第71話 助っ人さんの参上であります!

 早朝。


「こんな朝早く出発するなんて、普通考えられないわ。身体の疲れが全く取れていないのだけれど」


 お嬢様はニーナ様に対して、文句を言います。


「昨日の夜、一時間も無駄なことに体力を使わなかったなら、きっと今頃疲れが取れていたと思うわよ」


 ニーナ様は、ため息混じりで呟かれました。


「無駄なこと? そんなことはありえないわ。馬鹿なの?」


 お嬢様とニーナ様が、再び睨み合い――火花を散らしました。


「お、お嬢様、落ち着いてください!」


 私は、お二人の熾烈な睨み合いを見て、あわあわとしてしまいます。


 そんな私に対し、他のお二人はとても冷静であります。


「ニーナ様に見つめて頂けるなど、うらやまけしからんですね」

「ネーヴェさんは、本当に相変わらずっす。それより、争いが続くようなら、もうしばらく寝ててもいいっすかね?」

「駄目に決まってんでしょ。今すぐ向かわないと、約束の時間までに間に合わないんだから」


 ニーナ様は、目線だけをネネさんに向けました。

 

「に、睨まないでくださいっすよ」

「睨んでなんかないわよ。それよりも、アリーシャ。今すぐ向かわないと時間が厳しくなることぐらい、あんたならちゃんと理解しているでしょ?」

「分かっているわ。……少し、文句を言いたかっただけ」


 お嬢様は、ムスッとしております。


「少しじゃなかったと思うんだけど――まぁ、いいわ。それより、さっさと向かうわよ」


 ニーナ様の言葉により、このチームが目的地に向かって歩き出しました。


 このチーム、リーダーがまだ決まっておりませんが、率先して皆を引っ張っているニーナ様のお姿はとっても立派で、とてもかっこいいと思います!


「リッカ」

「はい。なんでしょうか、お嬢様」


 目線を向けると――私は、驚いてしまいました。


 に、睨まれております!


「今――よこしまな気配を、リッカから感じたわ」

「そ、そんなこと、ありえませんから!」

「……本当に?」


 う、疑われていますか!?


「ほ、本当ですから、お嬢様!」


 むむむ――といった顔をしながら私の方へと近づき、手を握ってきました。


「……リッカは、私だけを見ていればいいのよ」


 ふんっ、といった感じで、お嬢様はそっぽ向かれました。

 

 


 * * *



 

 日が暮れる前。


 指定の場所、指定の時間に辿り着くことが出来ました。


 ニーナ様が足を止められます。


「なるほど、確かにこの先――結界があるみたいね」


 感心したように、ニーナ様は呟かれました。


「先に言われていなかったなら、気づかなかったかもしれないわね」


 どうやら、目に見えない結界がある模様です。


 私は、周りを見渡しました。


 特に変わった雰囲気はありません。


 相変わらず、長い樹木に囲われた場所です。


 ただ、結界があると言われれる場所は行き止まりな気がします。だって――。


「思っていたより、早く着いたようですね」


 後ろから、知らない女の人の声。


 私は振り向きます。お嬢様は杖を取り出し、私と知らない女の人の前に立ち塞がりました。


 ニーナ様とネネさんも杖を取り出し、見知らぬ相手を睨みつけております。


 ネーヴェさんは私と同じく、感覚派のため杖を取り出すことなく拳を構えていました。それを見て、私もそれとなく真似してみました。似合ってますかね?


「警戒する必要はありません」


 と、女の人は言いました。


 見知らぬ人は、黒いシスター服を着ております。


 大きく凛々しい青い目。


 ショートヘアーは青い髪。


 年齢は――20代前半かと、思います。


 あまり見たことのない色は、ネーヴェさんと同じく異国の香りがしました。


「あんた――誰よ」

「ただのシスターです」

「……名前は?」

「ノエル、と言います」

「そのノエルさんが――何故、こんな所にいるのかしら?」

「察しが悪い人ですね。姫様から助っ人が来る話、聞いているんですよね?」

「――あんたが、その助っ人だって言いたいわけ?」

「そうです。普通に考えれば分かることでは?」

「その相手が、教会の人間だとは普通思わないわよ。あんたたちは中立の立場でしょ。それが何故、王国の問題に介入しようとすんのよ」

「つまり、この問題は王国だけの話ではないと言うことです」

「へー、それはまた……」

「知っているかとは思いますが、我が教会のトップである教皇様が12年前に突如、亡くなられました。次に選ばれるのは誰もがとある人物だと考えていました。しかし、聖印が選んだのは無名の少女。人々が納得できぬまま――当時齢10歳の新教皇が誕生しました。その時の彼女はあまりにも才覚が感じられなかった。そのため、新教皇に対し、快く思わない者たちがいた――というわけです」

「つまり、教皇派と反教皇派に別れ――教会は完全に分断しているってわけね」

「よくも悪くも、前教皇の権力は絶大でした。そのため、あの方が亡くなられてから出てくる膿は計りしれず、未だに除去が間に合っていません。ですから、彼女が悪いと言うよりかは――前教皇のせいだと口にする者がいるくらいです」

「で――何故、私たちが教会の問題に係わらないといけないわけ?」

「本当に、察しが悪い人ですね。その反教皇派とあなたたち王国の上層部は繋がっています」

「……つまり、ベルエール家も係わっていると言いたいわけ?」

「ですから、私はあなたを信用していない。しかし、彼女はあなたを信用した」

「私のことを知っているわけか――それで、シオン様のことは信用していると?」

「ある程度――でしかありませんが」

「シオン様がニーナを信用した――と言うよりかは、今回の件で見定めるつもりなんでしょうけど」


 ぽつりと、お嬢様は呟かれました。


 全員が――お嬢様の方へと視線が向けられます。


「確かに、そうかもしれませんね。怪しい動きがあるなら、好きにすればいいとも言っていましたし」

「あの人らしいわね」


 お嬢様は、くすくすと笑います。


「あなたは、憎みますか?」


 お嬢様へと、問いかけられました。

 

「それは、何に対してかしら?」

「あなたの家――クレイワース家は、反教皇派の企みにより失墜した、と言われたならば」


 お嬢様は、鼻で笑われます。


「そのことに対して、私は感謝してもいい」


 驚きの目が向けられました。


「だって――そのおかげで、私はリッカに会えたのだから。それはもう、感謝の気持ちしかないわね」


 沈黙。


「確かに……あなたは、狂っているのかもしれませんね。姫様の言う通りに」

「狂っている? この私が? まさか、そんなことありえないわ。あなた、馬鹿なの?」


 シスター――ノエルさんは、口元を引きつらせました。


「私は正常になれた。リッカの愛のおかげで」


 と、お嬢様は恍惚とした表情で仰いました。

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