第2話「胸の奥の価値あるもの」

生が人を作り 死が人を律する

 ベルモンド・ヘイガー著 万物の法則より引用


「朝ですよ先生、もう起きて下さい」

「ん~なんだ~森本、今日は休日だろ」

「如何様な日でも精進することは大切ですよ」

「君は、真面目だね」

「いえ、当たり前の事を言っているだけです」

「随分と、常識の敷居が上がったのだな」

「世界は日進月歩、日々、飛躍していますからね」

「しかしそれでは、見落とすものもあるだろ」

「どういう事ですか?」

「眠りから覚めては夢は終わってしまうのさ」

「夢は現実で追いかけてください」

「凛々しい限りだな」

「これも常識です」

「これはまた、一本取られたよ」


「今回の依頼ですが、少し不自然なんです」

「なんだ、また仕事を持ってきたのか君は」

「いや、仕事は必要でしょうに」

「何を言ってる森本、夢を追えと言ったのは君だ」

「仕事も出来ずに夢を追えるんですか?」

「ぐぬぬ・・・」


「では、改めて、依頼ですが」

「ああ、」

「恋愛相談です」

「君ね、よくもそんな突飛押しのない依頼を取ってきたな」

「先生には早すぎましたか?」

「何を言うか、恋愛くらい熟知し、と、る・わ・・・」

「おお、では良いではないですか」

「ほら言ってみろ即時解決してやる」

「頼もしいですね」

「特別に恋愛マスターと呼んでもいいぞ」

「そこまで気張らずともいいですよ」

「見透かしたような目でこちらを見るな」

「失礼しました、先生は想像を超える人でしたもんね」

「絶対、小馬鹿にしてるだろ」

「いえ、まさか、ただ私の出る幕が無くて口惜しいだけです」

「そうかそうか、大船に乗ったつもりでどんと構えているだけでいいぞ」

「はい、期待してます」


「内容は、意中の好みのタイプを知りたいそうです」

「では取材へ行くぞ」

「ココです」

「待て待ておかしいだろ」

「どこかですが」

「ここって皇居じゃないか」

「意中の相手は、王子様と書いてあったので、ここだと思いまして」

「いろいろとおかしいだろその依頼」

「ひとまず入りますか」

「いやいや結婚している人のタイプを聞くってもう浮気したいだけだろ」

「何を言いますか、浮気だって愛ですよ」

「意味が分からん」


「しかし参りましたね、入れてもらえないとは」

「当たり前だ」

「王子様ってほかに居ますかね」

「そうだな、身近にいる王子ならアイドルとかか」

「私、いつでも会えるアイドル知ってます」

「そうか、案内を頼む」


「ココです」

「いや森本、君のアイドル像おかしいだろ」

「ライオンかっこいいじゃないですか、百獣の王ですよ、ほら王」

「いやな、普通、動物と恋愛したいやつがいるか?」

「居ないんですか???」

「真顔で聞くなよ・・・」


「でも参りました、これでは依頼に応えられません」

「もう少し柔軟に考えよう」

「そうですね視野を広くするのは大切ですよね」

「森本、君の場合は視野を狭めてくれ」

「え?」


「そうだな、王か王、これしかないな」

「ここなら確かに王子は居ますね」

「ああだろ」


「入場チケット7500円らしいです」

「な?!高いな」

「そりゃ夢の国ですから」

「依頼料はいくらもらってるんだ」

「100円です」

「嘘だよな?」

「まだ学生だったので、良心価格にしたんですよ」

「お前の良心じゃ生きていけなくなるわ!」

「まぁまぁ、世の中お金じゃないですし」

「いやいや世の中、お金だよ、お金だからね」

「その学生さん言ってたんです、いくらでも払いますって」

「え?」

「でも物事はお金が解決してくれるわけではないですから」

「そうかなら君は本当は依頼を断ったのか」

「いえ、まさか、タダで引き受けますと言ったのです」

「そうか」

「でも彼は言ったんです、払わせてくださいと、」

「それで100円にしたのか」

「いえ、ただその理由を聞いたんですよ」

「ほぉ」

「彼はですね、お金は誠意ですと言ったんです」

「そうか出来た子じゃないか」

「だから私も負けれず言ったんです、そのお心だけで十分に受け取りましたよって」

「なんだ森本、君も小粋だな」

「いえ、でも彼はお金より価値のあるものを持っていただけですよ」

「そうか、ならば仕方ない、行こうか」

「ええ」


そうして二人は夢の国へ入った。

お金より価値のあるもの、それはきっと

誰の元にもある。


「お、森本、なんだか胸の奥が温かいような」

「奇遇ですね、私もなんだかぬくもりを感じます」


と、今回はここまで。

二人の話はまだ続いていく。

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