恋ほど切ない恋はない

菊池昭仁

第1話

 「今日は秋晴れの良い天気になるでしょう、傘の心配は要りません」



 朝のニュース番組のお天気お姉さんは、美しい声でそう言うと「私ってなんて可愛いの!」という満面の笑みで「いってらっしゃい」と手を振っていた。



 私はテレビを消し、部屋の内部を確認して家を出た。

 妻と熟年離婚をして10年になる。

 満員電車に揺られ、出勤すると窓際の席に着く。

 一応の肩書は部長だが、会社の役職など「渾名」のようなものだ。。

 私は60の定年まで、残り5年の窓際社員だった。

 最近では窓際ともいわないらしい。「Window's」というそうだ。

 若い連中は実に上手いことを言う。



 「唐沢部長、おはようございます。稟議をご確認下さい」

 「おはよう、いいね? 吉田君の今日の髪型。あっ、そんなこと言うとセクハラだよな?」

 「別に構わないんじゃないですか? 言われた本人がそう思わなければ」


 娘の聖子と同じ歳の吉田がそう言って笑った。

 私は彼女の稟議書を確認し、印鑑を押した。

 月初の今日は比較的のんびりとした雰囲気だった。

 私は携帯のLINEを開いた。

 中学時代の木下からだった。

 彼も東京で働いているとは知っていたが、会ったことはない。



 「クラス会のお知らせです。

 ご出席の方はご連絡をお願いします」

 クラス会? 私は暇な毎日を送っていたので出席することにした。

 私にはクラス会に出る目的があった。

 そう、後藤祥子に会うためだった。

 祥子とは小、中学校で同級生だったが、お互いに好意はあったものの、その実現までには至らなかった。

 彼女は女子高へ、そして私は男子校へと進み、彼女は地元の短大へと進学し、私は東京の大学を出て、今の会社に就職をしていた。

 私は後藤のことが好きだった。

 あれから40年が経過し、私たちは還暦を迎える歳になってしまった。

 私は髪も薄くなり、白髪も増えた。

 どうしているだろうか? 後藤は?


 私は「出席します」と返信をした。

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恋ほど切ない恋はない 菊池昭仁 @landfall0810

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