口裂け女
天川裕司
口裂け女
タイトル:口裂け女
私はこの界隈きってのエステティシャン。
子供の時からずっとエステティシャンになるのを夢見て、
今それが叶った。
世界一のエステティシャン、これになることが私の夢。
ただのエステティシャンではない。
美容外科もかねそろえた、その人の運命を
根底から覆すほどの力を持つエステティシャン。
ある日の仕事帰り。
いつも歩いていた夜道を歩いていると、
廃屋の病院横で、誰かが突っ立ってるのが見えた。
女だ。
女はぬぼーっした感じで突っ立っており、
羽織ったコートのポケットに手を入れ、マスクをしていた。
それがわかった時、彼女は私の方へ近づいてきた。
そして…
女「私、きれい…?」
と一言聞いてきた。
「え?」と思いつつも、私はそれまでに聞いた
オカルト伝説や都市伝説のことを思い出し、
「もしかしてこの子、あの有名な口裂け女?」
と思った。
私はこう見えてけっこう霊感があったようで、
これまで何度かその類の霊には出会ってきた。
でも口裂け女は初めてだった。
女「私、きれい…?」
何度も何度もそれだけを聞いてくる。
私はその言葉をよそに、本来のエステティシャンの血が騒ぎ始め、
彼女のプロポーションを確認するようにじっと見つめた。
かなりの美形。
グラマラスという言葉がぴったり当てはまる
ような彼女のその体型は、私が目指していたモデル、
こんな人をエステしてみたい…
この夢を十分叶えてくれそうな、
そんな予感をストレートに訴えてきた。そして…
女「ねえ、私、きれい…?」
と彼女が20回目にそう私に聞いてきた時…
「…ねぇあなた、口裂け女でしょ?マスク取って見せてごらん?その中にある顔のことも私はよく知っている」
とりあえずそう言っといてから、
「いつもそんなことばかり人に言って、自分をかわいそがってるよりもさ、本当にきれいになりたいとは思わない?」
と誘ってやった。
口裂け女「……え?」
すると彼女はマスクをとらずまま私の方を見つめ、
そのまましばらくずっと佇んだ。そして…
口裂け女「あなた何者?私のことをよく知りながらそんなこと言ってくるって…私が怖くないの?」
「怖いも何もあなたは私の理想のモデル。それになれる資格が十分にあると思うわ。来て」
それから私は彼女を連れて
自分のエステのお店に連れて行き、
ささっと顔を変えてあげた。
こんなの私にとっては朝飯前。
エステされた元口裂け女「え?こ、これ私…?」
整形失敗して彼女の口は大きく裂けていた。
彼女が整形を受けた時代は遠い昔のこと。
だからその改善法が見つからないでいた。
でも今は違う。
私がこの業界に現れてから、その常識を覆され、
従来、不可能だった治療が可能になったのだ。
「どう?あなた本来の美しさはそれ。その顔に表れてる」
頬の傷は全て消し去り、その痕跡を1つも残さず、
元の口の大きさに戻した上で
さらに美の高さと奥行きを最大限に引き出し、
彼女は生まれ変わった。
「その抜群のプロポーションを持った上で、さらにそのプロポーションが引き立て役になるほどの絶世の美の顔。それだけの財産を手にすれば、あなた、グラビアにもきっと載れるわよ?」
口裂け女は、もう1度整形した上で元の鞘に収まった。
普通の女性に戻り…いやさらなる美をかねそろえた
絶世の美女に生まれ変わり、
そのビジョンは限りなく明るいものとなったのだ。
口裂け女はもともと「わたしキレイ?」と聞くだけで、
相手を驚かすだけの存在だった。
そんな事の繰り返しでこれまで来ていた彼女に対し、
「口裂け女と言うか、そんな口だけ女でいいの?」
なんて誘い文句を1つ入れながら
彼女に新たな希望を見せてあげた。
ただそれだけのこと。
彼女はもう口裂け女でも口だけ女でもない。
今を生きて行く、美しくも愛らしい女になったのだ。
でも、きっと彼女はこれから
新しいトラブルを味わう事になるかもしれない。
それは美しさを手に入れたゆえのトラブル。
必要以上に美を重ねると、女は変わるもの。
その類のトラブルは、多分私の手には負えないものだ。
だから私は最後に彼女にアドバイスした。
「そんなトラブルも、きっと人生を破滅に追いやることがあるかもしれない。だから、気をつけてね」と。
その言葉をちゃんと聴いたかどうか知れない彼女は、
夜の街へと入っていった。
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=ctCgtvhbIuQ
口裂け女 天川裕司 @tenkawayuji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます