第2話 布教の日々②
夕食の準備が終わりそうな頃、俺は朝優芽のことを語った投稿を確認すると色々なコメントが寄せられてきていた。
『結城先生のおかげで優芽ちゃんのことを知れた』
『叶ちゃんのことばかり見てたけど、結城先生が見てるなら僕も優芽ちゃんのファンだ!』
『叶ちゃんが最高なのは変わらないけど、それと同じくらい優芽ちゃんもいい!』
他にも肯定的なコメントが多数見受けられた。予想以上に反響を受けているようだ。
いいね件数は3000件を超えている。これから毎日頑張って優芽のことに着いて投稿していけば、今日以上の反響を受けられるかもしれない。
優芽のことについて知ってもらえることが兄として何事よりも嬉しい。彼女は毎日、もう諦めてもいいのでは、という程に努力している。
それをいつもそばで見ているからこそこの感動は生まれるのだろうな。
よし、ご飯でも食べながら明日投稿する文章を考えるとするかな。
俺はそう決めると、優芽を部屋から呼んで一緒に夕食を食べ始めた。
優芽のことについて語る投稿をし始めて約1週間が経った。
もう俺の小説家としてのアカウントというよりも、ただの優芽ファンアカみたいになっているような気がするが気にしない。
この1週間の成果についてまとめてみるとこんな感じだ。
・SNSのトレンドに優芽の名前が沢山表示されるようになった。
・シャーベットのニュースを今までは叶が独占していたものを、優芽について触れるニュースが増えてきた。
・学校では今、優芽が時の人となっており常に人に囲まれてサインをせがまれるような雰囲気になった。
と言ったところだろうか。
1週間の間でだいぶ世の中が変わってきたのではないだろうか。
俺の発信から始まった優芽語りは瞬く間にSNSを通して日本中に広まり、あっという間には優芽の話が出てくるような日常になった。
まさかこんなに早く成果が出るなんて想像していなかったが、俺の小説家としての力は存外大きかったらしい。
オタクから一般人、報道界へと繋がったのだ。
我ながら本当に鼻が高い。
1週間前までは見向きもされなかった美少女妹人気アイドルが今は知らない人はほとんどいない。新たなリーダー格として成長したのだから。
優芽は今日の昼の生放送に出演するらしく、今は家にいない。
3日ほど前から優芽のスケジュールが急に満杯になり始めたらしい。
優芽のマネージャーさんが言っていたので本当だ。
俺が7時くらいに起きた時には既に優芽の姿はなかった。いつもなら寝ているか、リビングで横になっているかの選択したのだが今は家にいない。
少し寂しい気もするが、嬉しい気もする。きっと嬉しい気持ちが勝っているさ。
俺は上機嫌なまま、優芽が出演するであろうテレビ局の番組を見始めるのだった。
「ただいま」
「おかえり優芽。今日の生放送良かったぞ!」
6時くらいになって優芽がテレビ局から帰ってきた。番組は約2時間ほど放送され優芽はずっと出演していた。
1週間前以前にたまに出演していた時の彼女よりもなんだか生き生きとしていたように見え、言葉には出さないがとても可愛らしく思えた。
「なっ…いいから。そんなこと」
でも例え優芽の人気がうなぎ登りとしたとしても俺へと態度は変わらない。
それはそうだろう。ストレスは無くなったかもしれない。
冷静に考えてみれば、ストレスが無くなったとしても突然家族に優しく接し出すようになるのは考えにくい。
多少の変化は起きるかもしれないが、キャラが急に真反対になることなんてありえないのだ。
優芽は俺のおかげで世間で注目された事実だって知る由もない。
アカウントは特定できたとしても、そのアカウントが俺だと言うことは分からないからだ。
でも俺は満足している。優芽の性格は変わらなくてもいい。彼女の努力が報われればそれでいい。
「なんか顔が赤いな。熱でもあるんじゃないか?」
俺は優芽の額を自分の額を触りながら触る。
優芽が人気アイドルとして有名になったとしても体調が優れないのであれば休まなければならない。
家族の体調が1番大事だ。
「んー、ちょっと熱いな。熱あるかもだから体温計持ってくるな」
「ね、ねねねねねね、熱なんてないから!義兄さんは気にしないで」
「そうか?」
「大丈夫だから。本当に!」
優芽は頬を赤く紅潮させて言う。
その赤さだと信用出来ないのだが…後から熱を無理やり計らせよう。
俺はそう決心した。
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