第10話 ラブカナ
『なんでリヒト様が化け物連れているわけ』
『あれは無いわ』
『獣魔とかじゃ無いよな……人なのか?』
『人だとしたら、あの顔……と体……何かの病気なのかしら』
カナを連れて街に出て来た。
周りの人間がカナと俺を見てヒソヒソ話をしている。
カナは俯いて黙っているが……明らかに暗そうな顔をしている。
こうも聞こえるように悪口が聞こえてくれば誰でもそうなるだろう。
「気にするな、誰がなんと言おうとカナは俺にとって可愛い女の子だ」
「リヒト様……」
少しだけ元気が出たみたいだな……
俺から見たカナは究極の美少女だが、知らない人が見れば仕方が無いのかも知れない。
暫く頑張って金を稼いだら、引き篭もるのも悪くないかも知れないな。
この街の冒険者ギルドへやってきた。
扉を開けるなり、すぐに目の色を変えて受付嬢が飛んできた。
「リヒト様! 今日はどう言った御用でしょうか?」
元勇者パーティでA級冒険者。
ライト達が特別なだけで俺だって『A級冒険者』ギルドにとって大切な高ランク冒険者だ。
「漆黒の翼を抜ける事になってね。その届け出と、連れの冒険者登録とパーティ登録をお願いしに来たんだ」
「連れの……その子ですか?」
一瞬顔をしかめたが、流石ギルドの受付嬢、すぐに普通に戻った。
「リヒト様なら、どんなパーティでも紹介可能ですよ! B級位の女性パーティなら、それこそライト様みたいなハーレムパーティでも望むがままです! なんなら斡旋させて頂きますが」
「いや、もう疲れたから暫くはゆっくりするつもりだよ。 だから、カナとまったりしながら生活するんだ」
「その……子とですか?」
「そうだけど?」
「あの……恋人とか欲しいなら、いくらでも立候補者は現れると思いますよ……なんでしたら、私とか如何ですか?」
「……」
カナが少し膨れている気がする。
勇者パーティを抜けさえすれば、自分がモテる事は前から知っていた。
多分、ライトは……イケメンだけどモテない。
勇者だから、パーティメンバーか貴族、または王女、その辺りと将来結婚が半分決まっている。
一般庶民や冒険者の女の子と本気でつき合う事は無いのは解っているから『観賞用』で恋愛の対象にならない。
この世界は、前の世界に比べて過酷だから美貌よりも『命が守れる』『金が稼げる』その二つが重要だ。
冒険者なんていつ命を落とすか解らないし、商人だって農民だって福利厚生なんて物も保険もないから、落ちぶれたら人生が終わる。
その点、俺はA級冒険者で金が稼げるし、魔物相手に戦える力がある。
だから、外見は兎も角、その二つを満たしている俺がモテない筈はない。
漆黒の翼を抜けるだけで俺の人生は楽しく変わる。
それは間違いなく本当の事だ。
だから、カナに会わなければ、他のパーティに入り恋愛を相手を探したかも知れない。
だが、そんな物は今の俺には関係ない。
「確かに受付のお姉さんは魅力的だけど、俺は自分の人生のパートナーにカナを選んだんだ……だから他の女の子は考えられないよ」
「そ……そうですか……それじゃ手続きをさせていただきます。 それではこちらの用紙にご記入お願い致します」
受付嬢がギルド内で冒険者を口説くのはご法度だ。
流石に引際は解っているみたいだ。
「リヒト様、私文字が書けないです……」
「それじゃ、俺が代筆するよ」
「ありがとうございます」
「あの……冒険者についての説明は要りますか?」
「それなら、俺が説明するからいいや」
「そうですね、リヒトさんはベテランだからお任せします」
「任せてくれ」
テキパキと俺の退団の手続きとカナの冒険者登録が終わっていく。
「はい、これで退団の手続きとカナさんの冒険者登録がおわりました。これがFランク冒険者カードです……どうぞ」
「これ、私の?」
「カナのだよ」
カナは嬉しそうに冒険者のカードを胸に抱えた。
「それでパーティ名はどうしますか?」
「カナはなにかつけたい名前ある?」
「う~ん、思い浮かびません。リヒト様に任せます」
「それじゃ『ラブカナ』でお願い致します」
「リヒト様……それ凄く恥ずかしい……です」
「俺がカナの事を好きだと言う気持ちをパーティ名にしたんだ……駄目かな?」
「駄目じゃないですが……恥ずかしいです……それにリヒト様は、そんな名前で本当に良いんですか?」
「勿論」
「あの……イチャつくのは後にして貰えませんか? 『ラブカナ』で良いんですよね?」
「「すみません」」
こうしてカナの冒険者登録とパーティの登録は終わった。
これで……色々と対処が出来るな……
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