第2話.少女

「……なんで?マジでどこよここ」


 状況が掴めない俺は、見知らぬ教室内を駆け回る事しかできなかった。廊下に出るドアはなぜか開かないし、窓も同じくだ。


 ――なら、


「……グラウンド側は、どうだ?」


 そちら側の窓は開いており、そこから外に出られそうだ。早速、窓側に寄せた椅子を使って、窓枠に足を掛ける。そのタイミングで、ようやくあることに気付いた。


「無理だ」


 一見すると何も無い。だが、そこには目に見えない、透明な壁があった。つまり、ここから出ることが出来ないのだ。


(……何なんだよ、この空間は)


 なおさら訳が分からなくなる。焦りと暑さも相俟あいまって、頬を汗が駆け下りた。


 ――チリーン……


 またあの音が響いたと思うと、黒板の方に急に気配を感じた。ほんとに急だったので、急いで視線を移す。


「ちょっとは落ち着いたらどう?」


 いつの間にか教卓の上に座っていた少女は、呆れた様子でそう呟いた。勿論、彼女はつい数秒前までは居なかった。いや、まじでどっから来たのよ君。


「急に知らない場所に来て、急に君が現れて落ち着けると思う?」


 見知らぬ子に、こんな堂々と話せる自分に少し驚いた。それと、初めて会った気がしないのは気のせいだろうか。いや気のせいだ、こんな子知らない。


「なんや。折角可愛い後輩のために、君が望む生き方を教えてやろうと思ったのになぁ」

「生き方を教える?君が?どうやって」


 頬に手を当て、つまらなそうに話す少女。てか、俺の事を後輩って言ったよなこの子。見た感じ同い年くらいの彼女が、初めて会う俺の生き方を教えるって?


(……何言ってんだ)


 ただ、これから先の生き方が決まってないのは事実。自分にぴったり合う生き方があれば是非教えて欲しいところだ。

 彼女の言葉に、心の中の半分はどうせ無理だという諦め、もう半分は期待で埋まっていた。


「ほら、そろそろ見えるぞ」


 風鈴を指差してそう言った少女。


「……ん?見えるって、何……」



 ――チリーン……



 自分が完全に話し終わる前に、再びあの音が鳴った。


「……うお!?」


 急な場所変更に思わず声が漏れる。一瞬のまばたきの後、何も無い真っ黒な空間に俺は居た。

 てか、結構急に場所移動させられるのね。急に暗くなったから少し怖かった。


「……ん?あれは?」


 目線の先には、映画館のスクリーンのようにとある風景が映し出されている。

 どうやらバレーボールの試合の様子が映されているようだが、そこに映った1人の男に、驚きと疑問が浮かんだ。


 ――この映像?に映ってる人って……


「……俺?」

「大正解!」


 体格が今より格段に良く、髪もスッキリしているが間違いない。


 そこには、日本代表のユニフォームを来てガッツポーズをする、自分の姿が映し出されていた。

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