第3話.将来

「これは、君がバレーを頑張って日本代表として活躍する『生き方』だね」


 真っ黒で何も無い空間に映し出された、自分の仮の未来の姿。日本代表として、楽しそうにプレイしている。


 ――ただ、1つだけ心に引っ掛かっている事があった。それは、


「全く想像つかないわ。自分がバレーを続けてるって」


 一応、バレーは小学生の頃から続けてるし、高校でもキャプテンを務めた。全国大会にも出場した事もあるが、何れも初戦敗退。


 とにかく、バレーを職業にしたいとは全く思わないのだ。


「ちょっと違うかな。日本代表なんて無理だし」

「そうね、じゃあ次だ」


 思った事を素直に伝える。意外とあっさり次に進むんだな。少しだけ、静寂の時間が流れる。



 ――チリーン……



 もう聴き慣れた音が響き、今度は真っ白な世界に飛ばされた。勿論もちろん、少女も一緒だ。


(何となく分かった。この風鈴みたいな音が鳴ったら、別の場所に飛ばされるのか)


 心の中でそう推理するも、だからと言って何か出来る訳でも無さそう。何も無い空間に再び浮かび上がってきた風景を、素直に見てみる事にした。


「やっぱり俺だ。あ、でも眼鏡かけてる」

「今度は大学生になって、大企業に務めるまでの君だね」


 如何いかにも真面目そうに授業を受ける映像の中の俺。同級生っぽい人達とも話してるし、楽しそうっちゃ楽しそうだ。あ、スーツ姿になった。これは社会に出た俺か。


 何より、眼鏡をかけてる自分が新鮮すぎる。でもやっぱり、


「これも違う。勉強苦手だし、極力やりたくない。大企業なんて大変そうだしなぁ」

「相変わらず文句の多い奴だな」


 面倒臭そうに少女が呟いた。相変わらずて、さっき出会ったばかりでしょ君。確かに文句は多いかもだけどさ。

 自分に合った「生き方」を教えてあげるとか言われたんでね。結構期待してるからこそ、意見は遠慮無く言わせてもらうよ。


「次はどんな感じ?」

「あ、次ちょっと難しいから私と手を繋いどいて」


 この移動に難しいとかあるんだと苦笑いしながら、少女の手を握った。


(……?)


 何だ、この感じ。手を握った時なんか違和感を感じたがピンと来ず、結局そのまま、転移を静かに待つことになった。



 ――チリーン……



 心地よい音とともに、風景が切り替わる。やっぱり、この音が転移の合図なんだと確信を持った。


「……え?あれ、ここって」


 次の転移先に選ばれた所は、懐かしさを感じる場所だ。今度は何も無い空間ではなく、見覚えのある田舎の町の風景だった。


「君が職人として、シェフとして働いている未来だね」

「ここ知ってる!小さい頃おばあちゃんとよく行ったもん」


 ここは、8年前に亡くなったおばあちゃんが、散歩のついでによく連れて行ってくれた、地元の小さな老舗しにせパン屋だ。


「……懐かしい」


 懐かしさに浸り感動する俺を横目に、なぜか少女も微笑みながら、パン屋を眺めていた。

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