俺の事を嫌っている人気アイドルな義妹のことを陰ながらずっと褒め続けた結果、いつの間にか夜這いされていた件

ミナトノソラ

第1話 布教の日々①

 俺の父が再婚して早半年が経った。

 俺が産まれたあと直ぐにこの世を去ってしまった母さんの代わりに、父さんは約17年間俺の事を支えてくれてとても感謝している。


「今日も寒いな」


 父さんは新しいお嫁さん(新しい俺の母)と一緒に同い年の女子高生を連れてきた。


 しかもなんとあの有名3人組アイドルユニット『シャーベット』の3番手である木梨 優芽。


 デビュー作が日本中で大ヒットし、瞬く間に知らない方が珍しい程に大人気になったアイドルユニットの義妹が出来たのだ。


 付き合いはまだ半年で、彼女は俺に心を開いてくれていない。


 テレビで見る義妹の姿はとても可愛らしく、献身的なアイドル、といった様子だが家ではそんな面影は1つも見えない。


 人気アイドルの本性は人に対して無愛想で、きつい言葉をかける残念な人だったのだ。


 俺がこの情報をメディアに流せば優芽のアイドル人生は一瞬にして幕を閉じるだろう。


 だが俺は知っている。優芽は先程も言った通り仕事にとても献身的でいついかなる時もアイドルの仕事に関しては全力を尽くしている。


 家族になって分かることがある。


 彼女は苦悩している。

 3番手ということもあって、メンバーの中では言い方が悪いが1番人気が低い。


 芸能界、特にアイドルでは実力が全てと聞いたことがある。


 例えどれだけ美人でも歌が上手くなければ人気は出ない。


 ついこの前、優芽は自分の部屋を防音室にする工事をしていた。


 きっとそういうことだろう。

 俺はアイドルの歌に興味なんてないから、優芽がどんな風に歌っているかは知らないがきっと歌の練習をするためにしたに違いない。


 後付けで工事した防音室の場合、やはり完全防音にすることは正直難しい。


 今も彼女は自分の部屋で自身の歌をずっと練習しているのだろう。隣の部屋にいる俺の元へと少し音が流れ込んできている。


 俺もアイドルソングには興味はないが、アニソンには興味がある。

『シャーベット』はついこの前にアニメ化された作品のオープニングテーマを歌っていたのを聴いたのだが、優芽のパートは個人的に少ないなと感じた。


 某動画配信アプリに投稿されているミュージックビデオも拝見したが、やはり優芽のパートは少ないように思った。


 いつも通りのような光景。平日、学校以外は常に部屋にこもっている優芽を食事の時に呼びに行くのが家での俺の仕事。


 お義母さんから夕食の準備が出来たとメールがあったので俺は重い身体を無理やり持ち上げて優芽の部屋へと向かう。


 コンコン


 聞こえるはずの無いノックをして俺は優芽の部屋へとお邪魔する。入室した直後に彼女の歌声が俺の耳に自然に入ってきたことは言うまでもない。


 優芽はテレビ画面に写った自分のMVを見ながら熱心に歌唱している。

 本当に努力しているな。


 俺は優芽が耳につけていたヘッドホンを無理やり外すと、優しく声かける。


「ご飯だってさ」


「ん」


 これもいつも通り。

 俺は特に何かしたつもりはないのだが、優芽は俺と父さんに冷たく接する。

 お義母さんから毎日のように謝られているが、もう慣れてしまったので謝らないでほしい。


 家族なのだからそんな関係は嫌だろう。







『シャーベット』には絶対的なエースがいる。リーダーである夢見 叶ちゃんだ。


 夢見ちゃんも俺と優芽と同じく高校二年生。


 彼女はシャーベットの中で圧倒的な人気を誇り、顔はもちろん、歌唱力、ダンス力も他の2人のメンバーよりずば抜けて上手い。


 本音を言ってしまえば、2人目のメンバーと優芽は要なくても支障はないと言っていいだろう。


「早く2人とも食べちゃって。学校に遅れちゃダメよ」


「うい」「分かってる」


 俺の正面で食パンを加えている義妹、優芽は相変わらず無愛想な表情を浮かべている。


 優芽にももちろん、固定的なファンはいるがやはりリーダーには敵わない。


 俺はいつも何故彼女に人気が出ないのか不思議で仕方ない。あれだけ歌の練習をしていて、倒れるまでダンスの練習をして、リーダーに劣らないくらいの容姿をしているのに何故努力が実らないのか。


 推測は着いている。


 きっと国民はリーダーに注目しすぎている。他の2人のメンバーにも焦点を当てればいいもののいつもテレビで流れてくるニュースはリーダーのことばかり。


 もっとみんなが優芽のことを見てくれれば人気が出るはずなのに。


 布教活動でもしてみようか。俺や父さんが冷たく当たられているのは彼女の仕事に対するストレスが関係していると踏んでいる。


 彼女のストレスが無くなった時、俺たちは本当の兄妹となれると考えている。


 布教活動を始めてみようか。

 俺はこう見えても人気ラノベ作家として活動している人間だ。

 この事実は父さんと義母さんにしか伝えていない。


 SNSのフォロワーは50万人くらいいる。このアカウントで宣伝をすれば、少しは注目してくれる人が増えるか?


 俺は優芽の力になりたい。そしていつかは本当の兄妹になりたい。


 その気持ちだけが俺の行動欲を加速させる。


 そうと決めた俺は早速SNSに優芽のことについて語ったものを更新した。


 直ぐに数件のいいね、が通知される。

 頼むぞ俺の作品の読者。どうか優芽に注目してくれよ。


 そうだ、学校の友人にも話してみようか。







「お前らさ、シャーベット知ってるか?」


 友人数人に俺は話しかける。


「当たり前だろ。ついこの前、めちゃくちゃいい曲投稿したよな」


「そうそう、あの曲最高だったよな!」


「シャーロットのメンバーは全員言えるか?」


「あ、えーっと……叶ちゃんと葉月ちゃんと……えーと、あと一人……わかんねぇや」


「俺もわかんねぇな。あと一人誰だっけかな」


「優芽だ。優芽!しっかり覚えとけよ」


「ん、あぁ。結城がアイドルにハマるなんて珍しいな」


 結城は俺の名前だ。木梨 結城。高校二年生。普通の高校生。特に特技なし。好きなことはアニメ鑑賞だ。


「この前アニメの歌歌ってただろ?あれさ」


「あぁ、そういうことか。優芽ちゃんな。覚えとくよ」


「よろしく頼んだ。出来れば他の人にも布教しててくれたら助かる」


「任せときな。結城の頼みなら喜んで布教するぜ」


 ふとスマホを見ればいいね件数が500件を超えた所だった。









 今夜は父さんも母さんも帰ってこない。俺と優芽の2人きりということになる。


 優芽よりも先に家に帰ってきてきた俺は、

 夕食の準備を進めていた。


 好きな音楽を流しながら作業をするのは楽しい。全くもって苦にならない。


「ただいま」


 突然リビングの扉が開かれたと思うと、優芽が帰ってきたようだった。

 俺は音楽を止めて優芽の元へと歩く。


「おかえり。今日、父さんも母さんも帰ってこないから俺が夕食作ってるからな。後で呼びに行くな」


「分かったからそんなに近づかないで。ウザイから」


「あぁ、すまん」


 何やら優芽の顔には焦りがあるように見えた。


 そしてやはり家族から冷たくあたれられると少し傷ついてしまうな。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


過去作投稿です。伸び具合では続きを執筆予定

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