第63話 パーティ

 目的の場所へ着き、馬車からおりました。


「立派なお屋敷です。どんな人が住んでいるんですかね?」


 白い門から見える白いお屋敷はとても上品です。


「リッカの嫌いなランスが住んでいるわ」

「え? ランス様のお屋敷なんですか!?」


 ランス様――アレックス様の、一番のご親友。そして、私に婚約を申し込もうとしてくれた方。でも、直接言われた訳ではないので、未だに半信半疑ではあるのですが……。

 

「正確には、リッカが大嫌いなランスの父君のお屋敷よ」

「あ、あの――私、ランス様のことを嫌いだなどと言ったことはないかと、思うのですが……」

「では、好きだと言うの!?」

「お、お嬢様ほどではないですから!」


 その言葉で、お嬢様は何とか落ち着いていただけました。


「でも、あれ? 昔伺ったランス様のおうちは王都にはなかったような気がしますが?」

「あれは、別荘よ。ここじゃない」

「な、なるほど。あれは別荘だったんですね」


 昔はお嬢様とアレックス様に付き添い、よく色んな方のパーティに参加していました。遠くても馬車で1日以内の場所だったと記憶しております。そのような催しの参加も、お嬢様が12歳になる頃にはなくなってしまいました。お嬢様がそのようなものに参加することを拒否するようになったからです。アレックス様は気を利かして、お嬢様の代わりに私だけでも参加するように言ってくれましたが、私は恐れ多くも断りました。お嬢様が鬼のように怒るから――という理由もありはしましたが、お嬢様がいないのなら私も特に参加したいという気持ちはありませんでしたから。


 それ以来、時々アレックス様がランス様をクレイワース家にお呼びし、小さなパーティを開きました。お嬢様だけでなく私まで参加させていただき――本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。


 そんな、懐かしい記憶を思い出していると――門が開き、メイドさんお二人が凄く丁寧な対応をしてくれまして、お屋敷の方まで案内していただけました。


 お屋敷に入ると、アレックス様が出迎えてくれます。


「やぁ、久しぶりだね。2人共、元気だったかい?」


 お嬢様はふいっと、そっぽ向かれます。


「お、お嬢様も、私も元気でありましたよ!」

「そうかい、それは良かった」


 とても爽やかな笑顔を向けていただけます。


 お嬢様と同じく薄く美しい金色の髪はサラサラとしており(お嬢様の髪はついつい触りたくなるようなふわふわロングヘアーであります!)大きなお目々から覗く青い目は、輝いて見えます。


 相変わらず、オーラが凄いと思いました。


 まさに王子様オーラです。


 ノース寮の王子様はセシリア先輩ですが、私が初めて王子様だーと、感動した相手はまさに、アレックス様であります。


「それにしても、まさか普段着で来るとはね」


 そう言って、アレックス様はお嬢様の方に視線を向けます。


 確かに、お嬢様は普段着の青いワンピースドレスです。お嬢様は何を着ても完璧なため、何も気になりませんでした。さ、流石に、パーティ用ではなかったのかもしれません。


 私は、あわあわとしてしまいます。


「アリーシャ、リッカにはメイド服ではなくドレスを着てくるように書いたつもりだけど?」


 え?


「そうですか? どうやら、気づかなかったみたいですね。まことに残念です」


 お嬢様の言葉に、アレックス様は笑いました。


「どーせそんなことだろうと思い、こっちで準備はさせておいたよ」

「……どう言う、意味でしょうか?」


 お嬢様が眉を寄せました。

 

「言葉通りの意味さ。それでは、計画通りに頼むよ」

「はい」


 アレックス様の言葉に、先ほどまで案内をしてくれたメイドさんのひとりが返事をしました。


「それではリッカ様、こちらへ」


 状況を理解できない私は、混乱してしまいました。


「駄目よ、リッカ」


 と、お嬢様はプンプン顔で仰いました。


「気にすることはないよ、リッカ。この猛獣は僕が責任を持って抑えておくから」


 そう言って、アレックス様はお嬢様の首根っこを掴まれました。


「お兄様!」


 お嬢様は抗議の声を上げます。


「アリーシャ、このパーティの主旨は理解しているはずだろ」


 その言葉を聞き、お嬢様は大人しくなります。――が、恨みがましく私を睨んできます!


「ほら、リッカ。気にしなくても大丈夫だから、行っておいで」

「リッカ様、さぁこちらへ」


 メイドさんとアレックス様は笑顔で私を見てくれますが、お嬢様は相変わらず私を威嚇しております。


「悪いけど、リッカを引っ張って貰ってもいいかな?」

「分かりました。それではリッカ様、お手を失礼しますね」


 メイドさんから手を引っ張られます。


「リッカ、それは浮気よ!」


 お嬢様はアレックス様からゲンコツをくらい、大人しくなります。が――私をまだ睨みつけております!


 私はお嬢様の視線を背中に感じながらも――メイドさんに引っ張られるまま、足を動かすのでありました!

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