第5話「しばし曖昧な愛の風景」

殺人を起こす者は、危機に陥った不幸者でもある。

 ワイバーン・グレイテル著 快楽殺人より引用


「先生起きてください」

「ああ、森本、なんか君に告白される夢を見た」

「いえ、それ現実です」

「そうか、ならば一大事だな」

「先生、返答を」

「待て待て、君は、もっと段取りをだな」

「そのようなヘタレだとは」

「いやいや、普通な告白というのはだな、豪華ディナーの最後だろ」

「そのような古典的な告白など要りません、愛が最大のご馳走ですから」

「何かうまいことを言ってるが、君はたぶん間違ってるぞ」

「何を言いますか、では先生がお手本見せてくださいよ」

「なに?まさか私が君に告白するのか」

「出来ないんですか、」

「いや~なんか趣旨が違くないか、君が私を落としたいんだろ」

「先生、いいですか、恋はですね、互いにアプローチするもんなんです、」

「そうか、では致し方なし、私が恋愛の手本を見せよう」

「はい、楽しみです」


「では、マドモアゼル、こちらの車へ」

「先生、免許持ってませんよね?」

「のんのん、運転するのは、タクシードライバーさ」

「そうですか、ランボルギーニじゃないんですか」

「愛に形は関係ないだろ」

「なんかデジャブですね」

「ま~お乗りなさい、マドモアゼル」

「なんでマドモアゼルなんですか」

「愛とは、尊敬でもある、つまり高貴な貴婦人、マドモアゼルがぴったりだろ?」

「ま~いいですけど」

「ではマドモアゼル、レディースファーストです、お乗りください」

「はい」


「ドライバー、ミス森本を愛の中心地まで、エスコートお願いします」

 >それってどこですか?

「Oh,ドライバー、愛の中心地といえば、エベレスト山頂だろ?」

 >ここ日本ですよ

「Oh.ドライバー、失敬、ならば、日本の最も熱いところに連れて行ってくれ」

 >かしこまりました。


「先生、なんですかそれ」

「エベレストは世界一高く困難な山なんだ、だからそれを超えて、山頂で婚姻すると、何があっても砕けない、最高の愛が続くっていう、神話があったんだよ」

「神話って、なんて本なんです」

「ワルプルギスの夜だよ」

「あれって、確か、魂の契約だったような」

「婚姻だって、魂も関係してるだろ」

「いえ、ワルプルギスは悪魔と天使の恋、確か、ロミオとジュリエット並みのオチですよね」

「確かに叶わぬ恋を描き切った、作品だが、愛はあったはずだ」

「いえ、だってそれ最終的に、二人は結ばれませんよね」

「でも、いいじゃないか、愛の試練という最高の教科書だよ」

「まぁいいですけど、先生って、知識偏ってますよね」

「恋愛ものはあまり読まないからな、だから神話とか童話しか思いつけなかったんだ」

「それで愛の手本を見せようなんて、随分と、おごってますね」

「いやいや、神話だぞ、これを超える愛があるか?」

「確かに神話系は、究極系の文学と言えますが、しかし時代錯誤というか」

「安心しろ、私の愛はすべてを超える」

「何、映画の代名詞みたいなこと言ってるんですか」

「失礼した、では言い直そう、今世紀最大の愛を君に捧ぐよ」

「へ?ま~ちょっとかっこいいですね」

「これも映画の代名詞だぞ」

「そういうことは言わなくていいんですよ」

「そうか、」

「はい、デート中はおだてまくるのが鉄則ですからね」

「そうか、では改めて」

「はい・・・」

「愛してる」

「ひゃん、」

「やっぱりこれが一番クルよな」

「ですね、やっぱり鉄板の言葉は私もドンピシャで響きます」

「じゃ、まだまだ聞かせてやるから、一生俺から離れるんじゃねーぞ」

「ひゃああああ」

「どうだ?」

「いいですね、先生、結構、乙女のストライクゾーン知ってますね」

「はっはっは、これでも、ボーイズ オブ クイーンだからな」

「そのネタわかりません」

「知らないのか、博学の君なら、わかると思ったが」

「ああ、もしかして、」

「そうだ、男の娘だ」

「いや、その路線知ってるんですね」

「たまたま、深夜アニメを見てだな」

「なるほど、先生、それ、全部見たんですか」

「ああ」

「先生、あれは、ですね。」

「なんだ?」

「あれは・・・女性の嗜むものです、」

「そうなのか、面白かったがな」

「先生、いちよチェックですが、それを見て可愛いとか思いました?」

「いいデザインだったからな、かわいかったぞ」

「先生、一線だけは超えないでくださいよ」

「え?どういうことだ?」

「とにかく、先生は成人女性を愛してくださいね」

「いや、あたりまえだろ」

「いえ、昨今は怖くてですね、アブノーマルに手を染める、人も多々いるので」

「どういうことだ?さっきから何を言っている?」

「いえ、あまり知らないのならいいのです、ただとにかく女性だけを視野に入れて強く生きてください」

「ああ、わかったから、そんなすごんだ目をするな」

「はい、ま、先生なら、心配はないと思いますがね」

「だから、何を懸念してるんだ、アニメ見ただけだろ」

「とにかく強く生きてください」

「わかったよ。怖いな~もう」


そうして二人のどこか中飛びしたデートが始まる

森本は、立派な強い女性であることを、ここで固く約束しておこう。

先生は、きっと分別ならぬ知識をつけるので

この先曲がらず強く生きることを私は見守らねばいけない。


「で、森本、お前も見ろよ、そのアニメ」

「いえ、大丈夫です、先生はもう絶対に見ないでください」

「え?」


と、今回はここまで。

二人の話はまだ続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る