第3話

 では綾小路はどうやって潜在意識の中に入って行くのかというと、その人の夢の中に入り込んで潜在意識を書き換えるのであった。

 人は意識する、しないとに関わらず、眠ると必ず夢を見るからだ。

 楽しい夢、うれしい夢、面白い夢ならいいが、不幸な人は得てして悲しい夢や辛い夢、恐ろしい夢ばかりを見ていることが多い。

 なぜなら不幸せな人は、いつもマイナスのことばかりを考えているからだ。

 心配や不安、怒り、恐れ、劣等感。

 人の悪口や陰口、不平不満。妬みやそねみ。

 そして絶えず他人と自分を比べて生きている。

 だから不幸のスパイラルから抜け出せないのである。

 ゆえに綾小路は悪夢を作り出しているその思考回路をプラスに変えるのだった。

 綾小路は真っ黒に汚れてベタベタの油汚れのような思考をゴシゴシと洗い流し、考えを明るく、前向きにしてあげるのである。



       我思う ゆえに我あり



 人がしあわせになるのは簡単だ。考え方を変えればいい。

 なぜなら人は「自分が思った通りの自分になるから」だ。

 「自分はダメだ」と思う人間はどんどんダメになり、「自分は出来る! 自分はやれる! 自分はなんて恵まれて生きているんだ!」と思っていれば、自信に満ち溢れたしあわせな自分になれるのだ。

 茶筒ちゃづつを横から見れば四角だが、上から見れば丸であるように、所詮、人生は考え方次第なのである。



 綾小路が道を歩いていると、髪はボサボサで目はうつろ、昔流行った3本線のアデデスのジャージを着てがっくりと肩を落とし、俯きながらブツブツと独り言を、まるで呪いの呪文のように呟いて歩いている老人を見掛けた。


 「アイツが悪い、アイツのせいだ。アイツさえいなければ、アイツなんて死ねばいいのに、ブツブツ・・・」


 老人が綾小路と目があった瞬間、老人は倒れて眠ってしまった。

 慌てて老人を抱き起こす綾小路。


 「お爺ちゃん、大丈夫ですか? お爺ちゃん」


 悪臭が鼻についた。おそらく何日も風呂にも入らず、ウンコとオシッコも漏らしているのかもしれなかった。

 綾小路はその老人の夢の中に潜り込んで行った。


 そこは暗くて冷たい、悪臭に満ちた世界だった。


 「いやあ、これは酷いありさまだなあ?」


 するとそこにはアベベ派の裏金問題で悪事があぶりり出されたあの不記載議員、殆どお咎めなしのガマガエルみたいな男が革張りのハイバックの椅子に座って葉巻をくゆらせていた。

 民自党都議連会長、そう羽生はにゅうだ。


 「何度言ったらわかるんだ! いいか? すべて今回のことは秘書のお前がやったことだ!

 俺は何も知らん! いいな?」

 「でも私は先生のご指示の下に・・・」

 「貴様! 何を寝ぼけたことを言っているんだ! 俺は将来日本の総理大臣になるガマガエル親分だぞ! こんなことで潰れてたまるか!」


 羽生は激怒し、机をバンバン叩いていた。


 (なるほど、このお爺ちゃんは悪い政治家の秘書をしていたのかあ?)


 さっそく綾小路はお爺さんの心の中の溜った恨みや嘆きを掃除してあげた。


 ゴシゴシ ゴシゴシ


 そして綾小路は油性のマッキーで老人の潜在意識を書き換えた。


 

     もう過去のことを怨むのは止めよう。もう終わったことじゃないか!

     俺は笑うんだ、大きな声で笑うんだ!

     俺はツイてる! 私はしあわせだ! 俺はチカラだ! チカラの結晶だ!



 すると老人は優秀で誠実だった秘書時代のようにピンと背筋を伸ばし、大声で笑いながら颯爽と歩き出した。

 そして数カ月後、その老人は『絶望の党』から立候補し、国会議員になったのである。



 こうして人をしあわせにする度に、綾小路は神様から『たいへん良くできました』のスタンプを、神様からの連絡帳に押してもらえるのであった。

 この「たいへん良くできました」スタンプを1,000個集めると、何でも望みが叶う『魔法の杖』がもらえることになっていた。

 綾小路はそれを目指してがんばっていた。

 

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