第4話 カナと俺の過去
「私の顔を見てどうかなさいましたか?」
「いや、何でも無いよ……」
「もしかして余りに醜くくて買った事を後悔されていますか? 」
「それは無いから安心して」
しかし、見れば見る程綺麗だ。
なんて言えば良いのか……
ボーカロイドがそのまま存在するとか、生きた等身大フィギュアとか? ドルフィとかにしか見えない。
いや、それ処じゃない。
目の輝きから透き通る肌、それらが全部本物なのだから、それ以上だ。
彼女がそれこそコスプレしたら、100万円を超える等身大フィギュアとか3Dのボーカロイドの容姿を超えてしまう気がする。
だって『本物』なのだから……
俺の前世はオタクだった。
俗にいう人形者と言われるタイプで、ドールからフィギュア迄給料の大半をつぎ込んでいた。
2LDKの部屋に住み、約10畳の部屋には所狭しとコレクションを並べていた。
その中には50万円~100万円を超える等身大の物も何体かあった。
アニメに興味は多少あるがそれ以上に、フィギュア等の純粋に人形が好きな人間……それが前世の俺だった。
人形を買うお金欲しさに、懸命に働き、ブラックな会社だが若くして課長にまでなった。
尤も、手に入れたお金の大半はドールの購入に消えて……食い物はインスタント麺やレトルトカレーばかりだった。
その不摂生な生活が祟ったのか、ブラックな会社で働いていたせいなのか、発作を起こして死んでしまった。
よろけながらも……最後の死に場所にドールの部屋を選び人形に囲まれて俺は亡くなり、気がつくとこの世界で赤ん坊になっていた。
そんな感じだ。
そして……元の知識を元に無双……なんて出来なかった。
今は殆ど居ないが、大昔は沢山の転生者、転移者が居てかなりの物がこの世界にもたらされていた。
そんな環境なので、普通のサラリーマンの知識では知識無双なんて出来る筈も無かった。
だが、大人の経験があったから『小さい頃から努力』をする事が出来た。
それだけが、唯一の自分のアドバンテージだった。
それでも、この世界じゃ、ジョブの差は埋まらない。
そんな事より……此処が異世界だと解り、絶望した事が二つある。
一つは、異世界のあの容姿はアニメやマンガだからの容姿であって、実際は……普通の人間の容姿だと言う事。
エルフもダークエルフもアニメの顔ではなく『普通の人間の顔』で耳が長いだけ。
簡単にいうならコミケに居るコスプレイヤーの劣化版みたいな容姿だと言う事だ。
偽物の筈のコスプレイヤーの方がまだ俺の想像の中の美少女に近い。
それと、この世界には俺が望むような人形が無かった。
人形はある……だが、それは前世で言う美術品や仏像みたいな物やぬいぐるみでフィギュアとは別物だった。
無い物は仕方が無い。
そう思い、諦めて今に至った。
そして、普通の女性に目を向け、新たな生き方をしてきたのだが……
まぁ勇者のライトが幼馴染の為、全部取られた……
そんな所だ。
大人だから気にしないけどな。
そんな事より今は彼女だ。
「あの……私、このあとどうなるんですか? 危ない事とかさせられるんでしょうか? この容姿ですから贅沢は言いません。だけど、お願いですから……余り酷い事はしないで下さい……お願いしますから」
涙ぐみながら大きな目で見つめてくるカナはまさに『ヒロイン』その物だ。
凄い……生きたフィギュアが此処に居る。
しかも、なんと言えば良いのかな……
彼女ならどんなキャラクターにもなれる様な気がする。
例えば、水色の髪のシャギーにすれば感情の薄い、某ロボットアニメのヒロインになるし……そのまま髪をおろしてミニスカートを履けば、ロリコンアニメのヒロインにもなれる。
なんというか……どんなヒロインの姿も似合う『究極のフィギュア』の顔立ちのような気がする。
「いや、そんな事はしないから、安心して良いよ! それより一旦宿屋に行こうか?」
急にカナが驚いた顔になった。
「あの……もしかして、ご主人様は私を抱きたいとか思っていますか?」
いや、抱きたいかどうかと言えば抱きたいが……そう言うのもなんだかな。
「抱きたいかと聞かれれば抱きたいけど? 今は下心じゃなく今後どうするか話し合おうと思う、それに何をするにしても、そのままじゃ不味いだろう?」
安く買ったせいか、カナの服は服というよりボロボロの布を纏っているだけだ。
しかも、そうとう薄汚れているから、体位は洗わせた方が良いだろう。
「抱きたい!? あの……ふふっ、冗談を……ですが……わかりました……ついていきます」
今の話の何処が面白かったのだろう?
今、カナが笑った気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます