第14話 本当の笑顔


カナを連れて深夜の教会に来た。


教会の聖堂の掃除、その依頼を受けたからだ。


「それではお願いしますね。今回の依頼は聖堂の床と椅子の掃除だけです。他は行わなくて大丈夫ですから……ってリヒト様! リヒト様がどうして清掃など……」


「勇者パーティを辞めて、最近パーティを組んだんだ。 色々とパートナーに経験させたくてね。ほらカナ挨拶」


「カナと申します……よろうしゅくお願いします」


カナ……噛んでいるし。


「そう言う事ですか? では頼みましたぞ」


そう言うと司祭は去っていった。


流石聖職者、カナを見ても驚かなかったな。


「あの、リヒト様、お掃除するのは解りますがなんでこんなお洒落をしてお掃除するのでしょうか?」


今のカナの服は ピンクに赤のミニスカートのセーラー服風。


胸には赤いリボン。


そして白のニーソックスだ。


出来は兎も角、俺が異世界で作った服、第一号。


折角作ってみたんだけど……前世のドール服の出来に届かない。


これじゃ、ゲームやアニメの制服じゃ無くまるでペンギンストアーで売っている3980円位のパーティ用の服かあるいは夜のお店のお姉さんが着るような服にしか見えない。


それでもカナはポーズをとって嬉しそうだ。


「カナに似合いそうだから作ってみたんだ」


「リヒト様って凄いですね!」


「まぁな……それじゃ、頑張って掃除をしようか?」


少し照れくさい。


「はい! リヒト様」


まずは椅子の拭き掃除からだな。


「最初は一緒に雑巾で椅子の掃除だ! それが終わったら掃き掃除をして最後はモップかけだ」


「はいリヒト様!」


これは凄いな……


コスプレ衣装にも届かない。パーティグッズに近い制服……だけど、それでもミニスカートとニーソックスの間の太腿の絶対領域は衝撃的だ。


まるで、此処だけ学園物のギャルゲーみたいだ。


バケツに水を汲み、拭き掃除を始める。


カナも俺も屈みながら雑巾を水につけ絞る。


屈むたびに見えるカナの健康的なパンチラ。


高いお金を払って高価な下着を買ってよかった。


頑張って制服を作ってよかった。


苦労が報われた瞬間だ。


「やっぱりカナって凄く綺麗だ……」


暗い聖堂に差し込む月明かりとローソクの炎が照らすカナを見て本当にそう思った。


カナが傍にいるだけで、俺はまるで自分がアニメの主人公にでもなった気がする。


「本当にリヒト様は私が好きなんですね……」


「最初からそう言っているよね。 だけど月明りで見るカナは神秘的で本当に綺麗だね」


「そんな事言ってくれるのはリヒト様だけですよ! あの……リヒト様にとって私ってそんなに綺麗なんですか?」


「ああっ! 俺にとってカナ以上に可愛くて綺麗な存在は居ないよ! まるで、そう物語の中から現れた理想の女性にしか見えないんだ!」


生きているフィギュア。


目の前にいるのは本物のアニメのヒロインにしか見えない。


「リヒト様……」


「声だってそうだよ! カナの声を聞くだけで幸せになる」


どう聞いても声優ボイス。


この声ならお姉さん~少女どんな役でこなせる様な理想の声。


『人形者の俺の理想の彼女』


人形はどんなに愛してもただ立っているだけ。


どんなに愛しても……愛してなんてくれない。


人形への恋は一方通行。


どんなに愛しても決して人形は俺を愛してくれない。


だが、カナは違う。


一緒に暮らしていればいつかきっと俺を愛してくれるかも知れない。


「リヒト様にとって私って本当に理想のタイプなんですね」


「ああっ……」


「私、誰からも愛された事なんて無いんですよ……」


カナの顔が少し暗くなった気がする。


その顔を見た俺は……


神秘的な月明かりのせいだろうか。


つい、口をついて出てしまった。


「カナ……愛している」


カナの大きな目から涙が流れ落ちた。


「私も……私も愛しています」


「泣かないで」


「はい……うっ……うっ….」


大きな目からぽろぽろと涙が止まらないくらい流れている。


「仕方ないな……少しだけな」


カナの目は大きくハンカチで抑えきれない気がしたのでそのまま胸元に引きつけ抱きしめた。


すると、カナがそっと手をまわしてしがみついてきた。


「リヒト様……大好きです……本当に、本当に愛してます」


涙目のカナが真っすぐ見つめてくる。


これで『愛していない』違う愛だ、なんて言えないな。


「信じるよ……俺も愛している」


聖堂の椅子に座り……色々な事を話した。


俺はどれだけカナを好きかを伝えるとカナは黙って聞いてくれた。


そして、今度はカナの話をしっかり聞いた。


気が付くと時間は……相当な時間がたっていた。


まずい、今は掃除中だ急がないと朝までに終わらない。


「カナ、不味い……急いで掃除をしないと」


「あはははっ、そうですね! 急ぎましょう!リヒト様!」


カナからいつもの暗さが抜けた気がする。


何故だか、今のカナの笑顔は心からの笑顔に見えて、いつも以上に魅力的に思えた。




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