第5章
第66話 はじまり
実技試験の日から、1ヶ月が過ぎました。
週5日、朝は筆記の授業で、昼は実技の授業となります。
6日目は、各自実技の実習となります。校内には異空間部屋と呼ばれる場所がありまして、扉を開けると身につけたブレスレットによってそれぞれ違う空間へと飛ばされます。そこは、各生徒による研究室でもあり、とても豊富な研究器材などが揃っているみたいです。その場所にいけるのは、生徒さんたちに渡されたブレスレットのみとのこと。従者が身につけたアクセサリーでは、入ってもただの何もない室内となります。そのため、従者たちはその時間、ひたすらご主人の帰りを待ち続けるのであります。
そして、週最後の7日目は休日ですが、ほとんどの皆さんは部屋で筆記の実習に時間を使われるようです。お嬢様も当然、図書室から本を借り、机に座って頑張っておられます。
私はやはり、頑張っているお嬢様の背中をみるのが大変――大好きです!
休憩時間になると、お嬢様は私に抱きついてきます。あ、別にエッチなことはしませんよ? 本当にただ、私に抱きつき、頬などを”すりすり”としてくるだけです。後は、膝枕をしてお嬢様の頭を撫でるだけの――そんな、のんびりとした優しい時間です。そう、本当にそれだけのはずなのですが、時々――お嬢様は我慢できないと言って私を押し倒し――そのぉ、お恥ずかしながらエッチなことをしてきます。とても和やかな雰囲気だったはずなのに、お嬢様はいきなり豹変します。そして、お嬢様は言います。私のせいなのだと。未だに、何が悪かったのか、馬鹿な私には分からないのです……。
* * *
王女様からお話があるため学院室まで向かうよう――先生から伝えられました。
呼ばれたのは――お嬢様とニーナ様、ネネさんの3人だけではなく、私とネーヴェさんも招集のメンバーの中に入っていました。それは予想外だったため、私は驚いてしまいます。
私はドキドキしながらお嬢様たちの後に続き、学院室まで向かうこととなりました。
校舎は学院の真ん中付近にあり、食堂である建屋の隣となります。
1年生と2年生、そして3年生の校舎はそれぞれ別の建屋となっているのですが、コの字型に配置されており、直角に交わった三叉路の渡り廊下があります。その中に先生たちの使う部屋があり、その通路のちょうど真ん中に学院長室がありました。
とても重々しく立派な扉を、ニーナ様がノックいたしました。すると、ひとりでに戸が開きます。
中は、重厚な雰囲気がありました。
部屋の真ん中には円卓の机があり、装飾付きの立派な椅子が10以上並んでおります。
奥にはさらに机がありました。その上には書類がたくさん積まれており、その隙間から王女様の顔が見えます。その後ろには、メイドさんがお一人いて、それは――試験のときにもいたあの子でした。私と同じ茶色い髪ですが、私と違いくせ毛のない綺麗な髪は腰まで伸びており、とんでもない美少女だなぁと、惚れ惚れとしてしまいます。
「ようこそ、皆さま」
そう言って、王女様は立ち上がり両手を広げました。
歓迎モードの中、お嬢様たちは中へと入ります。私とネーヴェさんは一拍間を置いてから後に続きました。
「そして、ネネ。昨日ぶりですね」
そう言って、王女様はネネさんに向かいウインクをしました。
「い、意味深に言わないでくださいっす」
「意味深く捉えると言うことは、ネネの中に後ろめたい出来事があるからですよね?」
「そんな訳ないっす。濡れ衣っす!」
ネネさんの言葉を聞き、王女様はくすくすと笑われます。そのお姿を見て、メイドさんは一瞬、ムスッとした顔をなされましたが、すぐに表情を引き締められました。
「シオン様、話があるのなら早くしてください」
「あら、アリーシャ。もしかして嫉妬しているのですか? 心配はありません。あなたのこともちゃんと、愛していますから」
「……帰っても、よろしいですか?」
「ふふふ、駄目に決まっていますよ、アリーシャ」
そう言って、王女様はこちらへと向かいます。円卓の机の前で足を止められますと、メイドさんが椅子を引き、王女様は優雅に座りました。
「さぁ、皆さまもどうぞお座りください。少し――話が長くなりますから」
我先にと、ニーナ様はご自身で椅子を引き、腰掛けられました。その後、お嬢様はニーナ様の右側に、ネネさんはニーナ様の左側に座ります。椅子一個分のスペースを空けて。
「リッカさんとネーヴェさんも、どうかお座りください」
私とネーヴェさんはお互いの顔を見た後、それぞれ主人のほうへと視線を向けました。
お嬢様とニーナ様は私たちを見て頷きます。
ネーヴェさんはニーナ様とネネさんの間を選びました。私は少しだけ悩んだ後――お嬢様とニーナ様の隣の席に座ります。
すると、お嬢様は何故か不機嫌そうな顔となります。
「……リッカ、何故ニーナの隣に座るのかしら?」
え?
私――お嬢様の隣でもありますが!?
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