、結婚の時に着るようなドレスはありますか?」


「そういう貴族様が着るようなドレスは当店にはございません! 普通の人は綺麗な新品の服を着て式なら挙げられます」


傍を見ているとカナは物珍しそうに服を見ていた。


仕方が無い。


だけど、そういう事なら服はカナに選んで貰った方が良いだろう。


「カナ、服を選んで」


「えっ……」


「好きな服をプレゼントしてあげる」


カナは試着室に服を持ち込んで着替えている。


「どう……ですか?」


恥ずかしそうにしながら聞いてきた。


この世界の服もなかなか良いかも知れない……


何回かカナが着替えた中に、凄く可愛らしい服があった。


フリルのついたヒラヒラしたピンクの上着に、同じくヒラヒラしたピンクのスカート。


茶色のストッキングみたいな感じだ。


凄く可愛い。


「わっ、それ凄く可愛い……これにしない?」


「はい……リヒト様」


はにかみながら微笑むカナは凄く嬉しそうだ。


「この服、下さい! あとこの辺りで指輪を扱っているようなお店はありますか? 露店じゃなくてちゃんとしたお店が良いんですが」


「そう言った物は貴族街に行かないと無いと思います。 それにオーダーですから、日にちも相当かかると思いますよ」


仕方ないな……妥協するしかないか。


◆◆◆


「ちゃんと前見て歩かないと転んじゃうよ」


「転んでも良いです!」


カナは服の入った袋を大切そうに抱えながら歩いている。


次は……あった。


本当はもっと豪華な物が欲しかったんだけど……


「カナ、お揃いの指輪を買おうと思うんだけど? どれが良い」


アクセサリーを売っている露店で足を止めた。


「指輪ですか?」


「うん、あの……お揃いのペアリングってあります? 出来たら他にない二つだけの物があれば理想なんですが……」


「ありますよ! 男女の仲の良い冒険者がつけるペアリングが……この辺りがそうです」


「カナ、この辺りだって、好きなの選んで」


「私が選んで良いんですか?」


「うん、カナに選んで貰いたいんだ」


やっぱり、カナに選んで貰って正解だった。


今迄、カナは自分の物なんて買った事が無かったんだろう。


さっきの洋服もそうだけど、凄く嬉しそうに眼を皿のようにして見ている。


「リヒト様、これ、これが良いですっ!」


銀色のリングで小さな青い石が入っている。


カナに似合っている気がするし、決まりだ。


「それじゃ、このリングも下さい」


「はいよ、それでつけていくかい?」


「はい」


俺は指輪を貰って……


「カナ、左手出して、指輪をつけてあげるから」


「左手ですか……はい」


俺はカナの左手薬指に今買った指輪を嵌めた。


「カナも俺の左手薬指に指輪を嵌めてくれるかな?」


「リヒト様とお揃いですね! ありがとうございます」


「どう致しまして……それじゃ次行こうか?」


カナの手を取って冒険者ギルドに向かった。


◆◆◆


目の前に冒険者ギルドがある。


「カナ……カナは俺の事どう思っている?」


「カナはリヒト様の事好きですよ……優しいし、カッコ良いし……今日は服も指輪も買ってくれたし……」


「俺はカナの事好きだよっ! 俺の……お嫁さんになって!」


早まったかな、全然サプライズになってない気がする。


「ううっ……本当に、本当に私で良いんですか?」


「カナが良い……カナは俺の事が嫌い? 結婚するのは嫌?」


「嫌いじゃない! ううん、カナは……カナは愛しています! カナと結婚して下さい」


「うん……」


そのまま、カナの手を取り冒険者ギルドに入った。


そして、そのままギルドの受けつけに行き……


「カナラブのパーティ関係を夫婦に変更して下さい」


関係変更届けを出した。


これは前世でいう婚姻届けを出して戸籍を共にした事を意味する。


「はい、これで手続きは終わりました。 おめでとうございます」


「ありがとう……さぁ行こうか?」


前世に比べると味気ないけど、これがこの世界の結婚なんだから仕方が無い……それでもカナは……


「リヒト様……私、私……嬉しいです、ううっ、うっ」


感動して大きな目から涙を流して喜んでいた。









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