第9話 ライトSIDE
「ライト、リヒトを追い出して本当に良かったのか?」
剣聖のリメルが言い出した。
俺も少しだけその事を考えていた。
リヒトは幼馴染だし気心は知れているし本来なら一緒にいるのに問題は無い。
戦いでついて来られなくなっても、雑用という面では使える。
戦いだって俺達4人が強いだけで、リヒトが特別に弱い訳じゃない。
彼奴なりに努力をしていたがジョブの差でついて来れなくなった。
それだけの事だ。
寧ろ、四職以外にしてはなかなか実力がある方だ。
だが、リヒトが『幼馴染』それが大きな問題だ。
彼奴が俺達四人と小さい頃から長い付き合いがある。
それが問題なんだ!
リメル、マリアンヌ、リリアにとって1番好きな相手は間違いなく俺だが、もし2番目の男をあげるなら、恐らくリヒトになる。
リヒトは俺みたいに派手なタイプでこそ無く一見地味だが顔だって決して悪くなく整っている。
俺にとっても親友ではあるんだ……
親友で幼馴染、そんな奴の傍で他の幼馴染とイチャつくとなんだか気が削げる。
リメル達にしたって、もう一人の男の幼馴染、しかも仲は悪くない。
そんな相手に逢瀬を見られたらと思うと、どうしても気になって集中できない。
俺もリメル達もリヒトを持て余していたんだ。
『邪魔だけど、仲の良い幼馴染』それが一番近い間柄だ。
そして今、雑用が得意なリヒトを追い出したつけが出てきた。
「だけど、これどうするんだ?」
「リメルの言う通りだよ」
確かにその通りだ。
野営の準備から焚火まで全部、リヒトが一人でやっていた。
この中に真面に野営の準備をしていた者はいない。
「誰か、調理が出来る奴はいないのか?」
「やった事ないな、私は剣以外の事は不器用だ」
「そんな事言いだしたら、私だって回復魔法しか出来ないわ」
「私も出来ないよ」
駄目だな……こいつ等。
「しかたねー、これからは当番制だ、今日は俺がやる……材料は?」
「野菜が少しあるだけだな」
「マリアンヌ……そう言えば誰が食材の買い出しをしていたの、私はして無いぞ」
「リメル……思い出してみて、買い出しはリヒトがしていたし、リヒトは依頼の傍ら鳥やウサギをとって良く調理していたよ」
「嘘、そんな事もしていたの?」
「リリアがウサギが可哀想って言うからこっそり隠れて解体していたな」
肉が無いのはそのせいか……
「なら、今日は肉無しで野菜のスープだな」
「「「えーっ」」」
流石にこの時間から獲物を取りに行きたくねーよ。
「今度からは、ちゃんと狩るから、今日の所は勘弁してくれ」
折角作ってやったのに……不味そうに喰うなよ。
◆◆◆
結局1週間もしないでリヒトのありがたみが良く解った。
三人が見る影もなく汚らしくなってきた。
街は兎も角、野営地ではイチャついても臭いし、触ったりしたら垢が出るし髪も汚い。
お互いに余り触りたいとか抱きしめたいという感情は無くなってきた。
なんでこうなったのか……当たり前だ。
いつもリヒトは、夜、水を汲んできて、ハーブを混ぜた水を作り、皆に体を拭くようにタオルと一緒に渡していた。
髪がべたついてきたら「髪を洗った方が良いよ」と川から水を汲んできてきたり、蚊よけのハーブを用意したりしていた。
男なのに全員の服の洗濯までしていた。
『身綺麗で綺麗な幼馴染』はリヒトがいたからこそ存在したんだ。
そして俺も『カッコ良い勇者』で居られたのはリヒトのお陰だ。
髪を整えてくれて髭迄剃刀で剃ってくれていた。
今のこのパーティはもう対面を保ててない。
髪の毛ボサボサの剣聖。
蚊に刺されて体をポリポリ掻く聖女。
顔に疲れが出ている賢者。
魔族と戦い負けた様な状態にしか見えない。
勇者はこの世界に何人も居る。
だが、俺だって魔王を倒せる可能性を秘めた一人だ。
それが……これで良いのか?
今の俺達を見て誰が憧れるだろうか……
決して誰も憧れたりしないだろう。
「リヒトを迎えに行かないか? 彼奴は俺達に必要な人間だった」
「そうだな」
「そうね」
「賛成」
リヒトは俺達に必要な人間だった。
それを認めるしかない。
恋人同士イチャつきたいからと斬り捨てるべきじゃ無かった。
「それで今後はどうする?」
三人に俺は聞くしか無かった。
勇者である以上魔王城を目指さなければならない。
そしてその旅は勇者の誰かが魔王を倒すまで続く。
5年、10年、いやそれ以上の旅になるかも知れない。
その旅に男2人に女3人……流石に俺一人が全員を抱え込むのは世間的にも体裁が悪いだろうな。
最悪誰か1人手放さないといけない。
それは今考えても仕方ない。
「「「……」」」
三人はそれが解っているか答えなかった。
「まぁ良い! 幼馴染の彼奴を連れ戻してから考えるか」
「「「そう(ね)(だね)(だな)」」」
今はリヒトを連れ戻す。
あとの事はそれから考えれば良い。
その為に、まずはリヒトの居場所を調べないとな。
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