第16話 挿話・国境、野営地
フルクトゥスの古い石造りの王宮にあって、第二王子エドアルドの私室は中心部からやや離れた場所にある。
エドアルドは幼少期、国王の居室の側に豪華な私室を与えられていた兄との扱いの差に憤っていたものだが、徐々にそれが幸運であることが理解できてきた。
そして今では、この上なくありがたいとまで思っている。
王妃の母親を同腹とする兄・王太子アマデオを、人目を避けて、エドアルドの部屋に閉じ込めることができたのだから。
満月が迫る夕暮れ。王宮から遠く離れた国境の野営地に張られたテントで、エドアルドはアマデオを捕らえたという報せを受けていた。
「流石に近衛は手こずらせてくれたようだな」
来る戦いに備え念入りに愛剣の手入れをしながら、彼は腹心の部下たちに語り掛ける。
「兄上のことは、くれぐれも丁重に扱うように。万が一、禁断症状が出るようなら……」
「ご心配には及びません。各分野で信頼できる医師を確保しております」
そう答えた配下に、エドアルドは頷くと小さな息を吐いた。
「隠しておくのも2、3日が限界か。今夜落とさねばな――シルヴェストリ」
「はい」
端で控えていたミケーレが短く答える。その顔に笑みは浮かんでいなかった。
「王女を救い出した英雄として、彼女を望むこともできるんだぞ」
「……それは彼女が望んで……いえ、与えたいものではありませんので」
「欲がないな」
エドアルドは軽く言ってから、表情を失くしたミケーレを見て口元を緩めた。
「ああ悪い、お前は無欲とは真逆だったな。……そうだな、惜しいが、そろそろお前を解放してやる。それまでせいぜい俺のために命を懸けてくれ」
「殿下のためではありません」
「俺はお前のそういうところも気に入っていたんだが」
エドアルドが手入れを終えた剣を鞘に納めれば、王宮で被る冷徹な仮面が顔に貼りついていた。
「――日没に出る。修道女だろうが何だろうが、遠慮なく燻りだせ」
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