第67話 Sランクへの初依頼
「アリーシャ、今は抑えていただけると助かりますね」
お嬢様は軽く息を吐かれますと、目を閉じ、椅子に少しだけ寄りかかりました。
「……分かりました。話を続けてください」
大人しく、引き下がるそのお姿――立派ですよ!
「いえ、まずは皆さま――リラックスを」
王女様は指を鳴らします。
すると、メイドさんの前に、四角い天板タイプのティーテーブルが現れました。その上にはティーポットやカップ等が並んでおります。
「アリス、お願いしても?」
「はい、シオン様」
メイドさんは返事をしますとティーテーブルの取手を掴み、お嬢様の隣まで移動しました。
「申し訳ありませんが、アリーシャ様から左回りの順でいきますので」
そう言って、メイドさんは実にテキパキと、そして優雅に紅茶を淹れると、素早く皆さんの前に置いていきます。
そして、仕事を無事に遂げたメイドさんは主人の元へと戻りました。
「その子の紅茶を淹れる様は実に美しかったでしょう? 皆さまにも、是非、お見せしたかったのです」
その言葉で、メイドさんは頬を染め――俯いてしまいました。
か、可愛いすぎます!
ついつい、興奮していますと――。
い、いたたっ!
いきなり痛みが走り、つい、声が漏れてしまうところでした。何故か、お嬢様から腕をつねられてしまったのです。
一体、何故なのでしょうか?
「アリスは私のお気に入りです。そのため、皆さんと顔を合わす機会も多いでしょう。ですから、自己紹介を」
メイドさんは顔を上げ、背筋を正します。
「シオン様のお側付きをさせていただいているアリスです。ただの平民のため、呼び捨てで構いません」
「え、えっと、アリスちゃんと呼んでもいいですか?」
「……ええ、構いません。リッカ様」
一瞬、眉をしかめられた気がします。……気のせいだと良いのですが。
「アリスちゃん。私に、様はいりませんよ?」
「いえ、リッカ様と呼ばさせていただきます」
「え? でも――」
「リッカ」
お嬢様から窘められ、私は押し黙ります。
「シオン様、話の続きを」
「本当にアリーシャはせっかちですね。それでは、リッカさんに嫌われてしまいますよ」
王女様の言葉を聞き、お嬢様は眉をしかめた後――私の方に顔を向けました。
「リッカ、何故すぐに否定しないの!」
え!?
「リッカさんがいると、アリーシャは本当に面白い子になってしまいますね」
王女様は可笑しそうに、笑みを浮かべられました。
「まぁ、いいでしょう。それでは――本題を」
右の人差し指で机の上を、数回ほど叩かれます。
すると、テーブルの真ん中付近の空中に地図が浮かび上がりました。とある地点に赤丸がしてあります。
「簡単に言ってしまえば、赤く印した場所へ5人で向かっていただきたいのです」
「何故、5人なのでしょうか?」
「ある程度、長旅になるでしょうし――それに、それほど危険もないと考えたからですが、不安ですか? アリーシャ」
「……どう言う、意味でしょうか?」
「大した危険のない場所でも、リッカさんを守れる自身がないのなら、リッカさんを私に預けていただいても構いませんよ? むしろ、そのほうが私にとってはありがたい話ですから」
「その必要はありません」
「ほう――そうなのですね」
「ええ、そうです。例え、他の者たちを犠牲にしようとも、リッカにだけは指一本たりとも触れさせませんから」
「お、お嬢様……」
「何? リッカ。私をそんなに見つめて。感動のあまり――キスをしたくなってしまったのかしら?」
「いえ、その――全然、違います」
「え?」
私の言葉を聞き、お嬢様はとても驚かれた顔をなさいました。
「あんたの中には、誰一人犠牲は出さないというプライドはないわけ?」
「何、守られたいのかしら?」
「違うわよ!」
「それなら、何も問題ないと思うのだけれど」
ニーナ様はため息を吐かれます。
「シオン様、これはSランクへの初依頼という認識でよろしいですか?」
「ええ、ニーナさん。その認識で問題ありません」
「依頼内容は? ただ、その場に向かうだけではないんですよね?」
「それは、勿論です」
「赤印の場所は、人里離れた山脈地帯だと認識しているんですが」
「ええ、その通りです。その周辺にとある研究施設があります。皆さまには、その研究施設へ乗り込み、破壊してください」
「それは――私たちが行うべき依頼なんですか?」
「その研究には、ベルエール家が関わっていると推測しています」
「……なるほど、そう言うことですか」
ニーナ様は、鼻で笑われました。
「分かりました。そのお話、引き受けます」
「詳しい話は追って、ブレスレットの方へ情報を送りますのでご心配なく。それと、その場所には頼りとなる助っ人も呼んでいますので、ちょっとしたご旅行の気分でよろしいかと」
王女様は両手を叩いたあと、可愛らしく首を傾けました。
「他の皆さまも、了承していただけますでしょうか?」
王女様の言葉を聞き、お嬢様は口を開かれました。
「……シオン様は、本当にこの依頼に危険はないとお考えなのでしょうか?」
「ええ、私に嘘はありません」
お嬢様は、少しの時間思案されました。
「――分かりました。断った後のほうが、面倒な話になりそうですから、私もその話、引き受けます」
「お、オラも、大丈夫っす。……本当は、嫌っすけど」
「――ネーヴェ、あんたはどうなの? あんたは別に、この依頼へ参加する必要性は特にないわよ」
「まさか、ニーナ様が行くのに私が参加しない理由等ありえません」
「――そう、好きにしなさい」
「はい、好きにいたします。ニーナ様の心と身体をほぐすのはこの私だけの役目ですから」
「そんな役目を許した覚えはないわよ」
「なんと……」
「なんで驚いているのよ」
お嬢様は、私の方へ身体を向けました。
「リッカ、あなたも問題ないのよね?」
「当然であります。だって、お嬢様が側にいてくださるんですから」
「リッカ!」
「だから、このような場所でまでいちゃつこうとするな!」
私へ抱きつこうとしたお嬢様を、ニーナ様は必死に止めていただけました。
「とりあえず、作戦開始は明日の早朝からです。皆様どうぞよろしくお願いいたしますね」
王女様の笑顔で、この場はお開きとなりました。
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