第70話 お嬢様、恥ずかしいのであります!

「で、でも――」

「早くして、リッカ。これ以上は、我慢できないもの」


 耳元で囁かれ、私は言われるまましゃがみ込んでしまいます。


「いい子ね、リッカ。では――私が脱がしてあげる」


 お嬢様の手が、スカートの裾を掴みました。


「お、お嬢様、そ、その――私、トイレがしたいのです!」


 その発言で、顔が火照ってしまうぐらい恥ずかしくなります。


 そんな恥ずかしい発言をしても、指の動きが止まらず、私はお嬢様の手を掴み、スカートがめくられないよう必死に阻止しました。

 

「そうね、リッカ。大丈夫、ちゃんと分かっているわ。だから、手が邪魔」


 ぜ、絶対、手はどけませんよ!


 それにしても、力が強すぎます。先程まで、あれだけバテていた方とはとても思えません。流石は、お嬢様です!


「やるわね、リッカ。だけど何故、抵抗するのかが分からないわ」

「あ、当たり前です。これは――人としての尊厳を守るための戦いであります!」

「意味が分からないわ、リッカ。私――前は我慢したじゃないの」


 それは、ニーナ様が私を守ってくれたからですね!


「私は、リッカの全てを受け入れる覚悟があるわ」

「何も、全てである必要はないかと!」


 沈黙。


「……嫌なの?」

「嫌であります!」

「……何故?」


 私としては、そのように聞き返されるほうが、何故? なのであります!

 

「それは――そのぉ、汚いですし」

「汚くなんてないわ、リッカ。それに、汚れたとしても私の魔法でどうとでもなる。だから、安心しなさい」

「安心できませんね!」


 再び、沈黙。


「……私は、リッカの全てが知りたいのよ」


 その声が――何となく、昔のお嬢様を思いださせました。


「お嬢様、その――お気持ちは嬉しいです。けれど、今回のは流石に駄目だと思いますよ?」


 私は、お嬢様をなだめるよう言葉を紡ぎました。


「そう――なの?」

「そうなんです!」

「そう――なのね。確かに、そうなのかもしれないわ」


 お嬢様は、ご自分の頭と私の頭をすりすりとしてきました。


「でも――リッカが悪いのよ」

「そうなのですか?」


 どうしましょう……。


 全くもって、思い当たる節がありません!


「だって、最近――ニーナのことばかり、リッカは褒めるじゃない」

「そうですか? そんなつもりは――ない、のですが」

「なら自覚して、もっと――私だけを褒めて、もっと、私だけを愛して。ねぇ、リッカ」

「私、ものすっごくお嬢様のこと、愛しておりますよ?」

「……ニーナよりも?」

「はい。ニーナ様よりも、お嬢様のことを愛しております」

「じゃあ、どれぐらい――私を愛しているの? ニーナより、どれだけ私を愛していると言えるの?」

「どれぐらい――ですか?」

「そう、どれぐらい――私を愛しているの?」

「そんなの――言い表せないぐらいです。何かに例えられないぐらい、お嬢様のこと、愛してますから」

「本当?」

「ええ、本当です」

「じゃあ、リッカが * * * * しているところ、私に見せて」

「それとこれとは別ですから!」

「そう、なの?」


 お嬢様は、何故か驚かれた顔をなさいます。

 

「そうですよ! それでもちゃんと――私はお嬢様のこと、誰よりも愛してますから」


 じっと――眺められます。


 後ろから抱きしめられたまま、お嬢様は私の方へと熱視線を送ってくるのであります!


 そのため、一瞬怯んだものの視線を逸らすことなく耐え切りました。


 しかし、無言は続き――冷や汗が流れます。


 そして――お嬢様が、急に笑いだしました。


 始めは呆気に取られ、反応ができませんでしたが、何だかおかしくなってきて、私まで笑ってしまいました。


 2人でしばらく笑いあった後、お嬢様は立ち上がります。


「じゃあ、外で待っているわ、リッカ」

「はい、お嬢様」

「私だって、誰よりもリッカを愛しているわ」


 そう言って、お嬢様は結界の外へと出ていかれました。


 あ、やばいかもです。


 心が、どっきどきであります!




 花を摘み終え、お嬢様とは手を繋いで帰――ろうとしたのですが……。


「リッカ、川の方へ行くわよ」

「何でですか?」

「そんなの決まっているわ。私がリッカと行きたいからよ」

「……変なこと、しないですよね?」

「そんなこと、するわけがないわ。先ほどまでの私とはもう、違うのよ、リッカ。それが分からないのかしら?」


 お嬢様は不愉快そうに眉をひそめました。


「す、すみません」

「かまわないわ、リッカ」


 馬鹿な私に対して、お嬢様は優しげに微笑んでくれます。


 私の心が和みました。


「それじゃあ、行きましょうか」

「は、はい!」

「リッカのために、私が綺麗にしてあげる」


 その、言葉を聞いて――。


 何となく――嫌な予感がしました。


 だけど、私はお嬢様を信じたんです。


 しかし、変なこと――――。


 されました!



 

 そして、寝る前のお話です。


 ニーナ様から、大変申し訳なさそうな顔で言われました。


「あんたの――人としての尊厳を守ってあげられなくて、悪かったわね。やはり、止めるべきだったかと反省したわ」


 守れましたから!


 多分――ですけど!

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