2 ホンモノ①
「謝罪は?」
「……鍵を閉めてなかったそっちにも責任があ」
「謝罪の言葉は?」
「可愛い女の子の膝の上に座り、あまつさえ用を足してしまったことを心の底から反省しております。」
「ふんっ、最初からそう言えばいいのよ」
え、許してくれるんだ。案外優しい…
少しきつい目つきをしたおかっぱ頭の彼女は、思いのほか優しい性格をしているようだ。指の骨を折られることくらいは覚悟していたのだが… それくらい所業をしてしまったと自分でも思う。
いや、ちょっと待てよ。そもそもなんで男子トイレに女の子がいるんだ。しかも鍵を掛けずに。僕が漏らしたことよりも、そっちの方が問題なのではなかろうか。もし男女が逆だったとしたら、悪いのは100%あっちに違いない。
謝罪撤回だ。本当に謝るべきはどっちか、教えてやらなくてはいけない。
そう考え彼女の方を見ると、彼女はまた一番奥のトイレに入ろうとしているところだった。
「ちょ、ちょっと待って」
「ん?」
「「ん?」じゃないよ。なんでまたトイレ入ろうとしているの!?」
「あーー、いや、それはね~……なんでだろう?」
腕を組みながら本気で考えている彼女を見て、僕はこいつが本当にヤバいやつだと確信した。というかよく見たらスカートや制服も僕が通う長谷高校とは異なるデザインである。もしかして、他校の生徒が間違えて入ってしまったのかもしれない。ここは優しく、刺激しないように、お帰り願おう。そして僕も帰ろう。
「あとさ…、ここ男子トイレだから、早く出たほうがいいよ…」
「えっ? ここ男子トイレなの?」
固まる彼女、それを眺める僕。僕らの間に短い静寂が訪れた。
そして少しの静寂の後、彼女はポツンと呟いた。
「じゃあ、私はなんでここにいるの?」
「それはこっちが聞きたいです……」
「……?」
完全にホンモノであった。
紅い夕日が照らす男子トイレ。
男子トイレをパニックになって徘徊する彼女。
彼女のいかれた言動に頭を抱える漏らしたばかりの僕。
そこには
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